第一生命保険株式会社(社長 渡邉 光一郎)のシンクタンク、株式会社第一生命経済研究所(社長 矢島 良司)では、従業員数300 人以上の民間企業に勤める正社員20~59 歳の男女1,000 人に対して、従業員の健康づくりへの勤務先の取り組みに関するアンケート調査を実施しました。このほどその調査結果がまとまりましたので、ご報告いたします。
本リリースは、当研究所ホームページにも掲載しています。 URL http://group.dai-ichi-life.co.jp/cgi-bin/dlri/ldi/total.cgi?key1=n_year
≪調査結果のポイント≫
自身の健康に対する関心 ●健康に関心がある人は4人に3人。 ●健康に関心を持った最大のきっかけは「体力・運動能力の低下」。
従業員の健康づくりに関する会社の取り組みとその利用等の状況 ●健康づくりに関するポスター等を会社で見た人は27%、研修等に参加した人は19%。 ●「健康ポイント制度」「健康づくりに関する従業員向けプログラム」「会社が提携・利用料等を補助している運動施設」の利用経験者は1割未満。 ●若い人、小規模の企業に勤める人、自身の健康に関心がない人で、取り組みを利用している割合が特に低い。
健康に気をつけるきっかけになった会社の取り組み ●最も健康に気をつけるきっかけになったのは「体の状態や食事・運動などのデータを記録・管理するツール」。
会社が従業員の健康づくりに取り組むことによる会社・従業員全体への効果 ●「従業員の医療費の削減」に効果があると思う人は6割。
従業員の健康づくりに関する会社の取り組みについての評価・意向 ●自分の会社が、従業員の「健康に配慮している」と思う人は28%、「健康づくりにもっと取り組むべき」と思う人は45%。
従業員の健康づくりに関する会社の取り組みの重要度 ●「従業員の心の健康づくりを促すこと」「従業員に対する啓発や情報提供をおこなうこと」が重要だと思う人は77%。
≪調査の背景と目的≫
健康長寿社会の実現がわが国の重要課題となる中、企業が人々の健康づくりに取り組むことを促す動きが広がっています。また、「健康経営」※という観点から、企業が従業員の健康づくりに取り組んだり、それを推進したりする動きもあります。
こうした動きと並行して、従業員の健康づくりへの取り組み状況等に関する企業対象の調査もおこなわれるようになっています。しかし、従業員が自身の勤務先の取り組みに対してどのような意識を持ち行動しているかについてはあまり明らかになっていません。
そこで、従業員対象のアンケート調査を実施し、従業員の健康づくりのために勤務先がおこなっている取り組みとその利用等の状況、および取り組みに対する評価・意向等をたずねました。その結果から、企業が従業員の健康づくりに取り組む上での課題などを検討します。
なお、この調査の結果は以下のレポートにも掲載され、当研究所ホームページで公開されています。
・「健康に関心を持つきっかけは?」『Life Design Focus』(2016 年6月) http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/pdf/ldi/2016/fc1606.pdf
・「健康づくりへの企業の取り組みに対する従業員の意識 ―民間企業の正社員に対するアンケート調査より―」『Life Design Report』(Summer 2016 年7月) http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/pdf/ldi/2016/rp1607c.pdf
※「健康経営」はNPO 法人健康経営研究会の登録商標
≪調査概要≫
調査方法 インターネット調査 (株式会社クロス・マーケティングに回答者の抽出および調査の実施を委託)
調査時期 2016 年3月末
調査対象 従業員数300 人以上の民間企業に勤務する20~59 歳の正社員
サンプル数 1,000 人
自身の健康に対する関心
健康に関心がある人は4人に3人。健康に関心を持った最大のきっかけは「体力・運動能力の低下」。
