相続で財産を受け取ったが、相続税の申告をする義務があるのかどうかと悩まれていないでしょうか。

一見、申告義務が「ありそうでない場合」や「なさそうである場合」もありますので、申告義務の判断を誤らないように注意しましょう。もし、申告義務の判断を誤ってしまうと、後々税務調査で指摘を受け、本来払わなくても良かったペナルティを払うハメになりかねません。

この記事を読むことで、あなたが相続税の申告義務があるかどうかを判断することができます。

自分でできる!相続税の申告義務の判定
(画像=税理士が教える相続税の知識)

1.相続税申告をする必要がある場合

結論からお話しすると、遺産総額が基礎控除を超える場合に相続税の申告義務が生じます。遺産総額が1億円、基礎控除が8,000万円であれば申告義務は「あり」、逆に、遺産総額が8,000万円、基礎控除が1億円であれば申告義務は「なし」という判定になります。

遺産総額や基礎控除は人それぞれ異なりますので、遺産総額や基礎控除の求め方などについて詳しく解説します。

1-1.遺産総額が基礎控除を超える場合

遺産総額 > 基礎控除 → 相続税の申告義務あり
遺産総額 < 基礎控除 → 相続税の申告義務なし

遺産総額が基礎控除を超えると、相続税の申告義務があり、逆に遺産総額が基礎控除を下回ると相続税の申告義務がありません。この考え方が相続税の申告義務を判定する大前提となりますので、よく理解しましょう。
なお、遺産総額や基礎控除の求め方については、それぞれ以下を参照してください。

・遺産総額の求め方
遺産総額は、被相続人(亡くなった人)の相続財産で金銭的価値に換算できるものすべての合計額となります。

簡単に言うと、例えば、
自宅不動産1億円、現預金5千万円、株5千万円、借金5千万円の場合には、
1億円+5千万円+5千万円-5千万円=1億5千万円が遺産総額となります。

なお、土地については、実際の売買金額ではなく、路線価等を使った相続税評価額を算出する必要があります。

この価値の算定が少し複雑ですが、詳しくは、「土地の相続税を計算する3つの手順を徹底解説」を参照してください。

・基礎控除の求め方
基礎控除は、

「3,000万円+600万円×法定相続人の数」

で求めることができます。

実際に誰がいくら相続するとは関係なく、単純に被相続人(亡くなった人)の法定相続人の数を計算式に当てはめます。なお、相続放棄をしたものがいたとしても、放棄をする前段階の法定相続人の人数で計算します。

例えば、父が死亡し、相続には母と長男、長女であった場合には、法定相続人は3名ということになります。
よって、

3,000万円+600万円×3名=4,800万円

ということになります。

上記の求め方で、遺産総額と基礎控除を算出し、遺産総額の金額が大きかった場合は相続税の申告義務が発生します。

1-2.小規模宅地等の特例を使用して納税がゼロになる場合

小規模宅地の特例を使う前は遺産総額が基礎控除を超えているが、特例を使えば基礎控除以下となり相続税の納税がゼロとなる場合

→ 相続税の申告義務あり

小規模宅地等の特例を適用する「前」は、遺産総額が基礎控除を上回っているが、特例適用により遺産総額が基礎控除を下回るような場合、相続税の申告義務はあります。別の言い方をすると、相続税の申告を行わなければ、この小規模宅地等の特例の適用が受けられないということです。

少し分かりづらいので事例でご紹介します。

相続人:3名 → 基礎控除額4,800万円
相続財産:自宅土地 5,000万円、金融資産 2,000万円で遺産総額7,000万円

このケースでは、

遺産総額7,000万円>基礎控除4,800万円

となりますので、相続税の申告義務があることになります。但し、自宅土地について小規模宅地等の特例が適用された場合5,000万円の評価額が80%減額され1,000万円で評価されることになります。

よって、

自宅土地1,000万円+金融資産2,000万円で遺産総額3,000万円

となり、遺産総額3,000万円<基礎控除4,800万円で最終的には相続税の納税はゼロになります。

ここで、自宅土地の評価を5,000万円→1,000万円とするための小規模宅地等の特例を適用するために相続税の申告が必要ということになります。

仮に、このような状況で相続税の申告を失念してしまうと、本来払う必要のなかった税負担に加えペナルティが課せられる可能性もありますので注意が必要です。

・小規模宅地等の特例とは?
小規模宅地等の特例とは、被相続人の自宅や、貸アパートや貸駐車場として使っている土地の相続税評価額を大幅に減額できる特例のことをいいます。
ちなみに自宅については80%の減額、貸アパートや貸駐車場については50%の減額を受けることが可能です。

