平成の30年間に何度か起きた不動産市場の危機を、ベテランコンサルと振り返る企画。平成初期の不動産バブルが起きた原因は何か。現在の不動産市場と重なる部分はあるか。さらには、2007〜2008年頃のミニバブル、その後のリーマンショックではどのような投資家の動きがあったかなどを知ることで、今後の不動産市場を読み解くヒントを探ります。ナビゲーターは、野村不動産アーバンネット・資産コンサルティング部所属の宮澤大樹さんです。

平成初期の不動産バブルと現在の違い「土地神話」

宮澤大樹さん

━━「平成初期の不動産バブル」と「現在の不動産投資の状況」は似ているという意見も多いですね。今回もバブル崩壊のようなことが起こる可能性はありますか。

確かに、低金利で融資が行われ、不動産価格が高騰するという状況は同じです。ただし、バブル期との違いも踏まえた上で、冷静に状況を分析する必要はあるでしょう。

バブル期と大きく違うのは「地価の上がり方」です。バブル期に見られたのは、全国的に軒並み地価が高騰する現象でした。しかし、現在は違います。全国の住宅地の公示地価は、最近になってようやく上昇傾向にありますが、下がり続けている地域もあります。

宮澤大樹さん

━━上がっているエリアと下がっているエリアがあるということは、リアルな価値を反映している証左でもありますね。

そういうことになります。下がっているエリアの具体的な地名は伏せますが、地方のスキー場周辺では不動産価格の下落が特に目立つエリアもあります。私が学生のころは、多くの若者が週末にスキー場へ遊びに行っていました。その影響から、周囲にはリゾートマンションが多数建設され、温泉やトランクルームを設置している18平方メートル程度のワンルームが乱立しました。

これらの物件には、現在、格安で販売されているものも数多くあります。空室がたくさんあるのに埋まらず、固定資産税や修繕費などを考えると、所有しているだけでマイナスになってしまう可能性のある物件です。そのため、安い金額でも売れないケースが多いんですね。

このような現状を見ると、バブル期の「土地神話」のような、とにかく不動産を持っていれば価格が落ちないので安心だという状況とは大きく異なると言えます。

━━バブル当時の経験を得て、より慎重に投資を行っている方もいらっしゃいますか。

いらっしゃいますが、バブル期を経験された方の多くが、ご高齢になって投資から引退していたり、事業を承継していたりと、プレーヤーとしては少なくなっている印象です。

そのため、バブル崩壊を実際に体験していない世代が、今の不動産投資の主役です。ただし、親御さんからバブルの話を聞いていたり、注意を受けていたりと、失敗談が承継されている面もあります。そのため、当時のように土地に絶対的な信頼を寄せている、という人はほとんどいないように感じます。

平成初期の不動産バブルと現在の違い「収益還元法」

宮澤大樹さん

━━宮澤さんは不動産業界で約20年のキャリアがありますね。「平成初期の不動産バブル」後にこの業界に入られたわけですが、大きな傷跡は感じましたか。

そうですね。お客様の中には不動産バブル崩壊を経験した方も多数いらっしゃいました。例えば郊外に購入したマンションの価格が3分の1程度になってしまうなど、価格の乱高下が各地で発生した時代であったと認識しています。

━━先ほど、土地神話のような感覚が現在はない、というお話がありました。他にも、現在とバブル期の相違点はありますか。

現在は、「収益還元法」という指標が重視されているのも大きな違いです。収益還元法とは、簡単に言うと、対象の土地や建物を賃貸に出したり、売却したりすることで、将来どの程度の収益が見込めるかを現在価値で試算する方法で、バブル崩壊後に台頭した手法です

このような方法は、バブル期には機能していませんでした。当時は「土地神話」に踊らされ、本来の価値を見出さないまま融資を行っていたケースが多かったと考えられます。表現を変えると、実態を見ずに融資していた、となるでしょうか。

そのため、上がり続ける不動産価格に、金融引き締めを行ったことでバブルが崩壊。銀行側には多くの不良債権が残る結果になったのでしょう。

━━当時は現在よりも情報を得る手段が少なかったのも影響しているのでしょうか。

インターネットが発達した現在と比べると、情報は間違いなく少なかったと言えますね。そして、バブル崩壊は、現在まで続くデフレの発端となり、それまでの経験から企業は融資を受けることをためらったり、内部留保を確保することに走ったりと、お金を使わなくなりました。これが、日本の長期的な不景気の原因と言えます。

宮澤さんが体感したリーマンショック「それほど逆風ではなかった」!?

