歴史の大きな流れに乗ることが、中小企業には必須
――『Dr.ストレッチ』の他にも、幅広いビジネスを手がけていますね。
黒川 もとは自動車販売業から始めました。それから、2001年にリラクゼーションサロンでヘルスケア事業に進出し、ヨガスタジオも展開しています。さらに、『tennis365.net』でスポーツニュースのメディア事業にも参入したあとで始めたのが、『Dr.ストレッチ』です。
――農業や施工の事業もされています。
黒川 ヨガリトリートやファスティングなどができる、健康に特化したリゾートホテルの経営も、2015年からしています。
農業は、健康に関する事業を展開するうえで「食」は切り離せないテーマだと思い、始めました。食材を作ってみないことには、食のことはわかりませんから。
農業のノウハウは持っていなかったのですが、収穫までのサイクルが長いので、うまく食材を作れるようになるまでに時間がかかるだろうと思い、ビジネスモデルを考えるよりも、まずは早く始めることを優先しました。初めに作ったのは、社員が食べるための無農薬のコメなどです。もちろん、健康に関わる仕事に就いているからには、健康的な食事を摂ってほしいという想いもあります。
――食というと、飲食業も考えられると思いますが……。
黒川 飲食業はすごく難しいビジネスだと思うんです。同じような食材を仕入れて、それを中華料理にしたり、イタリアンにしたりと、手を変え品を変えして提供しているように、私には見えるんですね。同じ保険を売っている代理店が、それぞれに工夫してキャンペーンをしているようなイメージです。だから、どこかの代理店のキャンペーンが成功したら、他の代理店も同じキャンペーンをするように、どこかの飲食店が成功したら、他の飲食店に追従されて、あっという間にレッドオーシャンでの競争になってしまいます。
自分の店でしか仕入れられない食材を使っている高級寿司店なら、他店に追随されることはありませんが、私たちには高級寿司店は作れません。
――ということは、農業で他にはない食材が作れれば、それを使った飲食業を始める可能性はある?
黒川 かもしれません。
――施工事業をしているのは、どういう理由なのですか?
黒川 ヘルスケア事業の店舗の施工を自社でできると、コストを大幅に抑えることができ、メリットが大きいのです。
それに、異業種の会社の店舗の施工をすることで、その業種や会社が、どういうところにこだわって店舗を作っているのかを知ることもでき、とても勉強になります。
私はもともと自動車を売っていて、店舗づくりについては知らなかったので、店舗を持つ前に内装業を始め、色々な業種を見ました。そうして店舗の作り方を知ったうえで、29歳のときに「これからはヘルスケアとエンターテインメントが伸びる」と思い、その業界に入ったんです。
――なぜ、そう思ったのでしょうか?
黒川 過去の歴史を振り返ると、覇者は皆、不老不死を求めているんです。すべてのものが手に入ると、気になるのは健康のことだけなんですね。これからの日本人もそうなるだろうと思いました。
また、エンターテインメントとしてスポーツ観戦を楽しむ人も増えるだろうと思ったのは、ローマ帝国の歴史を振り返ったからです。ローマ人は戦利品だけで生きていけたので、200年近く働いていないんです。働かずに何をしていたかといえば、コロッセオでワインを片手に殺し合いを観て楽しんでいました。今の倫理観ではそんな残酷なことはあり得ませんが、その代わりになるのがスポーツ観戦でしょう。
これからAIが普及して大きな利益を上げるようになれば、AIが上げた利益に国が高い税率で課税し、それを原資にベーシックインカムを実施したり、生活保護を手厚くしたりするようになるかもしれません。そうなれば、日本人は、よりローマ人に近い状態になります。
――ものすごく長いスパンの歴史観を持って、ビジネスを考えているのですね。
黒川 私たちのような中小企業は、大きな川の流れには絶対に逆らえません。だから、大きな川の流れがどちらを向いているのかを見極めて、それに乗らなければならないのです。
――自動車販売から内装業、さらにヘルスケア事業やスポーツニュースのメディア事業と、新しい事業に次々と参入されてきたわけですが、新事業への参入には困難が伴うものではないでしょうか?
黒川 それほど難しくないですね。むしろ、同じ業界に昔からいた人のほうが、その業界の常識に囚われてしまって、顧客の本当のニーズをつかみづらいのかな、と思います。
ただし、必ずその業界の優秀な技術者と組んだうえで、新しい事業に参入しています。当社は、優秀な技術者と組んで生きる会社なんです。
――どのような組み方をするのでしょう?
黒川 例えば『Dr.ストレッチ』だと、山口元紀さんという、もとは米国で野球チームのトレーナーをしていた人と組んでいます。当社は彼からストレッチの技術を提供してもらい、彼には社外取締役として役員会に出席してもらって、会社経営のノウハウを提供しました。彼自身のプロモーションも当社がお手伝いできますし、彼が経営しているパーソナルトレーニングジムの資金調達を当社のCFOが一緒にしたりもしています。