会社における健康づくりへの取り組みについての質問に先立ち、まずは自身の健康への関心について質問した結果を述べます。図表1の通り、自身の健康に関心がある(「かなり関心がある」+「ある程度関心がある」)と答えた人は、約4分の3(75.1%)にのぼりました。関心がある割合を性・年代別にみると、男女とも20・30 代より40・50 代の人のほうが高くなっています。
次に、自身の健康に対して関心があると答えた人に対し、どのようなことがきっかけで関心を持つようになったかたずねました。図表2の通り、最も割合が高かったのは「体力・運動能力の低下を感じたこと」(51.9%)です。次に、「体型などの外見が気になったこと」(39.5%)、「体調や体の症状が気になったこと」(29.7%)、「将来、病気になる不安を感じたこと」(27.4%)があがっています。体力や体型、体調などの健康状態に対する意識の高まりが、健康に関心を持つきっかけになりやすいことがわかります。
従業員の健康づくりに関する会社の取り組みとその利用等の状況①
健康づくりに関するポスター等を会社で見た人は27%、研修等に参加した人は19%。
最近1年間に、健康づくり(運動・食生活・睡眠・喫煙など生活習慣の改善や病気の予防など)に関する情報を、自分の会社の媒体で見たことがあるかたずねました。図表3の通り、「会社に貼られていたポスター等で見た」(27.0%)、「会社で配布・回覧された冊子・社内報・チラシ等で見た」(22.4%)がそれぞれ2割台でした。「見たことはない」と答えた割合は54.0%であり、見たことがある人の割合を上回っています。
次に、最近1年間に、健康づくりに関する従業員向けの研修・セミナーやイベント(以下、研修等)が自分の会社で実施されたか、実施された場合は参加したかどうかをたずねました。図表4の通り、研修等が「実施された」と認識している割合は34.0%ですが、「実施されたかどうかわからない」と答えた割合は44.0%であり、実施状況を把握していない人がかなりいます。また、研修等に「参加した」割合は全体の19.2%でした。参加した研修等の内容は、「運動・スポーツに関する内容」(39.1%)、「食生活・食習慣に関する内容」(38.0%)をはじめ、多岐に及んでいました(図表省略)。
また、体の健康に関して相談できる窓口が自分の会社にあるか、ある場合には最近1年間に自分の体の健康に関して相談したことがあるかどうかもたずねました。図表5の通り、「窓口がある」と認識している割合は67.6%であり、約3分の2を超えました。ただし、「相談したことがある」人は7.0%であり、実際に利用経験がある人は多くありませんでした。
従業員の健康づくりに関する会社の取り組みとその利用等の状況②
「健康ポイント制度」「健康づくりに関する従業員向けプログラム」「会社が提携・利用料等を補助している運動施設」の利用経験者は1割未満。
自分の会社において、図表6にあげる3項目の取り組みが実施されているか、実施されている場合には最近1年間に利用したことがあるかどうかをたずねました。結果をみると、3項目のいずれも「実施されている」と答えた割合は3割台、「実施されているかどうかわからない」と答えた割合は3割弱でした。また、「利用したことがある」と答えた割合はいずれも1割未満でした。
次に、自分の会社が提携・利用料等を補助している、もしくは所有・運営している運動・スポーツのための施設(以下、運動施設)があるか、ある場合には最近1年間に利用したことがあるかをたずねました。図表7の通り、会社が提携または利用料等を補助している運動施設が「ある」割合は50.7%と半数を超えましたが、それを「利用したことがある」割合は9.5%と1割に達しませんでした。これらに比べて、会社が所有または運営している運動施設が「ある」割合、それを「利用したことがある」割合はさらに低く、それぞれ39.9%、6.3%でした。
従業員の健康づくりに関する会社の取り組みとその利用等の状況③
若い人、小規模の企業に勤める人、自身の健康に関心がない人で、取り組みを利用している割合が特に低い。
図表3~7で述べた、健康づくりに関する会社の取り組みを利用した(または健康づくりに関する情報を見た、研修等に参加した、窓口に相談した)割合を、性・年代別、従業員数別、自身の健康に対する関心別に分析しました。その結果を図表8に示します。
