赤字企業と黒字企業の合併が「適格合併」に該当する場合、赤字企業の繰越欠損金が結果として黒字企業の利益額と相殺され、法人税の課税額が一定程度抑えられる場合があります。特に赤字企業が将来的に収益化を達成できる事業に取り組んでいるときには、赤字企業の存続に向けた対策を考える上で、適格合併を視野に組織再編計画を立てていくことが有用な場合があります。

適格合併に該当するケースとは?

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(写真=KPG_Payless/Shutterstock.com)

適格合併に該当するケースについて確認しましょう。主なケースは下記のとおりです。

・ 100%の資本関係がある法人間の合併(完全支配関係のある場合)
・ 50%超の資本関係がある法人間の合併(支配関係)
・ 目的が共同事業のための合併

通常の合併では負債の移転が行われますが、適格合併では消滅法人の負債は簿価で引き継ぎされます。また、繰越欠損金も引き継ぎが行われるので、負債移転時の課税は発生しないこととされています。

例えば、ある会社経営者が赤字企業A社(以下A社)と黒字企業B社(以下B社)の株式をそれぞれ両方保有しており、このA社とB社が一定要件の下で合併する場合には、その合併は適格合併とみなされます。またA社の株式をその会社経営者が全て保有し、B社の全ての株式を妻が保有していた場合にも、A社とB社の合併は適格合併とみなされます。これは2人が親族である場合には法律上、同一の者がA社とB社を保有しているとみなされるからです。

A社とB社が適格合併した場合の課税額の計算

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(写真=Andrei_R/Shutterstock.com)

A社とB社の適格合併における課税額の計算について、具体的な事例を挙げて考えてみましょう。A社は将来有望だと思われる商品の開発・販売を行っていますが芽が出ておらず、業績が低迷し6,000万円の繰越欠損金がありました。一方のB社は売上が好調なことなどから繰越欠損金もなく、毎年2,000万円の利益をあげています。A社を手放すことも考えましたが、今後に期待したい気持ちが強く、どうにかして事業を存続できないかと検討し、A社とB社の適格合併を実行することにしたのです。

A社が消滅してB社が存続すると、A社の繰越欠損金6,000万円はB社の繰越欠損金としてそのまま計上されます。この場合B社の翌期の法人税課税所得金額はA社の繰越欠損金を引き継いでいなければ利益分の2,000万円ですが、A社から引き継いだ繰越欠損金との相殺によって課税所得金額は0円になります。

この時点で繰越欠損金はまだ4,000万円残りますが、翌々期の利益2,000万円と残りの4,000万円と相殺すると法人税課税所得金額は0円になります。また、残りの2,000万円分の繰越欠損金については、翌々々期の利益2,000万円と相殺することで法人税課税所得金額が0円になります。つまり適格合併したことにより、3年連続で法人税課税所得金額が0円になるのです。

もしも、適格合併をしなかったらB社が法人税額をいくら支払うのかを確認しましょう。法人実効税率を仮に30%と想定するとB社は本来毎年600万円(2,000万円 × 30%)の課税が発生します。今回の例の場合、繰越欠損金を引き継ぎ3年間で相殺したので、600万円×3年間の1,800万円分がかからなかったことになります。

このようにして適格合併によりA社の事業をB社で存続させ、B社の利益をA社の繰越欠損金で相殺し、浮いた資金を研究開発等に有効活用することにしたのです。

正しい知識を身に付け、将来性のある事業の存続を図る

このように、赤字企業と黒字企業の株式を両方保有し、将来性が期待される赤字会社を適格合併によって無理なく事業を存続させることができます。赤字と繰越欠損金の増加は事業環境が変化し続けるビジネスの世界においては避けて通りにくいことでもあります。しかし、そこで培った技術や育った人材を武器に、これからの未来に役立つサービスを展開する事業計画があるのであれば、廃業せずに事業を存続する術を見出したいと願うのは経営者としては当然ではないでしょうか。

一方で適格合併という仕組みや詳しい知識を持ち合わせていなければ、廃業という選択肢以外の道が見えにくいのも事実です。どのようにしたらよいのか分からない場合は金融機関を始めとする専門家に相談するのがよいでしょう。(提供:企業オーナーonline


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