相続人間で揉めていて早く遺産分割の話し合いから解放されたいと考える人も多いと思います。そのようなときに選択肢として浮上するのが「相続分の譲渡」です。相続分の譲渡を行えば、遺産分割で揉めごとに巻き込まれることなく遺産を受け取ることが可能かもしれません。
あまり馴染みのない言葉ですが、本記事では相続分の譲渡について解説をしていきますので、相続争いで悩んでいる方や遺産分割協議から早めに離脱したい方は参考にしてください。
1.相続分の譲渡とは自分の相続人としての地位を譲り渡すこと
1-1.相続分の譲渡の概要
相続分の譲渡には下記の特徴がありあます。
- 相続分の譲渡は自分がもらう財産の譲渡ではなく、相続人の地位そのもの。
- 他の相続人又は第三者に対しても可能。
- 有償又は無償でも可能。
- 他の相続人の同意は不要。
相続分の譲渡は自分が受け取る財産を譲渡するのではなく、自分がもっている相続人の地位そのものになります。例えば自分の相続分が1/3だったとした場合、その1/3の権利を譲渡するようなイメージになります。 従って被相続人に財産以外にも借入金等の債務があれば、その債務も当然引き継ぐことになります。
相続分の譲渡は他の相続人以外にも第三者に対しても行うことが可能です。一般的には他の相続人に譲渡するケースがほとんどだと思われます。
相続分の譲渡を行う際には有償でも無償でも問題ありません。タダで自分の相続分の譲渡することも可能になります。
相続分の譲渡を行う際には他の相続人の同意は原則として必要ありません。譲渡する人と譲り受ける人が合意すれば相続分の譲渡は成立します。
では、相続分の譲渡を行うことによりどのようなメリット・デメリットがあるのか次の項目でご紹介していきます。
1-2.相続分の譲渡のメリット・デメリット
メリットは遺産分割協議からの早期離脱! 遺産分割協議は相続人の間で意見がまとまらず、分割が完了するまで長い期間を要することも多々あります。 例えば、遺産分割において自分が受け取る財産の内容には納得しているが、他の相続人同士が納得していないため、遺産分割がなかなかまとまらないケースだった場合には、自分の相続分を他の相続人に譲渡し、対価として金銭を受け取ることにより、分割協議から離脱することが可能となります。
また、相続人の人数が多い場合には遺産分割がなかなかまとまらないことが想定されるため、相続人を整理し分割協議に関わる人数を少なくすることにより早期に分割協議がまとまる可能性もあります。そういった場合においても相続分の譲渡は活用できるかと思います。
まったくの部外者に譲渡をするのはNG! 相続分の譲渡はその特徴として、第三者に対しても譲渡することが可能となります。しかし、自分が信頼できる第三者に譲渡したとしても他の相続人から見ればまったくの他人となる可能性があります。このような場合、分割協議にその第三者が加わることになり分割協議がうまくまとまらなくなる可能性があります。
相続分の譲渡は第三者に対しても行うことは可能ですが相続分の譲渡を行う際には誰に行うかも重要な問題になりますので慎重に考える必要があります。
コラム相続分の取戻権(民法905条)他の相続人が第三者に相続分の譲渡を行った場合には、遺産分割がうまく進まないことが想定されています。この場合、民法ではその譲渡を受けた第三者からその権利を取り戻す権利が他の相続人にはあります。これを「取戻権」といいます。取戻権は第三者に対して相続分の譲渡があった時から1カ月以内に行使をする必要があり、その第三者に対しては対価を支払う必要があります。取戻権の行使は第三者に譲渡がされた場合に限られ、行使の期限が定められているため注意が必要です。
2.相続分の譲渡の具体的な手続き
相続分の譲渡を実際に行う場合にはどのようなことをすればいいのか。相続分の譲渡を行う際の手続きについて解説していきます。
2-1.相続分の譲渡はタイミングが重要
相続分の譲渡は分割協議の前に行う必要があります。遺産分割がまとまってから相続分の譲渡を行うことはできないので、注意が必要となります。
