こだわりを持って住まいに関わる人が増加

また、新築の建売住宅やマンションの場合は、すでに完成した物件から選ぶしかないので、内装や設備、間取りなどがすべて自分好みとは限りません。でもリフォームなら、コンセントの位置一つ取っても、自由に設定できます。もちろん建物の構造上、変更できないことはありますが、自分が好きなようにデザインできる楽しさはリフォームならではのメリットです。

特に最近は、リフォームのニーズも多様化し、「人とは違う自分だけの家を作りたい」という強いこだわりを持つ人が増えています。「骨董品店で見つけたこのアンティークの照明器具 をつけてください」といったオーダーをする人もいて、自分の好みや思いを家に取り入れたいと考える傾向は強まっていると感じます。

また、リフォームに参加する人も増えています。専門家にすべて任せるのではなく、壁を親子一緒に塗ったり、日曜大工でウッドデッキを組み立てたりと、一部でもいいので自分たちの手を加えたいと考える人が多くなりました。実は、すべて専門家に任せたほうが安く済むことも多いのですが、それでも「家族の思い出として、参加した跡を残したい」という思いが強いようです。

素材にこだわる人が増えたのも、最近の傾向です。床は無垢材、壁は珪藻土や漆喰の塗り壁などの自然素材が人気です。

「経年美」への関心も高まっています。これは、古くなるほど輝きを増し、味わいが出て美しくなっていくこと。先ほど挙げた無垢材や珪藻土などの自然素材は 、生命力があって環境や時間と共に変化する性質を持っています。外で働いている間は無機質なオフィスで過ごす人が多いので、我が家には温もりや落ち着きを求めるのかもしれません。

リフォームの目的と優先順位を決めよう

このように、住まいに求めるものは百人百様ですが、どんな我が家を作るにしても、リフォームをする際にまずやるべきことがあります。

それは、リフォームの目的をはっきりさせること。「家族が増えたので、それに合わせて間取りを変えたい」「水回りが古くて機能的ではないので、使い勝手が良くて省エネタイプの 最新設備に取り替えたい」など、ひと口にリフォームと言っても目的は様々です。「なんのためにリフォームするのか」について家族で話し合い、限られた予算をどう使うかという優先順位を決めることから始めてください。

リフォームをすると、あれもこれもと新しい設備や機能をつけたくなりますが、「自分たちの生活にとって必要なのか」「本当にメリットがあるのか」を考えることが大事です。「床暖房を入れたい」と考えたものの、「自分が住んでいる地域で暖房が必要なのは冬の短い間だけなので、実はそれほど使う機会がない」とか、「電気代がかなりかかってしまう」ということもあります。その場合は、「本当に床暖房を入れる価値があるのか?」を家族で話し合って結論を出す必要があります。

将来のライフスタイルも考慮したプラン作りを

目的や優先順位を明確にするには、自分や家族のライフスタイルを把握することが重要です。現時点だけでなく、将来のライフスタイルも考えて、リフォームの内容を決めましょう。

一般的に、家族のライフスタイルは、約5年ごとに変化すると言われます。子供が5歳なら、10歳、15歳、20歳になった時には、家族の暮らし方は大きく変わっているということです。

特に40代でリフォームする場合は、子供と過ごす時間は意外と短いことを頭に入れておきましょう。仮に子供が10歳の時に中古住宅を買ってリフォームしたとすると、あと10年もすれば子供は進学や就職で家を出る可能性があります。よって、いつかは夫婦二人になることを想定して、間取りや設備などを考えることが必要です。

例えば一戸建ての場合、最近は1階と2階の両方にトイレを設置する家が多いのですが、すると子供が独立した後、「夫は2階、妻は1階」というふうに、完全に生活エリアが分かれてしまうことがよくあります。

リフォームするときに、あえてトイレは一階だけにしておけば、子供がいなくなった後も夫がトイレを使うために一階に降りるので、夫婦が顔を合わせたり、会話したりする機会が増えます。子供がいる間は、「トイレが二つあると便利だ」と思うかもしれませんが、便利さを追求すると家族のコミュニケーションが減り、お互いに距離ができてしまうこともあるので留意しておく必要があります 。

自分たち夫婦が年齢を重ねたときのことも考慮する必要があります。10年後、20年後の暮らしをイメージして、そのときに何が必要になるかを想定しておくのです。

例えば、玄関にコンセントを設置しておけば、足腰が悪くなったときに移動を補助するための自動昇降装置を設置することもできます。最初のリフォームでコンセントをつけておけば安く済みますが、後になってコンセントを増やそうとすると、露出配線をするか、 壁紙をはがして工事しなくてはいけないので、料金が高くなってしまいます。

このように、最初から長期的なライフスタイルの変化を想定してリフォームしておけば、トータルでかかるお金も抑えることができるのです。

メンテナンスを想定してトータルコストを下げる

加えて、将来メンテナンスが必要になるときのことも想定しておきましょう。

住宅は一定の周期でメンテナンスが必要となるため、おおむね15年から20年ごとにリフォームをすることになります。

40代で家を買ったとして、20年後にリフォームが必要になったとき、すでに定年を迎えて年金暮らしになっている可能性もあるでしょう。退職金を使うこともできますが、老後に蓄えを残すには、使える金額に限りがあります。よって、最初のリフォームの時点で、次のリフォームでかかる金額ができるだけ少なくて済むようにするための工夫をしておくのがベターです。

例えば、外壁や屋根はメンテナンスフリーの素材を選べば、頻繁にリフォームする必要はなくなります。外回りは雨風にさらされて最も劣化しやすいので、そこだけでも耐久性の高い素材を使えば、将来かかるリフォーム代は最小限で済みます。

ただし、一般の人が将来のライフスタイル変化やメンテナンス計画を詳細に想定するのは難しいので、長期的な視野に立ってプランを提案してくれるリフォーム会社や建築家を見つけることが、リフォームを成功させるカギとなります。

中古住宅を買ってリフォームする場合も、建築士や住宅診断業者 などに耐震診断や水まわり等を見て もらうことをお勧めします。専門家のアドバイスを受けながら 、思い通りの住まい作りを実現してください。

佐川旭(さがわ・あきら)佐川旭建築研究所代表/一級建築士
1951年、福島県生まれ。日本大学工学部建築学科卒業。「つたえる」「つなぐ」をテーマに、個人住宅から公共建築まで幅広い実績を持つ。設計監理をした紫波町立星山小学校(岩手県)が、2010年第13回木材活用コンクール特別賞、うるおいのある教育施設賞(文科省)を受賞。著書に、『住まいの思考図鑑』(エクスナレッジ)、『最高の住まいをつくる「リフォーム」の教科書』(PHP研究所)などがある。(『THE21オンライン』2018年12月号より)

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