1.はじめに

仮想通貨
(画像=チェスターNEWS)

仮想通貨取引に関する所得に関して、納税者自身による適正な申告を促進するため、2018年4月以降、6回にわたって、「仮想通貨取引等に係る申告等の環境整備に関する研究会」が国税庁により開催されました。

この研究会での議論の結果を踏まえて、国税庁は、2018年11月に、次の3点について公表しました。

①所得税の申告手続きが簡便化したこと
②相続税に関して、相続時の仮想通貨の評価方法が簡便化したこと
③仮想通貨関係で国税当局に問い合わせがあったFAQ

それでは、これらについて、以下で簡単に説明します。

2.所得税の申告手続きが簡便化したことについて

1)平成29年度分の仮想通貨取引に係る確定申告について

従前においては、納税者自らが、国内の各仮想通貨交換業者から仮想通貨取引の情報を収集する必要がありました。 そして、一部の仮想通貨交換業者が年間取引の明細を提供しているにしても、仮想通貨同士を交換した場合、仮想通貨で商品を購入した場合などの記載内容が区々で、納税者が取引情報を十分に収集できない状況でした。

その上、納税者が収集できた取引情報をもとに、仮想通貨取引に係る所得を納税者自身が計算するのですが、仮に100回の取引を行った場合には、100回分を集計する必要があり、また、複数の交換業者で取引を行った場合には、全ての取引を納税者自身で集計する必要があり、煩雑な計算をする必要がありました。

2)平成30年度分の仮想通貨取引に係る確定申告について

上記のような煩雑な手続きが必要となると、納税者自身による適正な納税が阻害されかねないことから、平成30年度分の仮想通貨取引に係る確定申告から、その手続きが簡便化されました。

具体的には、毎年1月末をめどに国内の各仮想通貨交換業者から交付される「年間取引報告書」を利用して確定申告を簡便に行うことができるようになります。

昨年までは、上記に説明したように、一部の交換業者から提供される年間取引の明細は、その記載内容が区々であったところ、「年間取引報告書」は記載内容が統一されています。例えば、この「年間取引報告書」には、仮想通貨名ごとに購入金額や売却金額などが明記されています。そして、「年間取引報告書」で集計済みの年間取引の総額等に基づいて「仮想通貨の計算書」を活用して仮想通貨の所得を自動計算することができるようになり、昨年までと比べて手続きが簡便化されたと言えます。

3.相続税に関し、相続時の仮想通貨の評価方法の簡便化について

1)現状について

被相続人が保有していた、相続開始時点における仮想通貨の残高等を証明する統一的な手続きが整備されていない状態です。

2)今後の相続税申告手続きについて

今後は、被相続人が保有していた、相続開始時点における仮想通貨の残高等を証明する統一的な手続きが整備されることになります。

具体的には、被相続人から仮想通貨を相続した相続人が、国内の各仮想通貨交換業者に「残高証明書」等(被相続人の生前の取引履歴に関する「取引明細書」を含みます)の交付の申請をすると、各仮想通貨交換業者から、相続開始日(死亡日)現在の仮想通貨残高等を記載した「残高証明書」等が交付されます。この「残高証明書」等に記載された仮想通貨の残高等に基づいて、相続人は、相続税の申告書を作成・提出することができます。

4.仮想通貨関係に関するFAQについて

1)所得税・法人税共通のFAQ

ⅰ)仮想通貨を売却した場合の所得金額について

保有する仮想通貨を売却(日本円に換金)した場合の所得金額は、その仮想通貨の売却価額と売却した仮想通貨の取得価額との差額になります。

ⅱ)仮想通貨で商品を購入した場合の所得金額について

保有する仮想通貨で商品を購入した場合、保有する仮想通貨を譲渡したことになります。

よって、この譲渡に係る所得金額は、その仮想通貨の譲渡価額と譲渡した仮想通貨の取得価額の差額になります。

ⅲ)仮想通貨同士の交換を行った場合の所得金額について

保有する仮想通貨甲を他の仮想通貨乙と交換した場合、仮想通貨甲で仮想通貨乙を購入したことになります。よって、上記ⅱ)の「仮想通貨で商品を購入した場合」と同様の計算方法となります。

