第一生命保険株式会社(社長 渡邉 光一郎)のシンクタンク、株式会社第一生命経済研究所(社長 矢島 良司)では、全国の20~59 歳の男女1,400 人に対して「子どもがいる正社員の休暇に対する意識調査」を実施しました。この中から、配偶者も自分も正社員として働きながら子育てをしている人の年次有給休暇の取得実態と取得することに対する「ためらい」意識に関する調査結果を紹介します。

 本リリースでは、当研究所ホームページにも掲載しています。
URL http://group.dai-ichi-life.co.jp/cgi-bin/dlri/ldi/total.cgi?key1=n_year

≪調査結果のポイント≫

年次有給休暇の取得状況
●末子の学齢別にみて最も取得率が高いのは、男性は末子が「大学生」50.4%、女性は末子が「幼稚園・保育園」63.2%

年次有給休暇の取得理由
●男性は「家族との旅行、レジャー」、女性は「子どもの学校行事」が第1位

年次有給休暇の希望する用途
●第1位は男女とも「家族との旅行・レジャー」、第2位は男性「自分の休養・リフレッシュ」、女性「子どもの学校行事」

有給休暇を取得することへの「ためらい」意識
●男性の57.3%、女性の63.2%が有給休暇を取得することにためらいを感じている

有給休暇を取得することにためらいを感じる理由
●男女とも「休むと職場の他の人に迷惑がかかるから」が第1位

ためらいを感じずに取得できる理由
●男性は「自分のペースで仕事を進めることができるから」、女性は「職場の他の人と仕事の調整・分担ができているから」が第1位

有給休暇の取得促進のメリット
●第1位は男女とも「従業員の心身の健康を高める」、第2位は男性は「従業員の生産性向上」、女性は「両立のしやすさ」

≪調査実施の背景≫

 わが国では今、仕事に対する意欲と能力を発揮しながらワークライフバランスのとれた働き方を実現するため、労働時間制度の改革が行なわれています。その一環として、年次有給休暇の取得促進のための取組も進められています。

 また今年4月には、女性が希望に応じて十分に能力を発揮し活躍できる職場環境を整備するため、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)」が施行されました。同法では労働者301 人以上の企業に、女性の活躍推進に向けた行動計画の策定などを義務づけています。公表されている各社の行動計画をみますと、女性管理職を増やす目標を掲げている企業が多いですが、中には働きやすい環境整備のために年次有給休暇の取得率向上を目指している企業もあります。男女ともに柔軟な働き方、休み方の実現が女性活躍推進のためにも重要であることを多くの企業が認識しているようです。

 こうしたことを背景に、当研究所では女性の活躍推進のために必要な職場環境の整備の一つとして、年次有給休暇を取得しやすい職場づくりに注目し、民間企業で正社員として働く子育て世代を対象にアンケート調査を実施しました。特に子育て世代は子どもの病気や学校行事などのために休まざるを得ない場合があり、必要なときに休めるということも、両立生活のためには重要なポイントであるからです。ここでは本調査の中から、子育て世代の年次有給休暇の取得実態と取得することに対する「ためらい」意識等の結果を紹介します。

≪調査の概要≫

1.調査対象  20~59 歳で、民間企業で正社員として働いており、かつ大学生(短大、専門学校、大学院を含む)までの子どもがいる男女1,400 人(男女700人ずつ)

2.調査方法  インターネット調査(株式会社クロス・マーケティングのモニター)

3.調査時期  2015 年11 月

4.分析対象  今後、女性の活躍推進にともない、子育てと両立しながら正社員として働く女性が増えるとともに、そのような女性を妻に持つ男性も増えることが見込まれます。そこでここでは、正社員の配偶者をもち、自分も正社員として働いている男女980 人について分析をおこないました。

5.分析対象の属性(全体、性・年代別、性・役職別、性・企業規模別)

子育て世代の年次有給休暇の取得意識
(画像=第一生命経済研究所)

年次有給休暇の取得状況

末子の学齢別にみて最も取得率が高いのは、男性は末子が「大学生」50.4%、女性は末子が「幼稚園・保育園」63.2%

子育て世代の年次有給休暇の取得意識
(画像=第一生命経済研究所)

 本稿の分析対象者における年次有給休暇の取得率(2014 年度に付与された日数に占める取得日数の割合)は全体平均で50.5%でした(図表省略)。性別では男性43.6%、女性54.3%です(図表1)。性・企業規模別では男女ともに30 人以上の企業からは企業規模が大きいほど取得率が高いです。性・役職別では、男女ともに一般社員よりも管理職(課長以上)の方が取得率が低く、性・職種別では、技術系専門職(設計、研究開発、プログラマーなど)と事務(総務、経理、企画、編集など)が男女とも取得率が比較的高いです。性・末子の学齢別では、取得率が最も高い時期が男女で異なり、女性は末子が「幼稚園・保育園」、男性は「大学生」です。女性は末子が「幼稚園・保育園」から「中学生」までが取得率が高く、「高校生」になると低下しています。男性は末子が「中学生」で最も低いですが、これ以外は「大学生」までほぼ横ばいであり末子の学齢による変化は余り大きくないです。