性・年代別では男女ともほとんどの項目において40・50代より20・30代の割合のほうが低くなっています。従業員数別では、従業員数が少ない企業に勤務する人ほど割合が低い傾向にあります。また、自身の健康への関心別では、すべての項目において関心がある人より関心がない人の割合のほうが低いです。つまり、企業が提供する健康づくりに関する取り組みの利用等をおこなった割合がより低いのは、若い人、規模が比較的小さい企業に勤務する人、健康への関心がない人です。
健康に気をつけるきっかけになった会社の取り組み
最も健康に気をつけるきっかけになったのは「体の状態や食事・運動などのデータを記録・管理するツール」。
図表3~7で述べた、健康づくりに関する会社の取り組みを利用した(または健康づくりに関する情報を見た、研修等に参加した、窓口に相談した)人(以下、利用者)に対し、それぞれが自分の健康に気をつけるきっかけになったか、また健康づくりに役立ったかをたずねました。図表9の通り、健康に気をつけるきっかけになったと答えた割合が最も高かったのは、「自分の体の状態や食事・運動などのデータを記録・管理するツールを利用したこと」(25.3%)です。他のことについては、それぞれの利用者の1~2割台の人が健康に気をつけるきっかけになったと答えました。
健康づくりに役立ったと答えた割合が最も高かったのも、気をつけるきっかけになったことと同様に「自分の体の状態や食事・運動などのデータを記録・管理するツールを利用したこと」(20.9%)でした。その他のことが役立ったと答えた割合は2割未満です。
以上をまとめると、今回の調査で取り上げた取り組みの中では、「自分の体の状態や食事・運動などのデータを記録・管理するツールを利用したこと」に対する評価が比較的高くなっています。健康状態や生活習慣を目に見える形で示すと、健康づくりに対する意識を高める効果や健康を増進する効果があらわれやすいのかもしれません。ただし全体的にみると、それぞれの取り組みを利用した従業員の多くは、それらが健康に気をつけるきっかけになったとはあまり意識しておらず、健康づくりに役立ったという実感も持てていません。企業による従業員の健康づくりへの取り組みの効果が従業員自身に実感されるには、時間がかかると思われます。
会社が従業員の健康づくりに取り組むことによる会社・従業員全体への効果
「従業員の医療費の削減」に効果があると思う人は6割。
自分の会社が従業員の健康づくりに取り組むことによる、自分の会社や従業員全体への効果についてたずねました。
図表10にあげた5項目の中で、効果がある(「効果がある」+「ある程度効果がある」)と答えた割合が最も高かったのは「従業員の医療費の削減」(59.9%)です。ただし、他の4項目に対して効果があると答えた割合もほとんど差がなく、いずれも半数を超えています。前述のように、取り組みを利用したことによる自身への効果を実感している人は現段階では多いといえませんが、従業員全体や会社への効果に対しては一定の期待を持っているといえます。
従業員の健康づくりに関する会社の取り組みについての評価・意向
自分の会社が、従業員の「健康に配慮している」と思う人は28%、「健康づくりにもっと取り組むべき」と思う人は45%。
自分の「会社は従業員の健康に配慮している」と思うかどうかたずねたところ、図表11の通り、思う(「そう思う」+「どちらかといえばそう思う」)と答えた割合(28.2%)と、思わない(「そう思わない」+「どちらかといえばそう思わない」)と答えた割合(25.7%)が同程度となりました。自分の会社が従業員の健康に配慮しているとはそれほど感じていないといえます。
一方、自分の「会社は従業員の健康づくりにもっと取り組むべきである」と思うかという質問に対しては、思うと答えた割合(45.0%)がそう思わない割合(10.7%)を大きく上回りました。つまり、会社が健康づくりに取り組むことに対して否定的な人はほとんどいません。
ただし、どちらの項目においても「どちらともいえない」と答えた人が半数近くを占めています。自分の会社が従業員の健康づくりに関してどのような配慮や取り組みをおこなっているかについて十分な情報を持っておらず、それに取り組むべきか判断しかねている人が少なくないと考えられます。
