目次

1.はじめに
2.定年退職前後の就労状況
3.定年退職前後の働き方に関する意識
4.女性の定年退職者のニーズに合わせた雇用の受け皿の必要性

要旨

①少子高齢化が進む中、わが国経済の持続的発展のために今、国をあげて女性の活躍推進の取組が行なわれている。このまま女性正社員の継続就業が進むと、今後、男性同様、女性も長年勤めた会社で定年を迎える人が増えることが見込まれる。そこで当研究所では、女性正社員の定年前後の就労実態と意識を明らかにするため、50代後半の正社員(勤続15年以上)、並びに60歳まで正社員として働いていた60代の男女1,000人を対象にしてアンケート調査を実施した。

②60歳時点では正社員であった60代の人々の現在の就労状況を性別にみると、男性は約半数が定年退職を経験しているが、女性は定年退職を経験せず同じ会社で働き続けている人が多い。これは、そもそも出産などのため就業中断を経験し、定年制度のない小規模企業に転職した女性が多いことの他、定年で退職をせずにパートなどに雇用変更するなどして勤務延長する女性も多いためであると推察される。

③また、60代の人々の会社を退職した理由は、男女ともに「もう十分に働いたという達成感を感じているから」(男性25.0%、女性31.5%)が最も多く、次いで「自分の好きなことをして生活をしたいから」(男性11.6%、女性24.7%)などが続いている。

④今後、多くの女性正社員が継続就業し、定年退職を経験するようになれば、継続雇用のみならず、定年を機に再就職の道を選択するなど、女性の定年前後の就労パターンも多様化すると思われる。そうした場合、賃金や雇用の安定性の他、勤務地の近さなど働きやすさを重視して働く女性も多くなる。こうしたことを考慮し、公的年金の先行きに不透明感の増す中で、できる限り働き続けることができる社会の構築のため、60歳以降の雇用のあり方をどうするか、働き方改革の一つの視点として検討する必要がある。

キーワード:女性活躍推進、定年退職、働き方改革

1.はじめに

(1)女性の活躍推進の先にある女性の定年退職

 少子高齢化が進む中、わが国経済の持続的発展のために今、国をあげて女性の活躍推進の取組が行なわれている。このまま女性正社員の継続就業が進むと、今後、男性同様、女性も長年勤めた会社で定年を迎える人が増えることが見込まれる。

 現状では、60代前半の離職者のうち、「定年」を理由として離職する男性は2015年で38.7%、女性は24.0%である(図表1)。過去5年間の推移をみても、同じような傾向にある。この年代の離職理由で最も多いものは、男性では「定年」であるが、女性の場合は「定年」ではなく「その他の個人的理由」である。このように女性の「定年」が男性に比べて少ないのは、そもそも女性は結婚・出産などのため就業中断や転職を繰り返し、定年退職が適用されない雇用形態で働いている人が多いためと思われる。今後、継続就業する女性正社員が増えれば、この傾向が変わり、女性も定年退職する人が増えることが見込まれる。

 こうした背景から、当研究所では女性正社員の定年退職前後の就労実態と意識を明らかにするため、50代後半の正社員(勤続15年以上)、並びに60歳まで正社員として働いていた60代の男女1,000人を対象にしてアンケート調査を実施した。この結果から本稿では、女性正社員は定年退職に至るまでどのような働き、定年前後でどのように働き方を変えるのか、女性の定年前後の就労実態や意識を分析し、今後増えるであろう女性正社員の定年前後の働き方の変化を明らかにする。

女性の定年退職前後の働き方と意識
(画像=第一生命経済研究所)

(2)アンケート調査の概要

 アンケート調査の概要は図表2の通りである。定年退職前後の意識をたずねる調査であるため対象年齢を55歳から69歳までとした。なお55~59歳(以下「50代後半」)については、この年齢階級の平均勤続年数が男性22.7年、女性15.8年である(厚生労働省「平成27年賃金構造基本統計調査の概況」2016年2月)ことから、男女とも勤続15年以上の正社員を抽出した。また60~69歳(以下「60代」)については、現状では60歳を定年としている企業が多い(厚生労働省「平成27年就業条件総合調査結果の概況」2015年10月)ことから、60歳まで正社員として働いていた人(本調査時点での就労状況は問わない)を抽出した。

女性の定年退職前後の働き方と意識
(画像=第一生命経済研究所)

