「正社員」の意味の変化がブラック企業を生んだ

そう考えると、統計よりももっと大きなペースで正社員の仕事は消滅し、非正規雇用に置き換わってもおかしくないはずだ。しかし正社員の数は2014年を底に、逆に増加に転じている。

その理由は、そもそも正社員は雇用契約があるために自然減以外に減らしていくことが難しいことと、もう一つ、この10年間で正社員の意味が変質してきたことにある。

これはここ数年、大企業が頭を抱えていることだが、本来はアルバイト・パートに任せたい仕事にだんだん人が集まらなくなってきた。24時間シフトでビジネスを回さなければいけないとなると、人員の確保が問題になる。

一方で過去30年間、年功序列で給料が上がり続ける日本的雇用慣行のしばりはなし崩し的に崩壊していった。となると、正社員のコストが経費を圧迫する経営リスクは以前と比べて小さい。

そこで新しいタイプの正社員雇用が流行する。従業員を長時間拘束するため、そして責任を押し付けるための新しいタイプの正社員の増加である。

それが悪いほうに働くと、バイト人員が確保できなければ名ばかり管理職が残業代を返上してシフトの穴を埋めたり、引っ越し会社では現場で起きた損害を正社員リーダーが弁済するケースも出てくる。俗にブラック企業と呼ばれる現象だが、背景には少子高齢化により若い労働力確保が年々難しくなってきていることがある。

消滅しつつある「旧来型の正社員」

今起きている現象に、皮肉を感じる読者も多いかもしれない。仕事消滅前夜には仕事の量全体は増え続ける。まだ雇用を完全に人工知能やロボットに移管することができないからだ。一方で難しい仕事から先に消滅していく。だから「スキルや経験や創造力が必要で、その分、報酬が高い正社員」という立場は年々、世の中から消えていく。

統計上、正社員は減っていないが、そう見えるのは「給料が上がらずに責任だけが多い新しいタイプの正社員」が増えているからである。そして以前は日本中にあふれていた「いずれは誰もが部長、課長の肩書きになって高収入が得られる正社員」は、着実に現代社会の中で消滅し続けているのである。

鈴木貴博(すずき・たかひろ)経営戦略コンサルタント
東京大学工学部卒。ボストンコンサルティンググループ等を経て2003年に独立。過去20年にわたり大手人材企業のコンサルティングプロジェクトに従事。人工知能がもたらす「仕事消滅」の問題と関わるようになる。著書に『仕事消滅』(講談社)、『戦略思考トレーニング』シリーズ(日本経済新聞出版社)他があり、後者は累計20万部超のベストセラー。経済評論家としてメディアなど多方面で活動している。(『The 21 online』2018年2月号より)

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