輸出の動向

輸出は堅調に推移している。輸出額(ドルベース)の推移を見ると、18年第3四半期の伸び率は前年比11.7%増と、第2四半期の同11.5%増を僅かながらも上回った(図表-7)。世界経済の拡大が続く中で、米国向けが同12.9%増、EU向けが同11.6%、日本向けが同10.2%増と、いずれも第2四半期の伸びを上回った。新興国向けも概ね好調で、ASEAN向けは同15.2%増、アフリカ向けは同17.3%増だった。品目別に見ると、一次産品は同16.0%増、化学品等は同20.3%増、機械・輸送機は同13.3%増と好調だったものの、その他製品(衣類、バッグ類、履物類など)は同5.4%増と低い伸びに留まった。

中国経済の現状
(画像=ニッセイ基礎研究所)

一方、輸入額(ドルベース)の推移を見ると、第3四半期は前年比20.1%増と、輸出を上回る高い伸びとなった(図表-8)。地域別では、新興国や資源国からの輸入が好調で、ASEAN は同20.2%増、ブラジルは同29.2%増、オーストラリアは同22.1%増などとなっている。また、EUからの輸入は同12.8%増、日本も同11.9%増と二桁増を維持したが、米中貿易戦争で関税引き上げ合戦が続いたため、米国からの輸入は同3.9%増と第2四半期の同13.6%増から急減速した(図表-8)。その結果、輸出額から輸入額を差し引いた貿易黒字は854億ドルと前年同期の1123億ドルを23.9%下回り、経済成長率を押し下げる要因となった(図表-9)。

今後を考えると、激しさをます米中貿易戦争を背景に、製造コストが上昇した中国国内から後発新興国へ対米輸出拠点を移す動きが増える可能性があることから、輸出の伸びは鈍化するだろう。一方、輸入に関しては、習近平国家主席が18年4月の博鰲(ボアオ)アジアフォーラムで「輸入を主体的に拡大」する方針を示しており、11月1日には食品や機械など1585品目の輸入関税を引き下げるのに加えて、11月5日には国際輸入博覧会が上海(青浦区)で開催されるため、輸入は高い伸びを示すだろう。したがって、純輸出は引き続き経済成長の足かせになると見られる。

中国経済の現状
(画像=ニッセイ基礎研究所)

今後の注目点

今後、最も注目されるのは、米中貿易戦争がどのような形で中国経済に影響してくるかである。筆者は下記の4指標の動きに注目している。

第一に対米輸出の動向である。米中貿易戦争は関税引き上げ合戦の様相を呈しており、米国国内で中国製品の価格が上昇したことにより競争力が失われれば、対米輸出に表れるからだ。今のところ目立った悪化は見られない(図表-10)。第二に設備稼働率である。米中貿易戦争で対米輸出拠点が中国以外へ流出すれば、中国国内では設備が余剰となるからだ。18年第3四半期の工業設備稼働率は76.5%と目立った悪化は見られない(図表-11)。第三に雇用関連指標である。対米輸出拠点が中国以外へ流出すれば、設備稼働率が低下するとともに労働者も余剰となるからだ。この指標にも今のところ目立った悪化は見られない(図表-12)。第四に企業家信頼感指数である。米中貿易戦争の影響で懸念される問題の一つに先行き不透明感がある。投資は必ずリスクを伴うため、不透明感が高い状況になると、企業はその決断を先送りしがちで、それが景気を冷やす恐れがあるからだ。この指標は18年第3四半期にやや悪化したが、今のところ70%台の高水準にある(図表-13)。

なお、前述のとおり中国政府は景気テコ入れに動き始めており、それが内需(個人消費や投資)に与える影響に関しても、注目しておく必要があるだろう。

中国経済の現状
(画像=ニッセイ基礎研究所)
中国経済の現状
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三尾幸吉郎(みお こうきちろう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 上席研究員

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