世界的にオフショア(タックス・ヘイヴン)への監視が厳しくなり、また、移住のハードルを高くする国が多くなりました。となると、「5つの国旗論」を実践して「パーマネント・トラベラー」(終身旅行者)として生きるという富裕層のライフスタイルは、どう変わっていくのでしょうか?

「5つの別の国で生きる」とはどういうことか?

オフショア,監視
(画像=Travelerpix/Shutterstock.com)

まずは、「5つの国旗論」とはどんなものか、確認してみましょう。

第1の国旗:国籍(パスポート)を持つ国
第2の国旗:仕事をする国(所得を得る国)
第3の国旗:居住のベースとなる国
第4の国旗:資産運用を行う国
第5の国旗:余暇を過ごす国

このように、目的別に自分の生活を5つに分け、その5つにもっとも適した「5つの別の国で生きる」というのが、世界の富裕層がこれまで実践してきたライフスタイルです。

これを実行すると、定住地がなくなるので、実践者のことを「パーマネント・トラベラー」(PT:Permanent Traveler=終身旅行者)と呼びます。

このライフスタイルは昔からありました。ただ、主流になったのは、世界経済がグローバル化した1970年代あたりからと言われています。その時代からそれぞれの国を目的別に使い分けて暮らす方法が確立されていったのです。

この5つの国旗が、すべて違う国である必要はありません。目的がかなうなら、2つの国旗でも3つの国旗でもいいのです。

オフショアへの移住が「PT」への最大の近道

富裕層の多くが願うのは、「自身で築いた資産の保全」と「なにものにも縛られない自由な暮らし」です。となると、節税と投資環境のよさがもっとも大きな目的となり、「第3の国旗:居住のベースとなる国」と「第4の国旗:資産運用を行う国」は、ほぼ同じオフショア(タックスヘイブン)ということになります。つまり、オフショアへの移住が「PT」になるための最大の近道です。

ほとんどのオフショアは、キャピタルゲインや投資所得への課税、相続税などがなく、世界中の主要な銀行、証券会社、大手会計事務所がそろっています。また、余暇を過ごすためのインフラも整っています。

例えば、アジアで筆頭に挙げられるのがシンガポール、香港でしょう。欧州では、モナコ、リヒテンシュタイン、スイス、ルクセンブルクなど、アメリカではカリブ海の島国、ケイマン(英国領)、バハマ、バミューダ、ヴァージン(英国領)、セントクリストファー・ネービスなどが挙げられます。

実は、日本からは比較的近い太平洋のサモアやバヌアツもオフショアです。また、投資による永住権や長期滞在ビザが取得でき、富裕層に対する優遇税制があるアメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、アイルランドなどもある意味オフショアと言えるのです。

世界中の金融口座が透明化されてしまった

ところが、ここ数年、こうした富裕層のライフスタイルを揺るがす、オフショアへの規制が強まってきました。アメリカでは、2010年に成立した「FATCA」(ファトカ:Foreign Account Tax Compliance Act=外国口座税務コンプライアンス法)に基づき、アメリカ人が国外に持つ金融口座を開示させることができるようになりました。さらに、一定額以上の海外資産はIRS(内国歳入庁)に届け出ないといけないことになりました。

また、OECD諸国は多国間協定を結び、「CRS」(Common Reporting Standard=共通報告基準)によって、各国の税務当局が金融口座情報の交換ができるようになりました。日本でも、2014年から「国外財産調書制度」が始まり、5,000万円以上の海外資産は税務署に届け出る義務が生じました。

つまり、世界中の金融口座は透明化されてしまったのです。

移住ハードルが高くなり、移民排斥の動きも

こうした動きとともに、各国では移住のハードルを高くする法改正が進みました。例えば、シンガポールでは投資家ビザによる永住権取得のためには、最低250万SGドル(約2億円)が必要になりました。また、投資会社の売上高は、直前の会計年度について年間5,000万SGドル(約40億円)以上であるなどの条件があります。

投資家ビザによる永住権取得に関しては、ニュージーランドでは300万NZドル(約2億4,000万円)、アメリカでは50万USドル(約5,500万円)と、各国で違いがあります。ただし、3年間投資、10人以上の現地雇用の確保など、さまざまな条件の違いがあります。

さらに、富裕層には直接関係しませんが、トランプ政権のように移民排斥の動きが世界中で進行していることも懸念材料です。特に、トランプ政権は、アメリカで生まれた子どもなら誰でも国籍を与えるという「属地主義」を見直そうとしています。

日本の課税強化が富裕層をますます追い出すことに

では、こうした動きが、「5つの国旗論」ライフスタイルを変えていくでしょうか?

答は、基本的にノーです。

なぜなら、富裕層にとっての大きな目的は節税と投資だからです。例えば、2017年1月 ソフトバンク社長の孫正義氏の弟・孫泰蔵氏が、永住権を取得してシンガポールに移住しました。これは、「5つの国旗論」の典型的な実践です。

日本の場合、富裕層に対する課税強化が進んでいるので、富裕層の海外移住は止まらないでしょう。2015年からは、相続税の最高税率が55%に引き上げらました。この税率で3代目が相続すると、単純計算では1代目の遺産は20.25%に目減りします。

また、2017年の税制改正では、国外資産への相続税の免除条件が、相続人・被相続人とも「相続開始前に海外に5年超在住」から「10年超在住」と厳しくなりました。相続税は、税を納めた後の資産に再度課税しているわけで、二重課税です。世界には相続税がない国が多いのです。

日本人富裕層のいちばん人気はやはりアメリカ

アメリカの富裕層の場合、最近は、ニュージーランドへの移住が人気を呼んでいます。映画監督のジェームズ・キャメロン氏、投資家のジュリアン・ロバートソン氏、ペイパル創業者のピーター・ティール氏などが、相次いでニュージーランドに移住しました。

ニュージーランドは日本の富裕層にも人気で、2009年にはベネッセの2代目の福武總一郎氏が移住しています。

ただ、日本の富裕層にとっていちばんの移住先は、アメリカです。その理由は、アメリカの投資家ビザによる永住権取得のハードルが他国に比べて低いこと。アメリカが「CRS」協定国ではないこと。さらに、相続税があっても最高税率は40%で、基礎控除が543万米ドル(約6億円)と高いことです。

アメリカには、チャリタブル信託を設定し、公益事業に一定期間寄付すると信託財産を破格値で相続できるといった抜け道がいくつも用意されています。また、デラウェア州のように法人登記が容易で、法人税が破格に安い州があります。

シンガポールに続々と移住する日本人富裕層

アメリカに続く人気なのが、やはり同じアジアということでシンガポールです。シンガポールは多民族国家でもあり、多くの日本人が住んでいます。あの冒険投資家ジム・ロジャーズも住んでいます。

つい先ごろ起こった香港での大規模デモは、香港のオフショアとしての価値に大きな懸念を抱かせました。有力ヘッジファンドのヘイマン・キャピタル・マネジメントの創業者カイル・バス氏は、「(このままでは)アメリカや英国の投資銀行家や最高責任者らは家族とともに、自国やシンガポールなどへ移るだろう」(CNBCの番組)と述べました。

シンガポールには、前記した孫泰蔵氏のほか、パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(旧ドンキホーテホールディングス)最高顧問の安田隆夫氏、村上ファンドの村上世彰氏、LIXIL会長の潮田洋一郎氏、HOYAの CEO鈴木洋氏などが、すでに移住しています。

富裕層は移住先を要検討する必要がありそうです。(提供:JPRIME


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