年次有給休暇の取得理由

男性は「家族との旅行、レジャー」、女性は「子どもの学校行事」が第1位

子育て世代の年次有給休暇の取得意識
(画像=第一生命経済研究所)

 年次有給休暇を取得した人に、取得した理由をたずねた結果をみると、全体では「家族との旅行・レジャー」が最も多く、次いで「子どもの学校行事(授業参観やPTA 活動など)」(以下「学校行事」)、「自分の病気・けがの療養、通院」(以下「自分の病気」)などが続いています(図表2)。

 性別にみると、男性は「家族との旅行・レジャー」が最も多く、次いで「自分の病気」「学校行事」の順です。女性は「学校行事」が最も多く、「家族との旅行・レジャー」や「自分の病気」を上回っています。子育て世代の女性は特に、年次有給休暇を子どもの学校行事のために利用している人が多いことがわかります。また「子どもの病気・けがの看病、通院」(以下「子どもの病気」)のために休む男性の割合は15.3%であり、女性の35.9%を大幅に下回っています。本調査の分析対象は配偶者も正社員として働いている人です。配偶者が正社員として働いていても、子どもの病気のために休むのは女性に多いことがうかがえます。

年次有給休暇の希望する用途

第1位は男女とも「家族との旅行・レジャー」、
第2位は男性「自分の休養・リフレッシュ」、女性「子どもの学校行事」

子育て世代の年次有給休暇の取得意識
(画像=第一生命経済研究所)

 年次有給休暇を取得した人に希望する用途を2つまで回答してもらった結果が図表3です。全体では、実際の取得理由と同様「家族との旅行・レジャー」が最も多いですが、「自分の休養・リフレッシュ」が「学校行事」や「自分の病気」を上回っているなど、2位以下は実際の取得理由の順位とは異なっています。

 性別にみると、男女とも「家族との旅行・レジャー」が1位ですが、2位は男女で異なっています。男性は「自分の休養・リフレッシュ」、女性は「学校行事」が僅差で「自分の休養・リフレッシュ」を上回って2位です。女性の約4人に1人は、自分の希望としても、子どもの学校行事のために休暇を取得したいと思っているようです。

 性・末子の学齢別にみると、男性でも末子が中学生までは「学校行事」のために休みたいと思っている人の割合が「自分の休養・リフレッシュ」と同率もしくは高いです。他方、女性は末子が幼稚園・保育園までは「自分の休養・リフレッシュ」が「学校行事」を上回っています。未就学児を育てている時期は、子どもに手がかかることもあり、自分の休養のために休みたいと思っている人が多いようです。

有給休暇を取得することへの「ためらい」意識

男性の57.3%、女性の63.2%が有給休暇を取得することにためらいを感じている

子育て世代の年次有給休暇の取得意識
(画像=第一生命経済研究所)

 有給休暇の取得を望んでいても、実際には取得することをためらう人も多いと思われます。そこで次に「ためらい」意識に注目して、この「ためらい」が有給休暇の取得行動にどのように関係しているかをみます。

 有給休暇を取得することにためらいを感じるかをたずねた結果をみたものが図表4です。全体の約6割の人が「ためらいを感じる」(「ためらいを感じる」と「ややためらいを感じる」の合計、以下同じ)と回答しています。

 性別では男性よりも女性の方が「ためらいを感じる」の回答者が多いです。女性の方が男性よりも取得率は高いのですが、ためらいを感じながら取得している人が多いようです。他方、企業規模別では、取得率が低い傾向にあった小規模企業ほど「ためらいを感じる」人の割合が高いです。有給休暇を取得する壁を低くするためには「ためらい」意識の発生を弱めることも必要と思われます。

有給休暇を取得することにためらいを感じる理由

男女とも「休むと職場の他の人に迷惑がかかるから」が第1位

子育て世代の年次有給休暇の取得意識
(画像=第一生命経済研究所)

 「ためらいを感じる」と回答した人に、その理由をたずねた結果が図表5です。全体では「休むと職場の他の人に迷惑がかかるから」など、職場の人への気遣いから、有給休暇を取得することにためらいを感じる人が多いことがわかります。

 性別では、上位3位までは男女とも同じ理由ですが、4位の理由が男女で異なります。男性は「職場の周囲の人がほとんど有給休暇をとらないから」ですが、女性は「家族の病気や急な用事のために残しておく必要があるから」です。本調査の分析対象は配偶者も正社員として働いている人です。同じ正社員として働きながらも、家族の病気などに備えて有給休暇を残しておきたいとの思いは、男性よりも女性に強いようです。

ためらいを感じずに取得できる理由

男性は「自分のペースで仕事を進めることができるから」、
女性は「職場の他の人と仕事の調整・分担ができているから」が第1位

子育て世代の年次有給休暇の取得意識
(画像=第一生命経済研究所)