ⅳ)仮想通貨の取得金額について

購入した仮想通貨の取得金額は、その支払対価に手数料等の付随費用を加算した額になります。

ⅴ)仮想通貨の分裂(分岐)により仮想通貨を取得した場合について

仮想通貨の分裂(分岐)によって新たに誕生した仮想通貨を取得した場合、課税対象となる所得は生じません。

なぜなら、分裂(分岐)時点においては取引相場が存在せず、同時点での価値はなかったと考えられるためです。

ⅵ)仮想通貨をマイニングにより取得した場合について

仮想通貨をマイニング(採掘)により取得した場合、所得税については、事業所得又は雑所得として課税対象となります。また、法人税についても課税対象となります。

2)所得税関係のFAQ

ⅰ)仮想通貨の所得区分

仮想通貨取引によって生じた損益(邦貨又は外貨との相対的な関係により認識される損益)は、次の①②の場合を除いて、雑所得に区分されます。

①その仮想通貨取引自体が事業と認められる場合
②その仮想通貨取引が事業所得等の基因となる行為に付随したものである場合

ⅱ)仮想通貨の必要経費について

仮想通貨の売却による所得の計算上、必要経費となるものとしては、具体的には、「売却した仮想通貨の取得価額」「売却の際に支払った手数料」などがあります。

また、インターネットやスマートフォン等の回線利用料、パソコン等の購入費用などについても、「仮想通貨の売却のために必要な支出であると認められる部分の金額に限って」必要経費に算入することができます。

ⅲ)年間取引報告書を活用した仮想通貨の所得金額の計算について

年間取引報告書に記載されている「年中購入数量」「年中購入金額」「年中売却数量」「年中売却金額」を国税庁HPに掲載されている「仮想通貨の計算書」に入力することで、簡単に所得金額を計算することができます。

(国税庁HP:仮想通貨関係FAQの公表について(参考)「仮想通貨の計算書」 )

ⅳ)年間取引報告書の記載内容

年間取引報告書の各欄には、以下の事項が記載されています。

①年始数量:その年の1月1日現在の仮想通貨の保有数量
②年中購入数量:その年の仮想通貨の購入数量
③年中購入金額:その年の仮想通貨の購入金額
④年中売却数量:その年の仮想通貨の売却数量
⑤年中売却金額:その年の仮想通貨の売却金額
⑥移入数量:その年に購入以外で口座に受け入れた仮想通貨の数量
⑦移出数量:その年に売却以外で口座から払い出した仮想通貨の数量
⑧年末数量:その年の12月31日現在の仮想通貨の保有数量
⑨損益合計:その年の仮想通貨の証拠金取引の損益の合計額
⑩支払手数料:その年に仮想通貨交換業者に支払った支払手数料の額

※仮想通貨の売却・購入などを外貨で行った場合には、取引時の電信売買相場の仲値(TTM)で円に換算した金額に基づいて、各事項が記載されています。

ⅴ)仮想通貨の取得価額の計算方法の変更

売却した仮想通貨の取得価額は、「移動平均法」で計算するのが相当です。

ただし、継続して適用することを要件に「総平均法」で計算しても差し支えありません。

よって、昨年の申告においては、売却した仮想通貨の取得価額を移動平均法で計算していた場合であっても、今後の申告において「総平均法」で継続することを前提に、売却した仮想通貨の取得価額の計算方法を「総平均法」に変更することができます。

