みなさん、こんにちは。
相続税専門の税理士法人トゥモローズです。

老人ホーム入居中に亡くなるケースが多々あります。
私も実務をやっていると3件に1件くらいは、亡くなった人が老人ホームに入居していました。

今回は老人ホーム入居者が亡くなった場合の相続税申告の論点を網羅的、縦断的に解説します。

老人ホーム入居者が亡くなった場合の相続税申告上重要な論点は下記の通りです。

相続税
(画像=税理士法人トゥモローズ)

入居一時金返還金

1. 相続時の課税関係

老人ホームに入居する際に入居一時金を支払うこととなります。
その入居一時金の全部又は一部が相続開始時に相続人等に返還される場合にはその返還金について相続税がかかります。

入居一時金返還金の評価方法は単純で実際に入金された金額を相続財産に計上すれば終わりです。

評価方法は簡単でも課税方法はここ5年位で紆余曲折しまして、相続実務の現場は混乱してました。
その一端が国税不服審判所 平成25年2月12日裁決です。
こちらの裁決はある意味革新的な内容であり、私自身も初めてみたとき関心した記憶があります。
すごーく簡単に内容を説明すると
「老人ホームの入居一時金の返還金は被相続人(契約者)から受取人に対する相続開始日におけるみなし贈与である 」
という裁決内容でした。
すなわち、受取人が相続人であれば相続開始前3年以内贈与として相続税の課税価格を構成しますが、相続人以外(正確には相続又は遺贈により財産を取得した者以外)の場合には、相続税ではなく多額の贈与税がかかってしまうのです。また、生命保険のように受取人固有の財産と考えるため遺産分割の対象とならないこととなります。

実際にこの裁決が公表されたときに相続人以外が入居一時金返還金の受取人になっている案件があって、この裁決のせいで相当頭を悩ませました。
何故かと言うと、その入居一時金返還金が2,000万円くらいあったからです。それ以外の相続財産は5,000万円くらいしかなく小規模宅地の特例を使えば相続税がほぼかからないという案件で、入居一時金返還金が相続人以外の受取人が取得すると考えると贈与税が700万円くらいかかってしまうのです。
私はクライアントに誠実にリスク等を説明してこの入居一時金返還金を相続人以外へのみなし贈与ではなく相続財産に含めて相続税申告をしました。
この案件はその後税務調査にも入られることはなかったです。

画期的な裁決ではありましたが、上記の通り、実務上あまりにも酷な状況になり得るパターンもあるため私は当時リスクをクライアントに説明の上、当該裁決事例の課税方法(みなし贈与)を採用しませんでした。

その後、この裁決が訴訟に発展して東京地裁平成27年7月2日判決、東京高裁平28年1月13日判決を経て、最終的には上記裁決のような「みなし贈与」という結論ではなく「本来の相続財産」として整理されることとなりました。

したがって、現在の相続実務上は、単純に相続開始後に実際に返還された入居一時金を相続財産として課税価格に算入すれば良いこととなります。もちろん、本来の相続財産に該当するため遺産分割の対象となります。

2.入居時の課税関係

入居時に税金が問題となるのが、入居者と入居一時金負担者が異なる場合です。
問題となる税金の種類としては贈与税です。
例えば、妻が老人ホームへ入居するための一時金を夫が負担した場合に、夫から妻への入居一時金相当の贈与があったかどうかが問題となります。

この論点について画一的な回答はありません。
すなわち、贈与税がかかってしまうケースもあるし、贈与税がかからないケースもあります。
またその区分けも曖昧なので実務では頭を悩ませませます。
以下では、過去の裁決事例で贈与税がかかったケースとかからなかったケースの2つを紹介します。

①贈与税がかかったケース

国税不服審判所平成23年6月10日裁決がこの最たる事例です。

本件裁決では、

本件入居金は極めて高額であり、請求人に係る居室面積も広く、本件老人ホームの施設の状況等をかんがみれば、本件老人ホームの施設利用権の取得のための金員は、社会通念上、日常生活に必要な住の費用であるとは認められないから、相続税法第21条の3《贈与税の非課税財産》第1項第2号の規定する「生活費」には該当せず、贈与税の非課税財産に該当しない。

として、入居一時金負担者から入居者への贈与に該当するとして贈与税がかかってしまった事例です。
すなわち、日常生活に必要な生活費とは認められず贈与税の非課税範囲には含まれないとの判断です。
ちなみに、本件裁決事例の入居一時金は1億円以上であり、超富裕層向けの老人ホームでした。

②贈与税がかからなかったケース

国税不服審判所平成22年11月19日裁決がこの最たる事例です。

本件裁決では、

本件配偶者は高齢かつ要介護状態にあり被相続人による自宅での介護が困難になり、介護施設に入居する必要に迫られ本件老人ホームに入居したこと、本件入居金を一時に支払う必要があったこと、本件配偶者には本件入居金を一時に支払う金銭を有していなかったため本件被相続人が代わりに支払ったこと、本件被相続人にとって本件入居金を負担して本件老人ホームに本件配偶者を入居させたことは、自宅における介護を伴う生活費の負担に代えるものとして相当であると認められること及び本件老人ホームは本件配偶者の介護生活を行うための必要最小限度のものであったことが認められることからすれば、本件入居金相当額の金銭の贈与は、本件においては、介護を必要とする本件配偶者の生活費に充てるために通常必要と認められるものであると解するのが相当である。

として、本件入居一時金は、日常生活に必要な生活費の範囲内と判断された事例です。
ちなみに、本件裁決事例の入居一時金は、約900万円でした。

利用料の債務控除

こちらについては何も難しい論点はなく、相続開始後に支払った被相続人に係る老人ホームの利用料が相続財産からマイナスできる(債務控除)というだけです。

なお、相続開始前に支払った利用料のうち医療費控除の対象となるものは被相続人の準確定申告で所得税を減額できます。
また、相続開始後に支払った利用料のうち医療費控除の対象となるものは被相続人の生計一親族の所得税を減額できます。
すなわち、相続開始後に支払った利用料は相続税(債務控除)と相続人の所得税(医療費控除)のダブルで節税効果があるのです。

債務控除をもう少し詳しく知りたい人は、相続税申告 債務控除一覧 注意点を含めて解説!を是非御覧ください。

小規模宅地の特例

亡くなった人が住んでいた土地について、一定の要件を満たす場合には、その土地の評価額を80%オフできる特例があります。
それを小規模宅地の特例の特例といいます。
それでは、老人ホームに入居後に亡くなってしまった人が元々住んでいた土地について小規模宅地の特例は適用できるのでしょうか?

結論としては、老人ホームに入居していたとしても下記の要件を満たす場合には小規模宅地の特例が適用可能です。

① 被相続人が亡くなる直前において要介護認定等を受けていたこと
② 被相続人が「老人福祉法等に規定する老人ホーム」に入居していたこと
③ 被相続人が住んでいた建物を老人ホーム入居後に「事業の用」又は「被相続人等以外の居住の用」に供さないこと

この論点の詳しい内容は、小規模宅地の特例 老人ホーム論点をパターン別に徹底解説!を参照してください。(提供:税理士法人トゥモローズ)