定年に関するアンケート調査より

 第一生命ホールディングス株式会社(社長 渡邉 光一郎)のシンクタンク、株式会社第一生命経済研究所(社長 矢島 良司)では、男女1,000 人に対して「定年に関するアンケート調査」を実施しました。このほどその調査結果がまとまりましたので、ご報告いたします。

 本リリースでは、当研究所ホームページにも掲載しています。
URL http://group.dai-ichi-life.co.jp/cgi-bin/dlri/ldi/total.cgi?key1=n_year

≪調査結果のポイント≫

60 代の就労パターン
●60代のうち定年退職を経験した人は、男性50.0%、女性28.0%

60 代の雇用形態の多様性
●60歳前後で再就職した人は、男女ともに正社員が約2割に留まり、男性では契約・嘱託社員(37.2%)、女性ではパート・アルバイト(52.1%)の方が正社員よりも多い

会社を退職した理由
●定年退職した人の退職理由の第1位は男女ともに「もう十分に働いたという達成感を感じているから」、第2位は男性「勤務先に再雇用制度や勤務延長制度がなかったから」、女性「自分の好きなことをして生活をしたいから」

60 歳以降も働いている理由
●「現在の生活を維持するため」が男性45.3%、女性46.1%で第1位

60 歳以降も働く上で重視すること
●男女ともに「仕事内容が自分に合っていること」が第1位であり、第2位は男性「職場の人間関係が良いこと」、女性「勤務地(自宅から近いこと)」

≪調査の概要≫

 少子高齢化が進む中、わが国経済の持続的発展のために今、国をあげて女性の活躍推進の取組が行なわれています。このまま女性正社員の継続就業が進むと、今後、男性同様、女性も長年勤めた会社で定年を迎える人が増えることが見込まれます。

 現状では、60 代前半の離職者のうち、「定年」を理由として離職する男性は2015 年で38.7%、女性は24.0%です(厚生労働省「平成27 年雇用動向調査」)。過去5年間の推移をみても、同じような傾向にあります。この年代の離職理由で最も多いものは、男性では「定年」ですが、女性の場合は「定年」ではなく「その他の個人的理由」(女性45.4%)です(図表省略)。このように女性の「定年」が男性に比べて少ないのは、そもそも女性は結婚・出産などのため就業中断や転職を繰り返し、定年退職が適用されない雇用形態で働いている人が多いためと思われます。今後、継続就業する女性正社員が増えれば、この傾向が変わり、女性も定年退職する人が増えることが見込まれます。

 こうした背景から、当研究所では女性正社員の定年退職前後の就労実態と意識を明らかにするため、50 代後半の正社員(勤続15 年以上)、並びに60 歳まで正社員として働いていた60 代の男女1,000 人を対象にしてアンケート調査を実施しました。この結果から本稿では、女性正社員は定年退職に至るまでどのように働き、定年前後でどのように働き方を変えるのか、女性の定年前後の就労実態や意識を分析し、今後増えるであろう女性正社員の定年前後の働き方の変化を明らかにします。

≪調査概要≫

1.調査対象 全国の55~69 歳の男女1,000 人(男性500 人、女性500 人)
55~59 歳については勤続15 年以上の正社員を抽出し、60~69 歳(以下「60 代」)については60 歳まで正社員として働いていた人(本調査時点での就労状況は問わない)を抽出した。

2.調査方法 インターネット調査(株式会社クロス・マーケティングのモニター)

3.調査時期 2016 年10 月

4.回答者の属性(婚姻状況)

女性の定年退職前後の働き方と意識
(画像=第一生命経済研究所)

60代の就労パターン

60 代のうち定年退職を経験した人は、男性50.0%、女性28.0%

女性の定年退職前後の働き方と意識
(画像=第一生命経済研究所)

 60歳時点では正社員であった人々が、60歳を境にどのように働き方が変わったのでしょうか。本調査では、図表1のように60代の就労状況を「その他」を除き①~⑦の7パターンに分類しました。①~③は定年退職を経験した場合です。④と⑤は定年前に退職した人です。⑥は定年年齢が60歳以上の企業に勤めている人を、また⑦は定年がなく働いている人々を想定しました。⑧の「その他」にはフリーランスや役員などの記述がみられました。