なお、小規模宅地等の特例について、理解を深めたい方は、「自宅の土地が8割減額!小規模宅地の特例(居住用)徹底解説」を参照して下さい。

1-3.配偶者の税額軽減を使用して納税がゼロになる場合

遺産総額が基礎控除を超えているが、配偶者の税額軽減の特例の適用で最終的に納税額がゼロとなる場合

→ 相続税の申告義務あり

遺産総額が基礎控除を超えているが、配偶者の税額軽減(配偶者控除)を適用することで最終的に納税額がゼロとなる場合でも、相続税の申告義務はあります。納税額がゼロになるのであれば、申告もしなくて良いのではと考えがちですが、この配偶者の税額軽減の特例は前述の小規模宅地の特例と同様、適用を受けるためには相続税の申告をしなければいけないことになっています。

事例で解説します。

被相続人:父
相続人:3名(母・長男・長女) → 基礎控除額4,800万円
相続財産:自宅土地 5,000万円、金融資産 2,000万円で遺産総額7,000万円
遺産取得割合:母100%

このケースでは、遺産総額7,000万円>基礎控除4,800万円となりますので、相続税の申告義務があることになります。但し、遺産をすべて母が相続すれば、配偶者の税額軽減(配偶者控除)で相続税の納税額はゼロとなります。

ただ、この配偶者の税額軽減の適用を受けるためにも、やはり小規模宅地の特例と同様、相続税の申告を行わなければいけません。仮に、このような状況で相続税の申告を失念してしまうと、本来払う必要のなかった税負担に加えペナルティが課せられる可能性もありますので注意が必要です。

・配偶者の税額軽減とは?
配偶者の税額軽減とは、配偶者の法定相続分又は1億6,000万円のどちらか大きい金額までであれば、相続税がかからない特例のことです。 つまり、配偶者であれば、1億6,000万円までであればいくら相続財産を取得しても相続税は一切かからないことになります。

この配偶者の税額軽減を適用するためには、相続税の申告期限までに遺産分割が確定し、かつ相続税の申告を行う必要があります。

詳しくは、「相続税の配偶者控除の要件・手続き・必要資料の徹底ガイド」をご覧下さい。

2.相続税申告をする必要がない場合

次に、相続税申告をする必要がない場合をご紹介します。

遺産を一切取得しない相続人は、相続税の申告は行う必要がありません。つまり、相続税の申告義務はありません。

これは想像し易いかと思いますが、他にも相次相続控除や障害者控除を使って納税がゼロになる場合や、生命保険や退職金の非課税枠を使って基礎控除以下になる場合についても相続税の申告義務はありません。

2-1.遺産を取得しない相続人

相続人であっても、遺産を取得しなければ相続税はかかりません。そして、相続税の申告義務もありません。
よって、その相続人は相続税申告書を税務署に提出する必要がありません。

ただ、義務はありませんが、相続税申告をしても問題ありません。
相続税申告書には相続人全員の名前を記載する欄があり、通常は遺産を一切相続しない相続人もここに名前が記載されることになります。

相続税申告書は通常、相続人全員が連名で税務署に提出を行うことから、遺遺産をもらっていない相続人もその申告書に押印を行い、一緒に申告をするケースの方が一般的となっています。

2-2.相次相続控除・障害者控除などを使って納税がゼロになる場合

相次相続控除及び障害者控除という相続税を控除する特例を適用して納税がゼロになる場合には、相続税の申告義務はありません。前述の小規模宅地の特例と配偶者の税額軽減とは異なり、これらの特例については適用を受けるために申告を行う必要がないためです。

  • 相次相続控除とは?
    相次相続控除とは、相次いで連続して相続が発生した場合、最初の相続で支払った相続税の一部を次の相続で支払うことになる相続税から控除することができる特例です。つまり、この控除額が相続税額を上回った場合には相続税の納税額がゼロとなります。

  • 障害者控除とは?
    障害者控除とは、相続人のうち障害を持った方がおられる場合には、一定の金額を相続税から控除できる特例となっています。控除額は障害の程度やその相続人の年齢により異なります。この障害者控除の金額が実際に納める納税額を上回る場合には相続税の納税額がゼロとなります。

