この30年で大きく変わった「正社員という概念」
これから先の時代、人工知能とロボットによって人間の仕事が奪われる「仕事消滅」が本格的な社会問題になってくる。そして、現在はその仕事消滅の「前夜」に当たる……。連載の第1回にて鈴木氏によって提示された未来は、我々にとってまさに愕然とするようなものだった。そして今現在、すでに始まっている変化があるという。それが「正社員の消滅」。それはなぜか。そして、これから何が起こるのか。
つい30年前、定年は「55歳」だった
厚生労働省が労働力調査をもとに作成したグラフによれば、2016年時点での日本の雇用者の総数は5391万人だそうだ。同じデータの始まりの年は1984年なのだが、この年の日本の雇用者は3936万人と、今よりもずいぶん少なかった。
棒グラフを見る限り、今日までのところ仕事消滅どころか我が国の雇用者数は一貫して右肩上がりで、32年間で1500万人近くも増えている。
その理由は、女性の社会進出とシニア世代の労働力の増加である。1980年代当時はまだ女性社員が結婚して「寿退社」をし、専業主婦になることが当たり前の時代だった。
一方で、まだ働ける世代の引退も早かった。この時代、私がコンサルタントとして働き始めた1年目に、クライアントの課長さんとオフィス脇のスペースで打ち合わせをしていると、ふいにオフィスに拍手の音が鳴り響いたことがある。顔を上げると大きなオフィススペースの向こう側のシマで額が禿げ上がった年配の社員が花束を受け取っている。この日で定年退職になる社員を見送る儀式だった。
この当時の大企業の定年は55歳の誕生日。ふと気づくと私はとうに、当時目撃した定年退職する会社員よりも歳を取っている。そして漠然と「あと15年はまだこうやって働いていくのだろう」と覚悟もしている。
30年というスパンで眺めると、時代というものは確実に大きな変化を起こしているものなのだと改めて感じる。
パート、アルバイトの仕事が高度化している
さて、この統計の1984年の内訳を眺めると、当時は全雇用者の85%が正社員だった。一方でアルバイト・パートおよび契約社員の人口は604万人にすぎなかった。
思い起こせば当時、大学生の私はいろいろなバイトを掛け持ちしていた。今と比べると簡単な作業が多かった。倉庫の隅で散らかっている段ボールを片づけるとか、駅の通路でイベント告知の看板を1日持っているとか、スーパーの牛肉売り場で1日中呼び込みをするとか、技能の要らない仕事をして時給600円をもらう、そんな時代だった。
そしてちょっとでも技能が要る仕事、ないしは責任を伴う仕事は正社員がやる。それが当たり前の時代だった。
統計を見ると、正社員の数は1994年に3805万人とピークを打ち、そこから2014年まで20年間一貫して減少していく。代わって労働人口の増加を非正規雇用が支えていくことになる。2016年時点では、全雇用者に占める正社員の構成比は62%まで減少している。
労働力市場がこのように「非正規雇用」にシフトした背景には、前回お話しした「パワードスーツ効果」が関係している。ITや人工知能の進歩により、誰もがあたかも強化服(パワードスーツ)を着ているかのごとく高度で生産性の高い仕事を簡単にこなせるようになってきた。