一家に一台、ロボットペットの時代が来る!?
この3月から発売が開始されたソニーのペットロボット「aibo」。思わず「懐かしい!」と思った読者もいるのではないだろうか。だが、今回のaiboはかつてのそれとは意味合いが大きく違っていると、著書『「AI失業」前夜』にて、近未来のAIと仕事との関係を描きだした鈴木貴博氏は指摘する。しかもその陰で、ペット以上の「ロボットパートナー」すら生まれつつあるのだという。それは一体何か?
12年ぶりに復活する「aibo」はAI搭載
新しい2018年型のaibo(アイボ)が話題だ。ただし、今回の記事の話題の中心は復活したソニーのペットロボットの話ではない。多くの家庭にすでに浸透を始めていて、ソニー製品よりもずっとたくさん売れて、いずれ犬や猫に代わって一番かわいがられるペットになる可能性のある製品についての話をしたいと思う。
とはいえ、人工知能ペットのブームが起きる前夜に登場したという意味で、今回のaiboについてもその意義をきちんと整理しておきたい。今回、ソニーが12年ぶりに発売したaiboには三つの意味がある。
一つめのポイントは「機械学習」である。今回のaiboの人工知能は学習をするのだ。どのようにふるまうと飼い主が喜んでくれるのか、どのようなポーズがウケるのか、aiboは日々、飼い主の反応を凝視しながら学んでいる。
その学習結果はクラウド上にアップロードされる。実は日本国内で販売される何万台かのaiboたちが学習した結果はクラウド上に集約され、分析され、その学習結果はダウンロードされて共有される。だから自宅のaiboは日々、かわいく育っていく。これが12年前にはなかった新しいaiboの特徴である。
新型aiboの注目すべきビジネスモデルとは?
二つめのポイントは「リカーリングビジネスモデルの導入」である。新しいaiboは19万8000円で購入して終わりではない。携帯電話の契約と同じで、本体の代金に加えて月々の利用料がかかる。これはaiboベーシックプランといって、月々2980円の支払いを3年間続ける必要がある(一括払い割引プランもある)。
これはソニーの説明では、「届いたばかりではまだ何も知らないaiboが、日々の触れ合いを通じて、あなたの唯一無二のパートナーとして成長するために」必要な費用ということだが、ビジネス的に言えば「売り切りではなく、aiboというサービスの利用からもお金を取る形式だ」ということである。しかもこの2980円という利用料が絶妙だ。これは犬や猫などリアルなペットの飼育にかかる月々のペットフードやグッズの費用よりも安い。
今回のaiboのビジネスモデルは、家計に対して新しいタイプの出費を、どこまで、そしていくらまでなら納得させることができるかという意味でとても興味深いのだ。
短命だった最初のデジタルカメラ「マビカ」
最後の三つめのポイントだが「イノベーションにおける30年の法則」の中で、今回のaiboはどの時期の商品なのかという論点がある。
画期的なイノベーションが世の中を変えていく際に、「30年の法則」と言われるものがある。ペニシリンでも、自動車でも、パソコンでも、世の中を変える画期的な発明品は、登場してからそれが世界をすっかり変えてしまうまでには30年の時間がかかるというものだ。
最近の例でいえば、デジカメが世の中を変えるまでにはちょうど30年かかった。デジカメが最初に世の中に登場して人々を驚かせたのは1981年のことだ。プロトタイプ的な商品としてソニーから発表された「マビカ」である。ビデオと同じように写真をアナログ情報として読み込んで、フロッピーディスクに記録する。
このマビカが発表された当時、写真の世界が変わると激震が走った。しかしほどなくして、マビカは世界の話題から消えていく。周辺技術がまだ追いつかず、実用化できなかったのだ。
「30年の法則」が大企業を崩壊させた
実用的な商用デジカメが市場に登場し始めるのは、それから15年くらい後のことである。デジタルカメラの画像センサーの性能が向上し、記録用のフラッシュメモリの記憶容量が実用レベルに達し、ウィンドウズパソコンやインターネットが普及してデジタル画像の活用の場ができてようやく、デジタルカメラは商用化された。
それでも、発売直後のデジカメに対する世間の評価は冷たかった。「あんなのはおもちゃだよ」と。画素数38万のデジタルカメラは確かに、銀塩フィルムの写真の画質と比べられるほどの画質を生み出せていなかった。
ところが、ここで問題にしていただきたいのは、それからの進化の速度の早さだ。デジカメはその後、あっという間に性能を上げていく。2000年代に入ると画素数は400万を超え、やがて一眼レフのデジカメは銀塩カメラを性能で追いつき、その後、工程の画像処理やプリントの利便性ではフィルムを追い越すことになる。
そしてマビカが発表されてから約30年後、世界最大のフィルムメーカーだったイーストマン・コダックは経営が立ち行かなくなり破産申請を行なった。