 60代の男女の現在の就労状況をみますと、男性は①~③を合わせると50.0%が定年退職を経験しています。女性は、この①~③の合計割合は28.0%であり、「⑦定年はなく、同じ会社で働いている」が最も多く39.3%です。このように女性で⑦の回答者が多い背景の一つには、勤務先の企業規模が関連していると思われます。厚生労働省「平成27年就業条件総合調査」によれば、そもそも企業規模が小さいほど定年制度がない企業が多いです。実際、現在の勤務先の企業規模別に就労状況をみると、小規模企業に勤務している人ほど⑦の回答割合が男女ともに高く、しかも女性の方が小規模企業に勤めている割合が男性よりも高いことを考え合わせると、小規模企業に勤めている女性を中心に⑦を回答した可能性があります。こうしたことから、現在60代の女性が男性よりも定年退職が少ないのは、そもそも出産などのため就業中断を経験し、定年制度のない小規模企業に転職した女性がいることの他、定年で退職をせずに勤務延長する女性も多いためであると推察されます。

60代の雇用形態の多様性

60 歳前後で再就職した人は男女ともに正社員が約2割に留まり、男性では契約・嘱託社員(37.2%)、女性ではパート・アルバイト(52.1%)の方が正社員よりも多い

女性の定年退職前後の働き方と意識
(画像=第一生命経済研究所)

 60 代男女の現在の就労状況と雇用形態との関連をみたものが図表2です。

 男女ともに就労状況によって雇用形態が異なっていることがわかります。60 歳前後で再就職した人は、男女ともに正社員は約2割に留まり、男性では契約・嘱託社員(37.2%)、女性ではパート・アルバイト(52.1%)の割合の方が正社員よりも高いです。再就職をした場合には、男女ともに雇用形態が正社員から非正規社員に変わる人が多いようです。

 定年退職後、継続雇用で働いている人は、男女ともに、そのまま正社員として働いている人が5割前後、「契約・嘱託社員」に雇用変更した人が約4割となっています。

 このように、60 代には定年退職経験の有無の他、その前後の再就職など、様々な就労パターンがあります。女性の場合、図表1で示したように60 代でも定年を経ずに働いている人が多いですが、その多くは正社員のまま、あるいは一部、パートなどに雇用変更して働き続けている人が多いことがわかります。

会社を退職した理由

定年退職した人の退職理由の第1位は男女ともに「もう十分に働いたという達成感を感じているから」、
第2位は男性「勤務先に再雇用制度や勤務延長制度がなかったから」、女性「自分の好きなことをして生活をしたいから」

女性の定年退職前後の働き方と意識
(画像=第一生命経済研究所)

 定年退職した人(図表1における②と③の回答者)、及び定年前に退職した経験のある人(同じく④と⑤の回答者)は、なぜ退職したのでしょうか。退職理由をたずねた結果を性・退職状況別に示したものが図表3です。

 男性全体では、「もう十分に働いたという達成感を感じているから」(以下「もう十分働いた」)が最も高く25.0%を占めています。

 女性全体でも「もう十分働いた」の回答割合が最も高く31.5%を占めていますが、この他の項目をみると、「自分の好きなことをして生活をしたいから」(以下「自分の好きなこと」)や「仕事を続けていくことに疲れたから」(以下「疲れた」)「職場の人間関係が良くないから」(以下「職場の人間関係」)は男性の回答割合を2倍以上うわまわっています。この背景には、「定年前」に退職した人の退職理由は男女で大きな違いはみられませんが、定年退職をした人の理由が男女で大きく異なっていることが関連していると考えられます。

 定年退職した人に注目し、性別比較をしますと「勤務先に再雇用制度や勤務延長制度がなかったから」の回答割合は男女とも同程度ですが、「自分の好きなこと」や「疲れた」、「職場の人間関係」の回答割合は男性よりも女性の方が圧倒的に高いことがわかります。反対に「会社の経営上の都合のため」は女性よりも男性の方が高いです。

 女性の場合、もう十分に働いたという達成感や体力的な理由も多いですが、自己の選択で定年退職の道を選ぶ人が多いという特徴がみられます。

60歳以降も働いている理由

「現在の生活を維持するため」が男性45.3%、女性46.1%で第1位

女性の定年退職前後の働き方と意識
(画像=第一生命経済研究所)

 60 代で働いている人の働いている理由について、性・就労状況別にみたものが図表4です。男性では「現在の生活を維持するため」(以下「生活維持」)(45.3%)が最も多く、これに「将来の生活の安定のため」(16.7%)と「現在の生活水準を上げるため」(4.3%)を合わせた経済的理由で働いている人の割合が66.3%です。女性も「生活維持」(46.1%)が最も多く、上記のように経済的理由を示す項目を合わせた割合は59.5%です。男性のみでなく女性も約6割の人が経済的理由のために働いています。

