結婚のハードルは「出会い」と「経済力」

 日本の少子化現象には、若い世代の晩婚化が深くかかわっている。しかし、日本の若者の結婚意欲が大きく低下しているわけではない。日本の若い世代が結婚の意向をもちながらも結婚しない・できない背景には、「出会いの問題」と「経済的問題」の2つの要因が指摘されている(松田2016)。実際に、内閣府が20~49歳の未婚男女に現在結婚していない理由として最もあてはまる理由をたずねた結果をみても、「今は、仕事(または学業)に打ち込みたいから」(男性15.8%、女性13.1%)をあげた人が男女とも他国を大きく上回る一方で、男性では「適当な相手にまだ巡り会わないから」が25.0%、「経済的に余裕がないから」が12.5%と、他国に比べていずれも高い傾向にある(図表1)。

 そこで本稿では、日本の若い男性が結婚相手に求める条件や希望するライフコースに関する意識を分析し、若い男女の結婚やパートナーシップに対する価値観の変化の兆しについて考えてみたい。

デキる女がモテる時代
(画像=第一生命経済研究所)

男性で強まる「同い年志向」

 はじめに、国立社会保障・人口問題研究所が時系列で行っている調査から、結婚の意向をもつ若い世代が結婚相手に望む年齢差に関するデータをみてみよう(図表2)。

 2015年の調査結果をみると、男性では「同じ歳」をあげる人が41.8%で最も多く、「1~2歳年下」(14.9%)がこれに続いている。これに対して女性の場合、「1~2歳年上」をあげる人が29.6%で最も多いものの、「同じ歳」(28.4%)が僅差でこれに続く。男女で順序は異なるものの、男性では「1~2歳年下」と「同じ歳」、女性では「1~2歳年上」と「同じ歳」を合わせた場合、どちらも半数を超える。1987年からの変化に注目した場合、男性では年下の相手を希望する人が大きく減少する一方、「同じ歳」を希望する「同い年志向」の人が1987年当時に比べて30ポイント以上も増えている。女性でも「同い年志向」の人が1987年当時に比べて20ポイント近く増えていることを確認できる。

デキる女がモテる時代
(画像=第一生命経済研究所)

結婚相手に求める条件の変化―相手の「経済力」を重視・考慮する人が男性でも増加

 続いて同じ調査から、結婚の意向をもつ若者が、結婚相手に関して重視・考慮する条件についての回答結果をみてみよう。この設問では、①人柄、②経済力、③職業、④容姿、⑤学歴、⑥家事・育児の能力、⑦仕事への理解、⑧共通の趣味という8つの面について、結婚相手の条件として考慮・重視する割合をたずねたものである。図表3に示すように、重視・考慮する人の合計割合がもっとも高いのは男女とも「①人柄」であり、男性で95.2%、女性では98.1%を占める。一方、2位以下の傾向は性別で異なり、男性では「⑥家事・育児の能力」(92.8%)、「仕事への理解」(88.2%)が続き、第4位の「④容姿」(84.2%)までが8割を超えるが、女性では「⑥家事・育児の能力」(96.1%)、「②経済力」(93.3%)、「⑦仕事への理解」(93.2%)が続き、「③職業」(85.4%)までが8割を超える。

デキる女がモテる時代
(画像=第一生命経済研究所)

 男女を比較すると、第一に女性の方が、多くの条件に関して重視・考慮する割合が高いこと、第二に「⑥家事・育児の能力」「④容姿」「③職業」「②経済力」のすべてにおいて、男女の双方で重視・考慮する割合が高まる傾向にあることを確認できる。特に男性では、この10年ほどの間に、相手の「②経済力」や「③職業」を重視・考慮する人が増えている傾向が注目される。

男性がパートナーに望むライフコース~「再就職」「両立」コースへの支持

 「⑥家事・育児の能力」や「④容姿」に比べれば依然低いものの、男性でも女性と同じように結婚相手の「②経済力」や「③職業」を考慮する人が少しずつ増加していることは何を意味するのだろうか。この点について考えるため、同じ調査から、独身男性がパートナーに望むライフコースに関する回答結果をみてみよう(図表4)。設問文は「パートナー(あるいは妻)となる女性にはどのようなタイプの人生を送ってほしいと思いますか」というものであり、回答の選択肢には「専業主婦コース」「再就職コース」「両立コース」「DINKSコース」「非婚就業コース」の5つがある(それぞれのライフコースに関する詳細は図表脚注を参照)。なお、この質問は男性にしかたずねられていない。

デキる女がモテる時代
(画像=第一生命経済研究所)

 これをみると、1987年には「専業主婦コース」と「再就職コース」がどちらも4割弱を占めて人気を二分していたが、「専業主婦コース」は2015年調査にかけて約1割まで激減し、「再就職コース」と「両立コース」が人気を二分するようになっている。「DINKSコース」や「非婚就業コース」の割合はわずかに増加しているが、先の3つのコースを望む人に比べると少数派にとどまっている。

 つまり、男性では、パートナー(あるいは妻)となる女性に、出産や子育てを経ても働き続けたり、出産や子育てでいったんは仕事を中断したとしても再び働いて、自身とともに家計を担ってくれるようなライフコースを望む傾向が強まっていると考えられる。

デキる女性がモテる時代へ

 ここまでみてきたように、男性が期待する女性とのパートナーシップの形は、自分より年下の女性を自分1人の収入で経済的に支えていくというよりは、年齢的にも近い相手と、家計をともに支えあっていく関係性を望む傾向が強まっている。また、男性にとって結婚相手となる女性の経済力や職業は、女性が男性に期待するほどではないものの、少しずつ考慮・重視されるようになってきている。

 結婚の意向をもつ女性からみると、家事・育児の能力や容姿を期待される傾向には変化がみられないものの、これらに加えて経済力や職業が新たなアピールポイントになる時代に近づいていると考えられる。家事・育児や容姿の面だけでなく、家計の面でも共に支えてくれるような、仕事もデキる女性がモテる時代といえそうである。

 一方、結婚の意向を持つ男性からみると、経済力や職業もさることながら、家事・育児の能力や仕事への理解、容姿などが重視される時代に近づいていると考えられる。

 経済力や家事・育児の能力、仕事への理解は、すでに9割を超える女性が求める条件であることをふまえると、結婚相手の仕事と子育ての両立を支えやすい働き方のできる仕事に就くことや、身だしなみに気をつけることなどが、男性の新たなアピールポイントになっていくのではないだろうか。

【参考文献】
・松田茂樹「第3部 調査結果の解説 第5章 総括」,内閣府『平成27年度調査少子化社会に関する国際意識調査報告書』2016年3月
・北村安樹子「未婚者の結婚意思とライフコース」『Life Design Report』(Winter 2017.1).

上席主任研究員 北村 安樹子
(研究開発室 きたむら あきこ)