 有給休暇を取得することに「ためらいを感じない」と回答した人に、その理由をたずねたところ、「自分のペースで仕事を進めることができるから」が最も多く43.7%、次いで「職場の他の人と仕事の調整・分担ができているから」(以下「他の人と分担ができているから」)が41.8%で続いています(図表6)。「職場内で計画的に休暇のスケジュールを決めているから」や「有給休暇を取得する時期及び日数を会社から決められているから」は約1割に過ぎないことから、有給休暇の取得を職場や会社が決めることよりも、日ごろの仕事の仕方が休みやすさにつながることが示されています。

 職種別では、いずれの職種も「他の人と分担ができているから」への回答が2位までに入っています。回答数が少ないので参考値ですが、比較的取得率が低い介護・医療職であっても仕事の分担ができていればためらいなく休めるものと思われます。

有給休暇の取得促進のメリット

第1位は男女とも「従業員の心身の健康を高める」、
第2位は男性は「従業員の生産性向上」、女性は「両立のしやすさ」

子育て世代の年次有給休暇の取得意識
(画像=第一生命経済研究所)

 有給休暇を取得しやすくすることの「メリットは特にない」と回答した人は全体の15.9%であり、8割以上の人は有給休暇を取得しやすくすることが従業員や会社にメリットがあることを認識しています(図表7)。

 具体的内容をみると、「従業員の心身の健康を高める」が最も多いですが、「従業員の生産性が向上する」や「従業員が仕事と家庭の両立がしやすくなる」(以下「両立のしやすさ」)も僅差で続いています。有給休暇の取得促進の取組は、従業員の健康、生産性向上、両立支援に寄与することを約4割の人が認めています。

 性別にみると、特に男性よりも女性で「両立のしやすさ」と「女性の継続就業につながる」の回答が多く、女性の方が休みやすさが就労促進につながることを意識しています。

≪研究員のコメント≫

(1)役職や職種によって異なる年次有給休暇の取得率

 年次有給休暇の取得率は男性よりも女性の方が高いです。また男女ともに企業規模が小さい企業よりも大きい企業の方が取得率は高く、役職別では男女ともに管理職よりも一般社員の方が高くなっています。女性活躍推進の一環として、女性の管理職登用が進められている中、管理職になっても有給休暇を取得しやすい職場環境づくりが望まれます。加えて、女性管理職自身も組織のリーダーとして、自分が率先して休みを取得することで職場環境を変えていくという意識も必要ではないでしょうか。

 有給休暇の取得率は職種によっても異なります。技術系専門職は男女とも取得率が高いですが、男性では営業・販売・接客、女性では介護・医療の仕事に従事している人の取得率が低いです。こうした職種では人材不足が課題になっているところが多いですが、有給休暇の取得促進によって人材確保につながるというメリットも認識されており、人材不足への解決のためにも年次有給休暇の取得率向上のための取組が必要であると思われます。

(2)子どもを理由とした有給休暇の取得は女性に多い

 子どもの年齢とともに子育ての内容も変わりますので、有給休暇の取得状況も変わってきます。しかもその傾向は特に女性に強く表れています。末子が幼稚園・保育園から中学生の女性の取得率は6割前後と高いですが、高校生以上になると5割を下回ります。子育てをする中で、子どもは突発的に病気になるし、授業参観や保護者会、PTA 活動など親の参加が求められる学校行事もあり、女性はこうした子どもを理由とした休暇を取得しているからです。特に末子が中学生くらいまでの女性は、限りある年次有給休暇日数の中で、自分のリフレッシュのためよりも、子どもを理由とした休暇を優先して取得しているようです。

 また、男性よりも女性の方が年次有給休暇の取得率は高いですが、それでも54.3%と付与されている有給休暇の半分程度しか取得していません。ためらいを感じる最大の理由は「休むと周りの人に迷惑がかかる」というものです。周りの人を気遣いながら働くことは業務を円滑に遂行する上で重要なことですが、これが強すぎると休暇取得に抑制的になり、中には両立を諦めて離職を余儀なくされる場合もあると思われます。

(3)年次有給休暇の取得促進に向けて

 女性活躍推進のためには、女性が継続して働ける環境を整えることが重要です。現状、育児のために年次有給休暇を活用している人は女性の方が多いことを踏まえてみると、まずは男女ともに年次有給休暇を取得しやすい環境づくりが求められます。そのために一つには、有給休暇を取得しても仕事がまわるよう仕事の分担を明確化することで、できる限り自分のペースで仕事ができるような職場づくりや、一人ひとりの仕事の仕方について、さらなる工夫が求められます。

 加えて、育児参加に対する男性の意識を高める必要もあります。男性の場合、4人に1人が子どもの学校行事への参加に消極的という結果もみられました(図表省略)。この男性の意識が、女性の育児による休暇取得に影響を及ぼしているところもあるのではないでし ょうか。まずは仕事と育児の分担について家庭内でよく話し合うことが必要と思われます。

 子育て世代にとって、女性の活躍推進の前提には子育てとの両立支援が欠かせません。育児休業制度などの社内制度や保育所の整備のみならず、年次有給休暇の活用による働き方の見直しをすることで、女性の活躍につなげていくことも必要と思われます。(提供:第一生命経済研究所


(研究開発室 上席主任研究員 的場康子)

㈱第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部
研究開発室 広報担当(津田・新井)
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