 回答者の属性として、婚姻状況を性・年代別にみたものが図表3である。

 男性では既婚(配偶者あり)が85.8%を占めるが、女性では既婚(配偶者あり)が51.4%、未婚が22.6%、離死別(離別と死別の合計)が26.0%となっている。総務省「平成27年国勢調査」によると、この年代の女性の既婚(配偶者あり)は7割以上、未婚と離死別の合計は3割以下である。これに比べ、本調査の未婚と離死別の割合が高いのは、先述の通り、サンプル抽出にあたって正社員を多く抽出したことによると思われる。正社員として働く人の中に未婚や離死別の女性が多く含まれていることが考えられる。

女性の定年退職前後の働き方と意識
(画像=第一生命経済研究所)

2.定年退職前後の就労状況

(1)現在の雇用形態

 回答者の現在の雇用形態を性・年代別にみたものが図表4である。

 本調査の対象は、50代後半については全て正社員として働いている人である。男性は「一般社員」が45.5%であり、「管理職」が42.5%、「経営者・役員」が12.0%となっており、管理職以上が半数以上を占めているのに対して、女性は「一般社員」(83.0%)がほとんどである。こうした管理職割合に男女差がみられるのは、本調査の対象者が男女雇用機会均等法の制定前から働いており、総合職と一般職など男女間で職掌が異なっていたことが一つの要因と考えられる。

 性別に過去の転職経験をみると、男性よりも女性のほうが「転職なし」(学校を卒業後、最初に勤務した会社で正社員として働き続けている)の回答者が少なく、「転職あり」が多い。女性は出産などのために就業中断をしている人が多いためと思われる。

 60代については、先述の通り、60歳時点で正社員であった人々を対象としている。本調査時点で「無職」と回答した人は男女ともに約1割であり、ほとんどの人が働いている。男性は「契約・嘱託社員」(22.7%)のほうが「一般社員」(19.0%)を上回り、「自営業」(15.7%)が続いている。女性は「一般社員」(28.0%)と「パート・アルバイト」(26.3%)とで半数以上を占めている。60歳時点では正社員であったが、定年退職などを経て、雇用形態が変化した人が多いことがわかる。次に、このように雇用形態が変わる背景の一つと思われる定年退職経験等の実態をみる。

女性の定年退職前後の働き方と意識
(画像=第一生命経済研究所)

(2)定年退職を経験しているか

1)60 代の定年経験
 60 歳時点では正社員であった人々が、60 歳を境にどのように働き方が変わったのか。本調査では、図表5のように60 代の就労状況を「その他」を除き①~⑦の7パターンに分類した。①~③は定年退職を経験した場合である。現状では60 歳を定年としている企業が多いことから、60 代の多くは定年退職を経験していると想定した。①は定年で一旦退職し勤務先の再雇用制度などを利用して働いている人である。定年前に退職をした人が④と⑤であるが、⑤は一旦退職した後に再就職をした人である。⑥は必ずしも全ての企業が60 歳定年ではないことから定年年齢が60 歳以上の企業に勤めている人を、また⑦は定年がなく働いている人々を想定した。この⑦については、定年制度が無い企業に勤務している人や定年退職しないで引き続き勤務延長制度を利用して働き続けている人なども含まれていると考えられる。⑧の「その他」には、フリーランスや役員などの記述がみられた。

 ちなみに、図表は省略するが勤続年数との関連をみると、男女ともに①⑥⑦の回答者は勤続年数が30 年以上など長い人が多く、②⑤の回答者は5年未満など短い人が多い傾向がある。なお、婚姻状況によって回答傾向に大きな違いはみられなかった。

女性の定年退職前後の働き方と意識
(画像=第一生命経済研究所)

 60 代の人々の現在の就労状況を性別にみると、男性は「①定年を経験し、その後も同じ会社で継続雇用されている」(25.7%)、「②定年を経験し、一旦退職したが、その後、別の会社に再就職した」(16.3%)、「③定年を経験し、引退して、現在働いていない」(8.0%)を合わせると半数が、定年退職を経験している。

 女性は、この①~③の定年退職を経験したことを示す項目の合計割合は28.0%である。最も多い回答は「⑦定年はなく、同じ会社で働いている」(39.3%)であり約4割を占めている。このように女性で⑦の回答者が多い背景の一つには、勤務先の企業規模が関連していると思われる。厚生労働省「平成27 年就業条件総合調査」によれば、そもそも企業規模が小さいほど定年制度がない企業が多い。実際、現在の勤務先の企業規模別に就労状況をみると、小規模企業に勤務している人ほど「⑦定年はなく同じ会社で働いている」と回答している人の割合が男女ともに高い。しかも女性の方が小規模企業に勤めている割合が男性よりも高いことを考え合わせると、小規模企業に勤めている女性を中心に「⑦定年はなく同じ会社で働いている」と回答した可能性がある。