ⅵ)仮想通貨の購入価額や売却価額が分からない場合にこれらの価額を確認する方法

以下のような区分に応じて仮想通貨取引の購入価額や売却価額を確認できます。

①国内の仮想通貨交換業者を通じた仮想通貨取引

平成30年1月1日以後の仮想通貨取引については、国税庁から仮想通貨交換業者に対して、次の事項などを記載した「年間取引報告書」の交付するように依頼しています。

〇年中購入数量:その年の仮想通貨の購入数量 〇年中購入金額:その年の仮想通貨の購入金額 〇年中売却数量:その年の仮想通貨の売却数量 〇年中売却金額:その年の仮想通貨の売却金額

②上記①以外の仮想通貨取引(国外の仮想通貨交換業者・個人間取引)

個々の仮想通貨の購入価額や売却価額について、例えば次の方法で確認することが可能です。

〇仮想通貨を購入した際に利用した銀行口座の出金状況や、仮想通貨を売却した際に利用した銀行口座の入金状況から、仮想通貨の購入価額や売却価額を確認する。
〇仮想通貨取引の履歴及び仮想通貨交換業者が公表する取引相場を利用して、仮想通貨の購入価額や売却価額を確認する。

ⅶ)仮想通貨取引で損失が生じた場合の取扱い

仮想通貨取引による所得を計算したところ、損失が生じました。このように、雑所得の金額の計算上生じた損失については、給与所得など他の所得から差し引く(通算する)ことはできません。

ⅷ)仮想通貨の証拠金取引

仮装通貨の証拠金取引は、申告分離課税の対象とはなりません。よって、総合課税により申告することになります。

3)相続税・贈与税関係のFAQ

ⅰ)仮想通貨を相続や贈与により取得した場合の課税関係

被相続人等から仮想通貨を相続若しくは遺贈又は贈与により取得した場合には、相続税又は贈与税が課税されます。

ⅱ)相続や贈与により取得した仮想通貨の評価方法について

活発な市場が存在する仮想通貨は、相続人等の納税義務者が取引を行っている仮想通貨交換業者が公表する課税時期における取引価格によって評価します。

なぜなら、活発な市場が存在する仮想通貨については、活発な取引が行われることによって一定の相場が成立し、客観的な交換価値が明らかとなっているため、外国通貨に準じて評価できるからです。

他方、活発な市場が存在しない仮想通貨の場合には、客観的な交換価値を示す一定の相場が成立していないため、その仮想通貨の内容や性質、取引実態等を勘案し、個別に評価することになります。

4)源泉所得税関係のFAQ

ⅰ)仮装通貨による給与等の支払について

給与の一部を仮想通貨で支給する場合、その仮想通貨による支給分も給与所得の収入金額に該当します。よって、源泉徴収義務者である会社は、給与支払いの際に、仮想通貨の支給分も合わせて源泉徴収税額の計算を行うことになります。

5)消費税関係のFAQ

ⅰ)仮想通貨を譲渡した場合の消費税の課税関係について

国内の仮想通貨交換業者を通じた仮想通貨の譲渡には、消費税は課されません。

6)法定調書関係のFAQ

ⅰ)国内外の仮想通貨取引所に仮想通貨を保有している場合、仮想通貨は財産債務調書の対象になるか。

財産債務調書の対象になります。

仮装通貨を預けている仮想通貨取引所の所在が国内か国外かについては、財産債務調書への記載の要否に影響ありません。

ⅱ)財産債務調書への仮想通貨の価額の記載方法

仮想通貨の価額については、活発な市場が存在する場合には、財産債務調書を提出する人が取引を行っている仮想通貨交換業者が公表するその年の12月31日における取引価格を時価として記載します。また、時価の算定が困難な場合には、その年の12月31日における仮想通貨の状況に応じ、その仮想通貨の取得価額や売買実例価額などを基に、合理的な方法により算定した価額を見積価額として記載します。

また、財産債務調書に記載する財産の価額は、その財産の時価による算定が困難な場合、見積価格を算定し記載しても差し支えありません。

ⅲ)国外の仮想通貨取引所に仮想通貨を保有している場合、仮想通貨が国外財産調書の対象になるか。

国外財産調書の対象にはなりません。

(提供:チェスターNEWS