なお、これらの特例について詳しく知りたい方は、相次相続控除については、「10年以内に連続で相続が発生した人必見!「相次相続控除」を、障害者控除については、「知っておきたい相続税の障害者控除のすべて」を参照して下さい。

2-3.生命保険や退職金の非課税枠を控除して基礎控除以下になる場合

生命保険や退職金の非課税枠の適用前は基礎控除以上の財産があるが、非課税枠を適用すると基礎控除以下になるような場合には相続税の申告義務はありません。

生命保険や退職金には、それぞれ次の計算式で求められる金額まで相続税がかからないという非課税枠が設けられています。

「500万円×法定相続人の人数」

例えば、相続人が3名の場合には、生命保険、退職金それぞれについて相続人が受け取る金額が1,500万円までは非課税となります。

事例で解説します。

相続人:3名 → 基礎控除額4,800万円
相続財産:金融資産 4,000万円、生命保険1,500万円で遺産総額5,500万円

ここで、

遺産総額5,500万円 > 基礎控除額4,800万円

となるので、一見相続税の申告が必要になりそうなのですが、相続税の申告義務を判定する上での基礎控除は遺産総額から生命保険の非課税枠分を控除します。

生命保険の非課税枠は、

500万円×3名=1,500万円

となりますので、

5,500万円-1,500万円=4,000万円

が申告義務を判定する上での遺産総額となります。

よって、(申告義務判定上の)

遺産総額4,000万円 < 基礎控除額4,800万円

となり、このケースでは相続税の申告義務は不要となります。

【コラム】税務署から「お尋ね」が送られて来たら…
相続が発生したら、相続人のもとに税務署から「お尋ね」と呼ばれるものが送付されることがあります。

「お尋ね」を簡単に説明すると、「こういう場合には相続税の申告が必要です。あなたはどうですか?」と税務署から文章で聞かれることです。この「お尋ね」が来たからと言って必ず相続税の申告をする必要があるというわけではありません。

この記事で相続税の申告義務の有無を判定し、相続税の申告義務がなければ、「お尋ね」に私の財産はこうで、相続税の申告義務はありませんと記載の上回答を行うだけで大丈夫です。

3.【事例】相続税申告の申告義務がなさそうであるケース

相続税の申告義務についての基本的なルールをここまで解説してきました。
ただ、その他にも判断に迷う個別の特殊なケースがあります。ここでは、一見申告の義務がなさそうだけれど申告しなければならない代表的な事例を2つご紹介しますので、注意してください。

3-1.子供名義の名義預金を含めると基礎控除を超えた

預金通帳の名義は子供になっているが実際にその通帳の原資は親である被相続人であり、その通帳の維持管理や運用も被相続人が行っていた場合には、その子供名義の銀行口座も被相続人の相続財産となります。

これを一般的に、「名義預金」と言います。被相続人の名義にはなっていないので、相続財産には該当しないと安易に判断しないように気を付けましょう。

この「名義預金」も通常の相続財産と同様に遺産総額に算入されますので、この「名義預金」がない状態で遺産総額が基礎控除以下であっても「名義預金」を加えることで基礎控除を超えた場合には相続税の申告義務があることになります。

3-2.相続人ではなかったが実は遺言書で財産をもらえることがわかった

相続人ではないが、被相続人が生前に書いた遺言書によって財産がもらえることになるになった場合。 この場合には相続人ではなくとも、相続税の申告義務がありますので注意しましょう。

ただ、自分がもらう財産が基礎控除を超えるか超えないかという判断基準ではなく、自分以外に財産をもらうことになる者全員が取得する相続財産の合計額が基礎控除を超えるか超えないかで相続税の判定を行います。

なお、遺言書で財産をもらうことを遺贈と言いますが、この遺贈に関わる税金について詳しくは、「遺贈にかかる税金は相続税。その理由と計算を徹底解説。」を参照して下さい。

4.まとめ

相続税の申告義務は、遺産総額が基礎控除を超えた場合に生じることになります。但し、相次相続控除と障害者控除の特例を適用し納税がゼロになる場合には例外的にその申告義務がなくなります。

また、誤りやすい点としては、小規模宅地の特例と配偶者の税額軽減の特例を使って納税がゼロになる場合でも相続税の申告義務はあり、相続税申告が必要になることです。

ただ、相続税の申告義務の判定を誤ると、後々税務署から指摘を受けペナルティを支払うことになりかねませんので、判断に迷われた場合には相続税専門の税理士に相談をするようにしましょう。(提供:税理士が教える相続税の知識