店長やマネージャーを、査定ではなく、選挙で選ぶ

フュービック,黒川将大
(画像=THE21オンライン)

――ヘルスケア事業の中でも、『Dr.ストレッチ』は従来になかったブルーオーシャンの事業です。一方、リラクゼーションサロンやヨガスタジオには競合がいます。

黒川 これらは『Dr.ストレッチ』よりも先に展開していて、経営しながら、レッドオーシャンで戦うことの難しさを痛感しています。レッドオーシャンでは、資金力がないと、戦略が有効に働かないのです。資金力がない中小企業がレッドオーシャンで勝つためには、相当な勇気を持って、外したら倒産するくらいの極端な舵取りをしなければなりません。

一方、ブルーオーシャンでは戦略がすごく有効に働きます。リラクゼーションサロンやヨガスタジオと違って、『Dr.ストレッチ』では、考えた通りの展開ができていますね。

「30~60店舗の段階ではたくさん批判が起こるけれども、それに負けると潰れてしまう。100店舗までは押し切らないといけない。そうすれば、批判は消える」というようなことも、他社の事例を見れば予想できますし、実際、その通りになりました。

そこで、100店舗を超えて落ち着いたところで、1年半かけて社内整備をしました。それが2017年に終わったので、2018年から、また出店を始めています。

――先の予想ができるとは、見事な経営学を身につけているように思えますが、どのように学んだのですか?

黒川 本もたくさん読みましたし、まったく別の業界ですが、同じようにチェーン展開で会社を伸ばしてきた仲の良い経営者がいるので、彼と討論しながら切磋琢磨しています。

――モデルにしている経営者や企業は?

黒川 よく聞かれるのですが、ありません。色々な人を「すごいな」と思うのですが、尊敬はしないようにしています。人というのは不完全なものですから、尊敬してしまうと、幻滅もすると思うんです。だから、色々な経営者の良いところだけを見ています。

――社内制度については、店長やマネージャーを選挙で選ぶという、ユニークなものがありますね。

黒川 一般的な会社では、出世や昇給のための査定があって、社員たちはその査定をする人のほうを向いて仕事をしがちです。要するに、組織がピラミッド状で、上にいる上司のほうを向いて仕事をするわけです。

しかし、本来、組織はお客様を中心にした円状であるべきだと思います。社員は中心にいるお客様のほうを向いているべきであって、上司は極力介在しないほうがいい。働くモチベーションが高いことが重要ですが、そのモチベーションはお客様に向かうべきで、それ以外には向かないほうがいいのです。

そこで、いかに人を査定しないかを考えて、選挙をすることにしました。10数年前に店長選挙を導入し、その上のマネージャーも2015年に選挙にしました。もう一つ上の階層は取締役と子会社の社長です。

給与については、店長まではインセンティブ制で、それより上は年俸制です。年俸を決めるに当たっては、一人ひとり、「今年やった、自分にしかできないこと」を私にプレゼンしてもらっています。そのポジションにいれば、他の人でもできたことは、その人の成果とは言えませんから。失敗してもいいので、その人でなければやれなかったことにこそ価値があります。

例えば、あるマネージャーは、『Dr.ストレッチ』のブランドを毀損しているような店舗があれば、手伝いに行って雰囲気をガラリと変える、ブランディングチームというものを作りました。てきめんに効果がありましたね。

――実力主義な感じですね。

黒川 単に実力主義にすると、社員同士が協力せず、殺伐としがちなので、そうならないように、「フュービック・ベーシック・トレーニング」という理念研修をしています。当社の価値観を教える研修です。

これは入社前の内定者も受けるもので、共感できなければ、入社していただかなくて構わないと言っています。

入社してからも、アルバイトから取締役まで、在籍中はずっと、半年に1回受け続けなければなりません。海外でも同じです。私は、その研修のために、ずっと各地を走り回っています。

技術や接客の能力研修は、この理念研修を土台にして、その上に乗るものです。

私が理想としているのは、協力と競争という、相反するものが共存する組織です。これが最大に魅力的な組織だと思っています。「自分の成績のために、あいつには仕事を渡さない」というようなメンタリティはなくて、でも自分の成績にはこだわる、という状態ですね。

考え方が土台にあったうえで、報酬を上に乗せることが大事なのです。報酬が先になってはいけません。

――「選挙で選ばれる店長には、こういう人が多い」というようなことはあるのでしょうか?

黒川 私が見て「良さそうだな」と思う人が落ちることもあるし、「どうなのかな」と思う人が選ばれることもあります。やっぱり、私が見ているのは、社員の一面でしかないんでしょう。周りの人はよく見ていますよ。選挙を導入してよかったなと思いますね。

私が評価するとなると、どうしても私の好き嫌いも入ってきますからね。それで社長に嫌われたら、その人がかわいそうじゃないですか。選挙なら、もし私が嫌ったとしても、当選すれば店長やマネージャーになれます。社長に媚びを売る必要なんてないわけですよ(笑)。

――店舗間の人事異動はあるのでしょうか?

黒川 あります。すごく売上げが高い店舗でも、それ以上伸びなくなったら、異動させることもあります。ずっと同じ店舗にいると、対人スキルが弱るんです。

せっかくチームをまとめる能力がある店長でも、いったんチームがまとまってしまって、その能力を使わなくなると、弱くなります。3年ごとくらいに新しいチームに入ることで、リーダーシップがより強くなっていきます。

人が飽きずに成長するシステムを作ることは、離職を防ぐことにもなりますね。

――最後に、今後、会社の規模をいつまでにどのくらいにしたいという目標は?

黒川 時期は決めていませんが、私のフットワークが軽いうちに、どうやって1,000億円企業に持っていくかに悩んでいるところです。

200億~300億円は今の延長線上に見えるのですが、1,000億円はステージが違いますね。1対1でサービスを提供する事業では、なかなか見えてきません。

ただ、ヘルスケア事業は、少子高齢化が進んでいる日本で、最も拡大していくと思います。2007年生まれの人の半数が107歳まで生きると言われていますから、30~40年後には、年金受給年齢を90歳くらいまで引き上げなければならなくなるのではないでしょうか。すると、今以上に、若々しく健康に歳を取らざるを得なくなりますから。

――事業領域をさらに拡大する考えは?

黒川 私たちのミッションは、若々しく健康に歳を取る時代に、そうした人たちの習慣として、革命的なサービスを提供することです。『Dr.ストレッチ』も、ストレッチに通うという新しい習慣を提供するサービスですが、それは一つの手段です。これからは、土台になる事業も展開していきたいと考えています。具体的には、2019年3月くらいに発表できると思います。

黒川将大(くろかわ・まさひろ)〔株〕フュービック代表取締役社長
1971年、東京都生まれ。都立高校卒業後、大手ゴルフショップや自動車販売店を経て、93年に自動車販売事業で〔有〕アウトバーンを設立。2001年にリラクゼーション事業部を設立。02年、〔株〕フュービックに組織変更。09年、tennis365.net開始。10年、Dr.ストレッチ第1号店を神奈川県に開店。同年、農業事業に着手。15年、奄美大島のリゾートホテル『THE SCENE amami spa&resort』開業。16年、Dr.ストレッチ海外初出店(上海1号店)。18年、社内通貨アプリ『FRICA フリカ』をリリース。《写真撮影:まるやゆういち》(『THE21オンライン』2018年12月29日 公開)

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