従業員の健康づくりに関する会社の取り組みの重要度
「従業員の心の健康づくりを促すこと」「従業員に対する啓発や情報提供をおこなうこと」が重要だと思う人は77%。
自分の会社が従業員の健康づくりのために図表12にあげる分野・方法での取り組みをおこなうことは、それぞれどの程度重要だと思うかたずねました。取り組み分野についてみると、重要(「重要」+「ある程度重要」)だと思う割合は、「従業員の心の健康づくりを促すこと」が76.9%で最も高く、これに続く他の項目も6~7割台となっています。心・体の両面での健康づくりが重視されていることがわかります。
取り組み方法についてみると、重要だと思う割合は「健康づくりに関して、従業員に対する啓発や情報提供をおこなうこと」(76.7%)で最も高いですが、他の項目も僅差で続いています。すなわち、どの取り組み分野・方法も、およそ3分の2以上の人には重要だと思われています。
≪研究員のコメント≫
◎自分の会社が従業員の健康づくりに取り組むことに対しては概ね肯定的
民間企業に勤務する正社員を対象に実施した調査の結果から、従業員の健康づくりに関する企業の取り組みをめぐる意識や行動などを明らかにしました。
まず取り組み全体に対する意識をみると、自分の会社が従業員の健康づくりに取り組むことについては、啓発・情報提供をはじめとするさまざまな取り組みについて重要だと思っている人がかなりいます。また、自分の会社が健康づくりに取り組むことによって、従業員の医療費削減などさまざまな効果が会社や従業員全体にもたらされると思っている人も少なくありません。自分の会社が従業員の健康づくりに取り組むことに対して、従業員自身は概ね肯定的といえます。
◎従業員の健康づくりに関する企業の取り組みはまだ浸透していない
次に、自分の会社がおこなう個別の取り組みに関する行動や意識を振り返ると、最近1年間に会社が実施した健康づくりに関する研修等に参加した人は2割程度、健康づくりのためのツール・プログラム・制度や健康相談の窓口、会社が提携・運営等をおこなっている運動施設を利用した人はそれぞれ1割未満でした。それらの参加者や利用者は、それらが自身の健康づくりに役立ったという実感をそれほど持てていません。今回対象とした比較的大きな企業においても、全体的にみれば健康づくりに対する取り組みが従業員に十分活用され、その効果が実感されるには至っていないと考えられます。今後、こうした取り組みが進むことによって、効果を実感できる従業員が増えることが期待されます。
また、そもそも自分の会社で取り組みがおこなわれているかどうかわからないと回答した人や、会社が従業員の健康に配慮しているかどうか、あるいは従業員の健康づくりにもっと取り組むべきだと思うかどうかという設問に対してどちらともいえないと答えた人も多くいました。企業がおこなっている健康づくりへの取り組みに関する情報も行き渡っていないと思われます。企業においては、従業員の健康づくりに取り組みを広げるとともに、既に取り組んでいることについて従業員に周知させることも必要でしょう。
◎健康への関心を促すために必要なのは体力・運動能力低下の自覚
自身の健康に関心がない人は、従業員の健康づくりに関する取り組みをより利用していない傾向がみられました。無関心層の関心を促すことも課題です。
自身の健康に関心を持つようになったきっかけは、「体力・運動能力の低下を感じた」が最も多く、次に「体型などの外見が気になった」、「体調や体の症状が気になったこと」があがっていました。従業員に体力や運動能力を知る機会は、健診などで体重・体型や体調を知る機会に比べると現状では少ないですが、その機会を提供することも従業員の健康づくりを進めたい企業にとっては重要といえます。(提供:第一生命経済研究所)
(研究開発室 上席主任研究員 水野映子)
㈱第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部 研究開発室 広報担当(津田・新井) TEL.03-5221-4771 FAX.03-3212-4470 【URL】http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/ldi