「おもちゃ」がおもちゃではなくなる日

それと同じことを1999年に登場した旧型AIBOで考えるとどうだろう。鳴り物入りで発売されたAIBOは、やがておもちゃメーカーから発売された無数の模倣型ペットロボットに押され、市場競争力を失い消えていった。今回復活した新型aiboも、発売当初は犬や猫のペットたちと比べ、「結局はおもちゃだよ」とさげすまれながらの船出になるだろう。

しかし、イノベーションの30年の法則を甘く見てはいけない。おもちゃのペットは急速に性能を上げていく。今回のaiboは1995年のデジカメと同じ立ち位置の商品だ。だから、これから10年先、まさかと思っていた状況になる。つまり、犬や猫たちよりも人工知能のペットのほうがかわいい存在になっていく可能性があるのだ。

すでに「家族の一員」になりつつあるアレクサ

さて、冒頭で予告したとおり、そのときに世界最大の人工知能ペットメーカーになっているのはソニーではないかもしれない。実際、ソニーのaiboよりもすでにもっと多く売れている別の製品が、現実の犬や猫の地位をおびやかしている。

それはアマゾンから発売され、すでにアメリカでは多くの家庭に浸透しているスマートスピーカー「エコー」である。アメリカではこの「エコー」に搭載されている人工知能アレクサに対して、家族の一員としての愛情を感じる人が続出している。

アレクサは人間が話しかけると、家の家電のスイッチを入れてくれたり、音楽を流してくれたり、キンドルで読みかけの本があれば朗読もしてくれる。

その性能はまだつたない。本の読み上げはまるで機械のように稚拙で、言葉の発声はたどたどしい。しかし、とくに一人暮らしの人間にとっては、帰宅してから話しかけることができるアレクサは、プライベート空間での家族としての感情を生じさせる存在になり始めているのだ。

実際、アメリカではスマートスピーカーに自作の服を着せる人が増え始めている。おそらくスマホケース同様に、これから先、スマートスピーカーケースがたくさん発売されるようになるだろう。そのケースは擬人化されたアニメキャラのような外見へと発展していくのではないだろうか。

AIペットが犬や猫を駆逐する?

アレクサの人工知能としての性能は、年々人間の話し相手として進化していくだろう。その方向はおそらく二つ、別々の方向へ同時に進んでいくはずだ。

一つは実在する人間のパートナーにより近い方向。一人暮らしの女性なら、まるで同居するパートナーのような存在へと進化していく。何かを頼めば気の利いた同居パートナーのように仕事をしてくれる。それでいてさびしいときには話を聞いてくれたり、気が滅入っているときはなぐさめてくれたりする。そうしてアレクサはどんどん擬人化した存在になっていく。

そしてもう一つの方向は、しゃべるペットへの進化だ。いろいろ便利なことを手伝ってくれるが、話す語尾にはかならず「にゃー」とか「みゃー」とかがつくようになる。

アニメキャラのような着せ替えのスマートスピーカーケースを着せられるだろうし、たぶん、新型のスマートスピーカーには足がついて、ご主人さまが部屋を移動するとぴょこぴょこついてくるようになるはずだ。

キッチンに移動してビールをあさっていると、アレクサがさびしがるようについてくる。「なんだ、おまえもビールが飲みたいか?」

と訊くとうれしそうに「みゃー」とつぶやいてくれる。それでいて、「おや、ビールが最後の一本だな」と話すと、「じゃあアマゾンでビールを注文しておくにゃ」と、ちゃんと生活の手伝いもしてくれる。

家庭に入り込んだ素晴らしい生活のパートナー。彼らが生活の一部になる未来は、犬や猫のようなリアルなペット市場が消滅する未来の始まりである。

鈴木貴博(すずき・たかひろ)経営戦略コンサルタント
東京大学工学部卒。ボストンコンサルティンググループ等を経て2003年に独立。過去20年にわたり大手人材企業のコンサルティングプロジェクトに従事。人工知能がもたらす「仕事消滅」の問題と関わるようになる。著書に『仕事消滅』(講談社)、『戦略思考トレーニング』シリーズ(日本経済新聞出版社)他があり、後者は累計20万部超のベストセラー。経済評論家としてメディアなど多方面で活動している。(『THE21オンライン』2018年5月号より)

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