要旨
- 日米のTAG交渉が今月中旬にも開始される見通しと報じられている。日本は安全保障を同国に依存していることなどから交渉上不利な状況にあり、日本にとって厳しい交渉となることが懸念される。為替相場への影響に焦点を当てて考えてみたい。
- USTRが交渉項目に掲げる中で為替相場に直結するのは「為替」の協議であり、具体的には(円安誘導防止のための)為替条項の導入有無とその内容となる。日本にとっては避けたいところだが、米政権がTAG交渉で為替を議論し、為替条項を求めてくる可能性は高い。導入が避けられなくなった場合はその内容が重要になるが、日本はUSMCAにおける為替条項よりも厳しい内容を求められる可能性がある点には注意が必要だ。米政権は日銀の金融緩和に厳しい視線を向けているフシがあるためだ。金融緩和に明確な縛りをかけることは考えづらいが、金融緩和の自由度低下を連想させる表現が入れば、日銀金融緩和の持続性への懸念が高まり、円高が進むだろう。また、交渉途中においても、こうした可能性が意識されれば、円高反応が起こるだろう。トランプ政権が物品貿易領域での譲歩を促すために、厳しい為替条項を見せ球にしてくる事態も想定できる。
- また、物品貿易領域での交渉も為替に影響を与える。本来、米国が求める日本の対米貿易黒字是正が実現するのであれば、「日本の貿易収支悪化」等を通じて円安材料になるはずだが、短期的には逆に円高材料になり得る。特に注目されるのが自動車領域だ。日本の対米黒字の大半は自動車関連であるだけに、輸出数量規制まで求められる可能性がある。自動車は日本の基幹産業であるため、規制が導入されれば、日本経済への悪影響も大きい。この場合、市場では「日本株売り→リスクオフの円買い」の発生が予想される。
- このように、TAG交渉には円高材料になり得る要素が多分に含まれている。最終的には杞憂に終わるかもしれないが、円高への警戒は怠れない。