宮澤大樹さん

━━宮澤さんのお話を伺っていると、バブル期と現在は似た部分もありますが、根本的に違う部分もあることに気付かされます。バブル崩壊後のミニバブルやリーマンショックについてもお聞きしたいのですが。

バブル崩壊後には、外資系企業が日本の不動産市場に介入してきたことで、マーケットは少しずつ持ち直していきました。これが顕在化したのが2006〜2007年頃のミニバブルでしょう。この時期に、現在も不動産投資市場で活躍する外資系企業のほとんどが台頭してきました。体感的にも、銀行の融資は厳しいながらも物件がよく売れる、という印象を持っていたことを覚えています。

そのような状況で起きたのが、2008年のリーマンショックです。

━━当時は、宮澤さんも第一線で活躍されていたと思います。印象的な出来事はありますか。

私自身の体感でいえば、リーマンショックが逆風になった印象は、実はそれほどないんです。確かに、業界全体で見ると、この時期に倒産した不動産会社はたくさんあります。一方で、不動産価格が下がったことにより、資本力のある方が物件を多く購入していたので、私個人はそこまでマイナスになったイメージはありませんでした。

ただし、ビギナーの投資家の方が減ったな、ということは実感しましたね。これは融資条件が厳しくなったことで、それまでの実績や高い頭金を重視するようになったことが原因です。

そして、そこから3年ほどで、ようやく不動産市場全体が落ち着いてきたな、と感じていたところに、今度は東日本大震災が発生しました。こちらも同じように、日本を揺るがす問題が発生し、融資の基準が厳しくなりました。一方で、不動産価格が下がったところに、資本力のある方が物件購入を行うという状況は変わりませんでした。

つまり、不動産投資は、融資が厳しくなったから、あるいは、世の中で大きな事件が発生したからといって、全く動かなくなるというものではないんですね。不動産価格が下がれば、資本力のある方からの買いが入って調整が行われることで、循環が維持される世界なのです。

これから不動産投資をしていく上で外せない考え方とは?

宮澤大樹さん

━━現在、そして、直近20年くらいの不動産市場をどのように見ていますか。

プラス材料から考えると、やはり2020年の東京オリンピック開催は大きなトピックです。開催に関連して、東京都内では新たに開発が行われたり、交通機関の利便性が増したりと、不動産投資に有利な要素が増えています。

ほかにも、観光・就労の両面での外国人誘致も活発化しています。特に、アジアヘッドクォーター特区に指定された都心エリアの開発はめざましいものがあるので、今後の不動産価格がどのように変化するかは注目に値するでしょう。

マイナス材料としては、言うまでもなく、人口減と高齢化が大きいです。これらは全国的、あるいは、広域で見ると確かにマイナス材料ですが、好調エリアに絞って点で見ていくとそこまで深刻なマイナス材料とは言えません。

例えば、都心の人気エリアは数十年単位で見ても人口が安定していたり、川崎市の一部地域のように、働き盛りの若年層の転入者数は増加しているエリアもあるわけです。

人口が減っていく地域、増えていく地域という2極化が進んでいくのは間違いありません。しかし、シンプルに考えて、増えていく地域を見極めて、そのエリア内で投資を行えばリスクは少ないわけです。投資の対象から淘汰されるエリアには投資をしない。単純ですが、現在、そして、これからの不動産投資ではこの考え方が極めて重要です。

━━投資をするための見極めが重要なのですね。こういった投資の方向性については、自分自身で知識を得ることが重要なのでしょうか。

もちろん、正しい決断をするために、知識を得るのは大切です。メディアを通しての情報収集に加えて、信頼できる相談相手からの情報も重要です。

不動産投資の場合、目標を設定しそれに合った物件を取得していく、また、管理や出口戦略をどのように考えるかなど、長期で計画を立てる必要があります。目先の利益だけではなく、将来を見据えた一手を打たなければ、後々大きなトラブルに発展しかねません。

不動産投資の最終的な決定は、投資を行う方自身で下すしかありません。だからこそ、どのように運用すれば良いかを的確にアドバイスする相談相手が大切なんです。なぜなら、一人だけの狭い視野で考えると、リスクが高い決断をしてしまうこともあるからです。(提供:Wealth Lounge


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