 こうしたことから、現在60 代の女性が男性よりも定年退職が少ないのは、そもそも出産などのため就業中断を経験し、定年制度のない小規模企業に転職した女性がいることの他、定年で退職をせずに勤務延長する女性も多いためであると推察される。

2)就労状況別にみた雇用形態
 こうした60 代男女の現在の就労状況と雇用形態との関連をみたものが図表6である。これをみると、男女ともに就労状況によって雇用形態が異なっていることがわかる。60 歳前後で再就職した人は、男女ともに正社員は約2割に留まっており、男性は契約・嘱託社員、女性はパート・アルバイトの割合の方が高い。再就職をした場合には、男女ともに雇用形態が正社員から非正規社員に変わる人が多いようだ。定年退職後、継続雇用で働いている人は、男女ともに、そのまま正社員として働いている人が5割前後、「契約・嘱託社員」に雇用変更した人が約4割となっている。

 このように、定年退職の経験の他、その前後の再就職など、60 代には様々な就労パターンがあるが、女性の場合、60 代でも定年を経ないで働いている人が多く、その多くは正社員のまま、一部はパートなどに雇用変更して働き続けている人が多いことがわかる。

 以上が60 代男女の就労実態である。次に、定年退職前後の働き方に関する意識をみる。

女性の定年退職前後の働き方と意識
(画像=第一生命経済研究所)

3.定年退職前後の働き方に関する意識

(1)会社を退職した理由

 まず、定年退職をした人(図表5における②と③の回答者)、及び定年前に退職した経験のある人(同じく④と⑤の回答者)は、なぜ退職したのか、退職理由をたずねた結果を性・退職状況別に示したものが図表7である。

 男性全体では、「もう十分に働いたという達成感を感じているから」(以下「もう十分働いた」)が最も高く25.0%を占めている。

 女性全体でも「もう十分働いた」の回答割合が最も高く31.5%を占めているが、この他の項目をみると、「自分の好きなことをして生活をしたいから」(以下「自分の好きなこと」)や「仕事を続けていくことに疲れたから」(以下「疲れた」)「職場の人間関係が良くないから」(以下「職場の人間関係」)は男性の回答割合を2倍以上うわまわっている。この背景には、定年前に退職した人の退職理由は男女で大きな違いはみられないが、定年退職をした人の理由が男女で大きく異なっていることが関連していると考えられる。

 定年退職した人に注目し、性別比較をすると「勤務先に再雇用制度や勤務延長制度がなかったから」の回答割合は男女とも同程度であるが、「自分の好きなこと」や「疲れた」、「職場の人間関係」の回答割合は男性よりも女性の方が圧倒的に高い。反対に「会社の経営上の都合のため」は女性よりも男性の方が高い。

 女性の場合、達成感や体力的な理由も多いが、自己の選択で定年退職の道を選ぶ人が多いという特徴がみられる。

女性の定年退職前後の働き方と意識
(画像=第一生命経済研究所)

(2)60歳以降も働いている理由

 一方、60代で働いている人の働いている理由について、性・就労状況別にみたものが図表8である。

 男性全体では「現在の生活を維持するため」(以下「生活維持」)が最も多く45.3%である。これに「将来の生活の安定のため」(16.7%)と「現在の生活水準を上げるため」(4.3%)を合わせた経済的理由で働いている人の割合は66.3%となっている。

 女性全体も「生活維持」が46.1%と最も多く、上記のように経済的理由を合わせた割合は59.5%である。男性のみでなく女性も約6割の人が経済的理由のために働いている。

 次に就労状況別にみると、働く理由がそれぞれ異なっていることがわかる。男女ともに60歳前後で再就職した人は上記のような経済的理由が5割前後であり、残りの約半数が「社会とのつながりをもつため」や「人の役に立ちたいため」「生きがい・健康のため」といった非経済的理由で占められている。60歳前後で再就職した人の中には、定年退職や早期退職して退職金が支給されている人もいることから、経済的理由で働いている人が相対的に少ないと推察される。