2-2.必要書類の作成方法
相続分の譲渡を行う場合には下記の書類を作成し、譲渡があった旨を証明しておく必要があります。後々のトラブルを避けるためにも書類は作成し保管しておくのが望ましいでしょう。
相続分譲渡証書 相続分の譲渡を行う場合には相続分譲渡証書を作成する必要があります。 譲渡人の印鑑は必ず実印を押印し印鑑証明を添付する必要があります。 書式に具体的な決まりはありませんが、一例として下記に記載しておきます。
相続分譲渡通知書 相続分の譲渡は他の相続人の同意を得る必要はないため、相続分の譲渡が行われても他の相続人がその事実を知らないことになります。他の相続人に相続分の譲渡があったことを知らせる義務があるため相続分譲渡通知書を作成し他の相続人に送付します。 なお送付の際は、配達証明付き内容証明で郵送を行うのがよいでしょう。 こちらも決まった書式はありませんが、一例として下記に記載しておきます。
3.相続分の譲渡を行った場合の登記は共同相続登記が行われているかどうかで異なる
被相続人の財産に不動産があった場合には第三者などに勝手に名義を変えられてしまわれることなどを防ぐ目的で一度、法定相続分で登記を行うことがあります。これを共同相続登記といいます。 相続分の譲渡が行われた場合、共同相続登記が行われているかどうかで登記手続きの流れがことなります。
共同相続登記が行われている場合
相続分の譲渡が行われる前に共同相続登記がある場合には、相続分の譲渡を行う者から 譲り受ける者への持分移転の登記を行い、分割協議が成立後分割内容に応じて持分移転の登記を行う必要があります。従って共同相続登記を含めると全部で3回登記を行う必要があります。
共同相続登記が行われていない場合
相続分の譲渡が行われた時点で共同相続登記が行われていない場合には、相続分の譲渡を行う者から譲り受ける者への持分登記は行わず、そのまま相続分の譲渡を行った後の持分で共同相続登記を行うことが可能となります。従って共同相続登記を含めると全部で2回登記行うことになり、共同相続登記が行われている場合と比べると登記の回数が1回減ることになります。
上記のように共同相続登記が既に行われているかどうかによって手間も費用の面でも変わってくるのでよく確認する必要があります。登記の際には相続分の譲渡証書が必要にありますので、印鑑証明と併せて準備しておくとよいでしょう。
4.相続分の譲渡を行った場合の税金は有償か無償かで異なる。
相続分の譲渡を行った場合の税金の取扱いについては、有償か無償かで大きく異なることになります。
4-1.無償の場合には税金はかからない。
他の相続人に対し相続分の譲渡を行った場合において金銭をもらわず、無償で行った場合には遺産分割で何も財産を取得しなかった場合と同様に取り扱われることになります。 従って、相続税が発生することはありません。
4-2.有償の場合には税金がかかる。
他の相続人に対し相続分の譲渡を行い、金銭を受け取った場合にはその受け取った金銭の額に対して相続税が課税されることになります。 金銭を支払った人は支払った金額だけ取得した財産が減少することになり、相続税が減少することになります。
上記は他の相続人に相続分の譲渡を行った場合を想定していますが、仮にまったくの他人に相続分の譲渡を行った場合の取扱いについては上記と異なってくることが想定されます。 第三者に相続分の譲渡を行う場合は事前に専門家に相談することをおすすめ致します。
5.まとめ
相続分の譲渡は行う前に一連の流れをきちんと把握し整理しておくことが重要となってきます。 分割協議が長期化する場合などにおいては早期に分割協議から離脱することが可能であり、有効な方法の一つとなりますが自分の意思だけでは行うことができません。 また、他の相続人の許可を得る必要がないため行う際は書面をきちんと作成し、証拠を残しておくことも重要となります。(提供:税理士が教える相続税の知識)