相続手続きの際に、法定相続人の中に障害者がいる場合、「遺産分割」と「相続税申告」において、通常とは異なる点があるため、注意が必要です。
特に意思能力に問題がある障害を持つ相続人がいる場合、相続発生後から手続きをすると、10ヵ月以内の相続税申告に間に合わないこともあるため、事前に準備をしておくことが求められるケースもあります。
また相続税申告手続きについても一定の控除があるため、節税の視点から忘れないことが大切です。このページでは、上記の2つのポイントについて解説します。
1.障害者がいる場合の遺産分割は成年後見人の選任が必要!?
遺産分割の際に、障害者であることで手続きが必要になるケースは、その障害者に“意思能力”がない場合です。つまり、障害者であっても、“意思能力”に問題がなければ、特に特別な手続きは必要ありません。例えば、医師の診断で知的障害者とされ意思能力がないとされているような場合には、該当することとなります。
(1)成年後見制度を利用する必要
まず、“意思能力”を書いた相続人を無理矢理遺産分割協議に参加させた場合には、その遺産分割は無効となってしまうおそれがあります。 形式的には、印鑑証明と署名・押印ができれば遺産分割ができますが、実質的には成立していない遺産分割ですので、後々問題になることにもなりかねません。
(2)後見人選任の申立方法
まずは、家庭裁判所に後見人の選任の申立を行います。
親族関係図や、親族の同意書、目録等の必要書類を用意し、申立書で家庭裁判所に申立を行います。
そうすると、家庭裁判所の方で“面接”、“鑑定”、“調査”等を経て、その承認が行われます。
なお、こうした手続きを一式、専門家である司法書士にお願いすることも可能ですし、家庭裁判所に問い合わせながらご自身で行われる方もいます。
(3)遺産分割の具体的な手続き
遺産分割協議書や相続税申告書等への署名・押印は、選任された後見人が代わりに行います。なお、印鑑証明等も後見人のものを使用します。
【実務上の留意点】
この後見人選定については、家庭裁判所とのやりとりに期間を要することもあり、相続開始後から手続きを開始すると、相続税申告の期限に影響を及ぼす可能性もあります。このため、生前に後見人を選任しておくことも考えられますが、日常生活においても重要な役割を果たすため、弁護士等にも相談しながら慎重な判断が望まれます。
2.相続税申告においては障害者控除という税額控除が受けられます
(1)障害者控除の概要
障害者である相続人の年齢が85才未満の場合に、相続税から税金が控除できます。
なお、税制改正により平成27年1月1日以降に発生する相続については、従来よりも相続税の控除額が大きくなっているため、注意が必要です。
(2)適用の要件
相続で財産を取得した者が、以下の3つの要件にすべて当てはまった場合
・国内に住んでいる人
・障害者であること
・法定相続人であること
(3)障害者控除の適用額
【平成26年12月31日以前の相続】
≪一般障害者の場合≫
6万円 × (85才-年齢)
≪特別障害者の場合≫
12万円 × (85才-年齢)
【平成27年1月1日以降の相続】
≪一般障害者の場合≫
10万円 × (85才-年齢)
≪特別障害者の場合≫
20万円 × (85才-年齢)
なお、障害者控除がその障害者である相続人本人の相続税額から控除しきれない場合には、その残額を、その障害者の扶養義務者の相続税額から控除することができます。
扶養義務者とは、その障害者の配偶者や、父母、兄弟等のことを指します。
(4)障害者の種類の判別
≪身体障害者の場合≫
身体障害者手帳の等級が3~6級 ⇒ 一般障害者
身体障害者手帳の等級が1級・2級 ⇒ 特別障害者
≪精神障碍者の場合≫
精神障害者福祉保健手帳の等級が2級・3級 ⇒ 一般障害者
精神障害者福祉保健手帳の等級が1級 ⇒ 特別障害者
※ 他の場合もありますが、上記には代表的なものを記載しています。
(5)実務における注意点!!
・昔の相続で、障害者控除の適用をすでに受けている場合には、控除額が制限されます。
・当該障害者の方が、財産を一切相続しない場合には、その扶養義務者の方も障害者控除の適用が受けられません。
(提供:チェスターNEWS)