アマゾンがシアトルを選んだ三つの理由
ではシアトルに有名大企業が多いのは「ただの偶然」なのか?
それでは話が1行で終わりになってしまう。いや、シアトルという一見のんびりとした「地方都市」に世界に名だたる有名大企業がひしめき合っているのには、なんらかのロジカルな理由があるに違いない。本記事では、その謎に迫ってみる。
「シアトルを本拠とする有名大企業」のうち、先ほど筆者が故意に名前を挙げなかった会社がある。ネットの巨獣、アマゾンである。今日、「シアトルといえばアマゾン」という、両者は切っても切れない関係になってしまった。
筆者も昨年、シアトルを訪れ、ダウンタウンの約10ブロック四方を占拠し、合計40軒程度の建物から構成される「アマゾン本社キャンパス」のウォーキング・ツアーに参加した。実は4、5年前にも同社で働く友人に招かれ本社を訪問したが、その当時はジェフ・ベゾスなどトップ経営陣がオフィスを構える「デイ・ワン」ビルディングを中心に数軒が存在するばかりだった。
今ではそれが、「シアトル=アマゾン・タウン」と呼んでも間違いではないくらいに幅を利かせている。各建物の表にはアマゾンの社史にちなんだ独特の名前が表示されているだけで、アマゾンの看板やロゴがあるわけではない。だが、ここはアマゾンの縄張りなのだ、という不気味な存在感が漂う。あちこちに大型クレーンがそびえ、建設工事が行なわれている。「アマゾン本社キャンパス」の拡張は現在進行形なのだ。
先に名前を挙げた有名大企業の創設者たちとは異なり、アマゾンの創設者であるジェフ・ベゾスの出身はシアトルではなく、ニューメキシコ州アルバカーキである。ニューヨークのヘッジファンドで働いていたベゾスがオンライン・ブックストアを起業することを思い立ち、ニューヨークからシアトルに向けて移動中の車の中でそのビジネス・プランを書いた話は有名だ。
つまりベゾスは、全米にある都市の中からあえてシアトルを選んだ。その理由は次の三つだと言われている。
第一に、優秀なタレント・プールが存在したこと。アマゾンが設立された94年には、マイクロソフトは既に世界のOS市場の90%のシェアを占有し、テクノロジー業界の王者として君臨していた。マイクロソフトがマグネットとなり、テクノロジーの第一線で働きたい人材を引き寄せていたため、アマゾンを立ち上げるのに必要とされる優秀な人材を集めるのに適した土壌があった。
第二に、アメリカ最大の書籍卸業者の所在地であるオレゴン州ローズバーグに比較的近かったこと。「世界最大のオンライン・ブックストア」として起業したアマゾンにとって、この近接性は必要不可欠であった。
第三に、ワシントン州という、ニューヨーク州やカリフォルニア州と比べて人口の少ない州に本拠(施設)を置くことは、税制の面で有利であったということがある。当時、ネット通販会社は、施設の存在する州に限り売上税を徴収することが義務付けられていた。したがって、ワシントン州という小ぶりな州に本拠を置くことは、税金の負担を軽くし、それをビジネス上の優位性につなげるという思惑があった。