 就労状況別にみますと、男女ともに60 歳前後で再就職した人は上記の経済的理由が5割前後であり、残りの約半数が「社会とのつながりをもつため」や「人の役に立ちたいため」「生きがい・健康のため」といった非経済的理由で占められています。60 歳前後で再就職した人の中には、定年退職や早期退職して退職金が支給されている人もいると思われることから、経済的理由で働いている人が相対的に少ないと推察されます。他方、定年を経ないで働いている人や定年退職後、継続雇用で働いている人をみると、「生活維持」をはじめとした経済的理由の回答割合が男性では7割前後、女性では約6割と高いです。特に女性の場合、60 歳前後で再就職した人は、経済的な必要性が高くない人も含まれていることもあり、これまでの働き方を変えて無理をせずに自分の心身の健康を考慮して働いているようです。

60歳以降も働く上で重視すること

男女ともに「仕事内容が自分に合っていること」が第1位であり、第2位は男性「職場の人間関係が良いこと」、女性「勤務地(自宅から近いこと)」

女性の定年退職前後の働き方と意識
(画像=第一生命経済研究所)

 60 歳以降も働き続けるにあたり、60 代の人々はどのようなことを重視しているでしょうか。性・就労状況別にみたものが図表5です。

 男性は「仕事内容が自分に合っていること」(以下「仕事内容」)が最も多く、「職場の人間関係が良いこと」(以下「人間関係」)、「賃金が望む金額であること」(以下「賃金」)が続いています。就労状況別では、60 歳前後で再就職した人は他よりも「勤務時間を柔軟に決められること」(以下「勤務時間の柔軟性」)や「勤務時間が少ないこと」の回答割合が高いです。他方、定年退職後、継続雇用で働いている人は他よりも「賃金」や「雇用が安定していること」(以下「雇用の安定」)などの回答割合が高いです。

 女性は「仕事内容」に続いて「勤務地(自宅から近いこと)」(以下「勤務地」)が上位です。就労状況別では、60 歳前後で再就職した人は特に「勤務地」や「勤務時間が少ないこと」の回答割合が高く、定年退職後、継続雇用で働いている人は「賃金」や「雇用の安定」などの回答割合が他の就労状況に比べて高いです。こうした傾向は男性とほぼ同様です。

 60 歳以降も働き続けるにあたっては、男女差というよりも就労状況によって重視する内容が異なっていることがわかります。それは先に述べた働く理由と関連しているものと思われます。女性の場合、再就職をしている人は経済的理由から働く人が相対的に少ないために勤務地の近さや勤務時間の柔軟性などの働きやすさを、継続雇用で働いている人は経済的理由から働く人が多かったため、賃金や雇用の安定性など経済面も重視して働いていると推察されます。

≪研究員のコメント≫

 以上、定年退職前後の人々の働き方と意識をみてきました。

 本調査では、男性は転職をしないで50 代を迎える人が多くみられましたが、女性は多くの人が転職を経験しています(図表省略)。また60 歳時点では正社員であった人の60 歳以降の就労パターンをみますと、男女ともに無職者は約1割程度であり、大多数は就労しています。男性は定年退職後、継続雇用で働いている人(図表1の①)、60 歳前後で再就職した人(同②と⑤)、定年を経ないで働いている人(同⑥と⑦)がそれぞれ約4分の1ずつでした。女性は定年退職後、継続雇用で働いている人と60 歳前後で再就職した人が15%ずつであり、定年を経ないで働いている人が約半数を占めています。現在の60 代女性の場合、出産などのため就業中断を経験し定年制度のない小規模企業に転職して働き続けている人や、定年で退職せず勤務延長により正社員のまま、もしくはパート等に雇用変更して働き続けている人が多いものと思われます。

 現状、60 歳時点で正社員であった女性は、転職を経験しながら定年を経ずに今も働いている人が多いですが、今後、多くの女性が正社員として継続就業し、定年退職を経験するようになれば、継続雇用のみならず、定年を機に再就職の道を選択するなど、女性の定年前後の就労パターンも多様化すると思われます。そうした場合、勤務地の近さや勤務時間の短さを求める人のみならず、賃金や雇用の安定性を重視して働く女性も多くなることが見込まれます。

 現在、わが国では長時間労働の是正などのために働き方改革が進められていますが、上記のことを考慮し、公的年金の先行きに不透明感の増す中で、できる限り働き続けることができる社会の構築のため、60 歳以降の雇用のあり方をどうするか、働き方改革のもう一つの視点として検討する必要があると思います。(提供:第一生命経済研究所

株式会社 第一生命経済研究所
研究開発室 上席主任研究員 的場康子

㈱第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部
研究開発室 広報担当(津田・関)
TEL.03-5221-4771
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【URL】http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/ldi