 他方、定年を経ないで働いている人や定年退職後、継続雇用で働いている人をみると、「生活維持」をはじめとした経済的理由の回答割合が男性では7割前後、女性では約6割と高い。

女性の定年退職前後の働き方と意識
(画像=第一生命経済研究所)

 このように、60代で働いている人は男女差というよりも就労状況によって働く理由が異なるが、特に女性の場合、60歳前後で再就職した人は、経済的な必要性が高くない人も含まれていることもあり、これまでの働き方を変えて無理をせずに自分の心身の健康を考慮して働いているようだ。

(3)60歳以降も働く上で重視すること

 60歳以降も働き続けるにあたり、60代の人々はどのようなことを重視しているか。性・就労状況別にみたものが図表9である。

 男性は「仕事内容が自分に合っていること」(以下「仕事内容」)が最も多く、「職場の人間関係が良いこと」(以下「人間関係」)、「賃金が望む金額であること」(以下「賃金」)が続いている。就労状況別では、60歳前後で再就職した人は他よりも「勤務時間を柔軟に決められること」(以下「勤務時間の柔軟性」)や「勤務時間が少ないこと」の回答割合が高い。他方、定年退職後、継続雇用で働いている人は他よりも「賃金」や「雇用が安定していること」(以下「雇用の安定」)などの回答割合が高い。

 女性は「仕事内容」に続いて「勤務地(自宅から近いこと)」(以下「勤務地」)が上位である。就労状況別では、60歳前後で再就職した人は特に「勤務地」や「勤務時間が少ないこと」の回答割合が高く、定年退職後、継続雇用で働いている人は「賃金」や「雇用の安定」などの回答割合が他の就労状況に比べて高い。こうした傾向は男性とほぼ同様である。

女性の定年退職前後の働き方と意識
(画像=第一生命経済研究所)

 60歳以降も働き続けるにあたっては、男女差というよりも就労状況によって重視する内容が異なっている。それは先に述べた働く理由と関連しているものと思われる。

 女性の場合も、再就職をしている人は経済的理由から働く人が相対的に少ないために勤務地の近さや勤務時間の柔軟性などの働きやすさを、継続雇用で働いている人は経済的理由から働く人が多かったため、賃金や雇用の安定性など経済面も重視して働いていると推察される。

4.女性の定年退職者のニーズに合わせた雇用の受け皿の必要性

 以上、60歳前後の人々の就労実態並びに意識をみてきた。

 今回、男性は転職をしないで50代を迎える人が多かったが、女性は多くの人が転職を経験している(図表4)。また60歳時点では正社員であった人の60歳以降の就労パターンをみると、男女ともに無職者は約1割程度であり、大多数は就労している。男性は定年退職後、継続雇用で働いている人(図表5の①)、60歳前後で再就職した人(同②と⑤)、定年を経ないで働いている人(同⑥と⑦)がそれぞれ約4分の1ずつである。女性は定年退職後、継続雇用で働いている人と60歳前後で再就職した人が15%ずつであり、定年を経ないで働いている人が約半数を占めている。現在の60代女性の場合、そもそも出産などのため就業中断を経験し定年制度のない小規模企業に転職したり、定年で退職せず勤務延長により正社員のまま、もしくはパート等に雇用変更して働き続けている人が多いようだ。

 現状、60歳時点で正社員であった女性は、定年を経ないで今も働いている人が多いが、今後、多くの女性が正社員として継続就業し、定年退職を経験するようになれば、継続雇用のみならず、定年を機に再就職の道を選択するなど、女性の定年前後の就労パターンも多様化すると思われる。そうした場合、賃金や雇用の安定性を求める人のみならず、勤務地の近さや勤務時間の短さを重視して働く女性も多くなることが見込まれる。

 現在、わが国では長時間労働の是正などのために働き方改革が進められているが、上記のことを考慮し、公的年金の先行きに不透明感の増す中で、できる限り働き続けることができる社会の構築のため、60歳以降の雇用のあり方をどうするか、働き方改革のもう一つの視点として検討する必要がある。

 本稿では、今後増えるであろう女性正社員の定年退職を見込んで、まずは現状整理として60歳前後の就労パターンの実態と意識を分析した。これを踏まえ次稿では、女性の定年後の再就職にあたっての問題点や退職後の生活変化を明らかにして、女性活躍推進の先にある女性特有の定年問題を浮き彫りにしたい。(提供:第一生命経済研究所

上席主任研究員 的場 康子
(研究開発室 まとばやすこ)