「今やるべきこと」に集中するコツ
では、「あれもこれも」の焦りグセから抜け出すには、どうしたらいいのでしょうか。
最も大切なことは、やることに優先順位をつけ、「今やるべきこと」に集中することです。複数の仕事を抱えているなら、締め切りに余裕のある仕事のことはいったん忘れて、目の前の仕事を片づけることだけに集中します。他の仕事は、引き出しや箱の中にしまうなどして、目に入らないようにするだけでも効果があります。
優先順位をつけるとは、仕事や人生にメリハリをつけることでもあります。優先順位の高いものに集中し、低いものは誰かに任せる、完璧のレベルを下げるなどして「手放す」のです。すると、「忙しい時間」と「忙しくない時間」がはっきりして、「今やるべきこと」に集中しやすくなります。
もし上司から急な仕事をふられたときは、自分の状況を説明したうえで「どれから先に手をつければいいか」と、上司に優先順位をつけてもらうといいでしょう。そうすることでパニックにならず、一つずつ片づけていくことができるはずです。
また、優先順位は高いのに、苦手な仕事や気乗りしない仕事はつい先延ばしにしがちです。先延ばしすると、「あぁ、あれもまだやってない」ということが常に心に引っかかり、焦りグセを悪化させることになりかねません。
この場合、「とりあえずやる」ことが解決策として有効です。「この仕事が終わったらやる」では、いつになるかわかりません。日にちや時間を決めて「とりあえずやる」ことを繰り返し、「積み重ねていく」ことが重要。
その際、得意な仕事と同じような目標設定にしてはいけません。30分続けたらよしとする、休憩をいつもより取るなど、自分を甘やかしてOK。そうすることで、メリハリが出ると同時に、達成感も得やすくなります。
このように、自分ができる範囲で目標を設定し、それを積み重ねながらゴールを目指すやり方を、「自虐的完璧主義」に対し、「できるだけ完璧主義」と名づけました。一般的に、真面目な日本人は自虐的完璧主義のタイプが多いのですが、このように少し視点を変えるだけで、焦りグセは緩和されてくるでしょう。
完璧を目指して丁寧に仕事をすることは決して悪いことではありません。ただ、視点を少しだけ変えてみましょう。そうすることで、「時間がない」と常に焦り、追われている感覚がなくなり、目の前の仕事にも集中できるという好循環が生まれてくるはずです。
水島広子(みずしま・ひろこ)精神科医
慶應義塾大学医学部卒業、同大学院修了(医学博士)。慶應義塾大学医学部精神神経科勤務を経て、現在、対人関係療法専門クリニック院長。慶應義塾大学医学部非常勤講師。2000~05 年、衆議院議員として児童虐待防止法の抜本改正をはじめ、数々の法案の修正に尽力。『焦りグセがなくなる本』(PHP文庫)をはじめ、著書多数。≪取材・構成:前田はるみ≫(『THE21オンライン』2018年12月号より)
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