要旨

宿泊施設の稼働率予測
(画像=PIXTA)
  • 訪日外国人は、2018年に3,000万人を突破した。政府は2020年に4,000万人、2030年に6,000万人を目指しており、今後も増加が見込まれる。訪日外国人が多く訪れる地域では宿泊施設の稼働率が高水準で推移する中、宿泊施設の不足感が高まっており、一部地域ではホテルや簡易宿所の建設が活発になっている。一方で、旅館はインバウンド需要の恩恵が十分に及んでいない地域もみられる。
  • 先行きを考えると、訪日外国人の宿泊者数は増加が見込まれる一方、現在宿泊者の8割以上を占める国内旅行客は人口減少や旅行頻度の少ない80歳以上の高齢者の増加が下押しに効いてくる。本稿では、国内旅行客・訪日外国人の宿泊施設の利用動向から2020年、2030年の宿泊施設の客室稼働率を都道府県別に試算し、各宿泊施設の過不足状況を予測した。
  • その結果、2020年に訪日外国人4,000万人、2030年に6,000万人を前提にすれば、人口減少や高齢化による国内旅行客の減少分を上回る宿泊者数の増加が期待できる。ただし、都道府県別には、2020年に利用客室数が12県で減少、2030年には20県で減少する結果となり、地域による差が広がっていく。
  • 宿泊施設別では、大阪や東京のホテルは大幅な需要増加により、2018年から2020年の3年間にそれぞれ2.2万室、1.4万室の客室数が追加で必要になるものの、すでにこの規模を上回るホテルの建設が見込まれており、宿泊施設が不足する事態には陥らないだろう。また、今後のホテル建設を加味しても稼働率は高水準で推移しており、急増する需要に見合った計画となっている。一方で、京都は2020年までに0.3万室の客室数が追加で必要となるが、この規模を大幅に上回るホテル建設が予定されており、供給過剰に陥る懸念がある。他にも、奈良、島根では過去の増加ペースを大幅に上回るホテル建設が計画されており、一段と宿泊者を取り込む必要がある。
  • 旅館は国内旅行客の落ち込みを訪日外国人の増加が補い、稼働率は横ばい圏で推移するが、客室数の減少が続いており、訪日外国人のシェアが高い地域では稼働率が大幅に上昇する可能性がある。それでも、ホテルと比べれば稼働率は低位にあり、客室数に余裕のある状況が続くだろう。