【供給サイド】宿泊施設の利用状況と客室数の推移

本章では、宿泊施設ごとに、国内旅行客・訪日外国人それぞれの利用状況や客室稼働率、客室数の推移を確認する。

●国内旅行客・訪日外国人の宿泊利用施設

利用施設は、国内旅行客・訪日外国人ともにホテルが最も多く、約7~8割を占めている(図表9)。旅館は国内旅行客が2割を占め、訪日外国人はその半分の1割程度の利用に留まっている。ただし、都道府県によって状況は大きく異なっており、山形や和歌山では5割以上の訪日外国人が旅館を利用している(10)。また、19府道県では旅館を利用する割合は国内旅行客よりも高い。最後に、簡易宿所はどちらも1桁台となっている。

宿泊施設の稼働率予測
(画像=ニッセイ基礎研究所)

また、1部屋当たりの平均利用者数は国内旅行客、訪日外国人ともに、旅館は2.5人程度、ホテルは1.5人程度、簡易宿所は2.2人程度で推移している。

なお、予測にあたっては、訪日外国人・国内旅行客ともに宿泊施設のタイプ別(旅館、ホテル、簡易宿所)の延べ宿泊者数の割合、それぞれの1部屋当たりの利用人数は各都道府県について2017年から変わらないとした。

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(10)そもそも旅館の割合(総客室数ベース)が山形は42%、和歌山が48%と全国(21%)に比べて高い。

●宿泊施設タイプ別の稼働率

次に、宿泊施設の客室稼働率を確認すると、ホテルは2011年の60.8%から2017年には73.2%まで上昇しているが、ここ数年は上昇ペースが鈍っており、高止まりしている(図表10)。ホテルの供給増に加え、大阪府(86.5%)、東京都(83.9%)、京都府(81.7%)は稼働率が80%を超えており、繁忙期や週末などは予約が取りづらい状況が続いていると考えられ、一段と上昇する余地がなくなっているとみられる。このような地域のホテルは需要を取りこぼしており、すでに客室不足にあるといえる。また、旅館の稼働率は、ホテルと比べると上昇ペースが鈍く、30%台後半で推移している。2012年から2017年の稼働率差を要因分解すると、旅館については、廃業による総客室数の減少が最も稼働率上昇に寄与している(図表11)。また、外国人宿泊者が増加していることも上昇要因だが、国内旅行客の宿泊者が減少しており、ホテルと比べると稼働率は高まっていない。

宿泊施設の稼働率予測
(画像=ニッセイ基礎研究所)

都道府県別にみると、大阪府(2011年32.5%→2017年59.6%)や東京都(2011年30.3%→2017年57.2%)など、ホテルの稼働率が高水準の地域では、旅館の稼働率も高まっている(なお、京都府(2011年40.8%→2017年40.0%)は横ばい)。ホテルと同様供給増が続いている簡易宿所は20%台後半で推移している。

宿泊施設の稼働率予測
(画像=ニッセイ基礎研究所)

●宿泊施設の供給動向

厚生労働省の衛生行政報告例を基に、旅館とホテル、簡易宿所の客室数の推移をみていく(11)。

客室数は170万室台で横ばい圏での推移が続いていたが、2017年度に180万室台に達した(図表12)。旅館は一貫して減少しており、2009年度には増加が続くホテルの客室数を下回った。簡易宿所については、2016年4月の旅館業法改正により、営業許可の要件が緩和(12)されており、比較的規制が少ない簡易宿所は近年大幅に増加している(図表13)。

また、ホテルについては先行きも増加が見込まれている。ホテルのオープン計画を調査・公表している株式会社オータパブリケイションズの週刊ホテルレストラン「全国ホテルオープン情報(2018年6月1日号、2018年12月7日号)」によると、2017年の1.0万施設(95.9万室)(13)に対して、2020年までに737施設の13.8万室(2018年:5.0万室、2019年:5.5万室、2020年3.3万室)のホテルがオープン予定となっている(2018年は開業済ホテルを含む。客室数が未定の施設は除く)。

宿泊施設の稼働率予測
(画像=ニッセイ基礎研究所)

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(11)簡易宿所は施設数しか公表されていないため、観光庁「宿泊旅行統計」から求めた1施設当たりの客室数(16~17年平均)を用いて推定している。
(12)例えば、簡易宿所の客室延床面積は一律33m2以上必要だったが、宿泊者数を10人未満とする場合には宿泊者1人当たり3.3m2以上となった。
(13)観光庁「宿泊旅行統計調査」の数値。

2020年、2030年の利用客室数と客室稼働率の予測

●全国での予測

以上の想定を基に、2020年、2030年における利用客室数の増減、宿泊タイプ別の客室稼働率を試算する。まず、全国でみると、どの宿泊施設の利用客室数も2020年、2030年時点で2017年より増加する結果となった(図表14)。訪日外国人が増加し、国内旅行客の減少分を上回っている。ただし、旅館は国内旅行客の減少を受けて、2020年以降に頭打ちとなり、簡易宿所は2020年以降に横ばいで推移する。一方、訪日外国人の利用割合の高いホテルは、2030年にかけて増加基調が続いている。

客室数を2017年時点で固定した場合、ホテルの稼働率は2020年に80%弱まで上昇するため、宿泊施設の不足感が高まるが、2020年までのホテルのオープン計画(13.8万室)を加味すると、2020年、2030年ともに2017年より稼働率が低くなった。全国でみると、すでに訪日外国人6,000万人を超える規模を見越したホテル建設が計画されているといえる。

客室数を2017年時点で固定した場合、旅館の稼働率は、小幅に上昇するものの引き続き30%台後半の低水準で推移する。ただし、旅館の廃業から供給できる客室数が減少しており、このことが過去5年間で3.2%ポイントの稼働率上昇に寄与している(図表14)。仮にこの傾向が続いた場合、2020年の稼働率は39.9%、2030年は45.9%と一段と上昇する可能性もあるが、なおホテルと比べると水準は低く、客室数には余裕がある状況が続くだろう。

最後に、簡易宿所の稼働率は20%台後半での推移が続くが、ホテルと同様に供給客室数が増加しており、稼働率を下押しする可能性がある。

宿泊施設の稼働率予測
(画像=ニッセイ基礎研究所)

●都道府県別での予測

次に都道府県別の状況をみていく。利用客室数(ホテル、旅館、簡易宿所の合計)は、三大都市圏だけでなく地方の利用客室数も2020年、2030年時点で増加しているが、国内旅行客の減少を訪日外国人の増加でカバーできない県も出てきており、地域による差が広がっていく(図表15)。2020年には利用客室数が12県で減少し、2030年には20県で減少する。なお、訪日外国人が急増する前の2011年から2017年の増減率をみると、すでに5県(秋田、福井、長野、鳥取、高知)は利用客室数が減少しており、秋田、福井、高知は先行きの減少率も大きい。インバウンド需要の恩恵が十分に及んでいない中、国内旅行客の減少も加わり、観光需要の落ち込みが見込まれる。

宿泊施設の稼働率予測
(画像=ニッセイ基礎研究所)