不動産を売却したら確定申告が必要になる可能性があることをご存じだろうか。実は、不動産売却したときの状況により、確定申告が必要な場合とそうでない場合がある。また、確定申告をしなくてもよいが、「自分自身のためにしたほうが良い」というパターンもある。確定申告をする場合は、確定申告に必要な書類をまとめ、確定申告する際に受けられる控除を確認して正確な税額を計算する形で進めていく。今回は不動産を売却した場合に確定申告をする方法について解説する。

不動産を売却したら確定申告は絶対に必要?

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(画像=PIXTA)

実は不動産を売却した場合、確定申告は絶対に必要というわけではない。ただ確定申告の義務はないが、しておいたほうが節税になる場合もある。確定申告が必要な場合と必要ではないがやっておいたほうが良い場合について見ていこう。

売却益が出たら必要

不動産を売却して売却益が出た場合、確定申告は絶対に必要だ。所得税・住民税がかかるのだから当然のことといえるだろう。しかし、売却益は売却価格とは違う。課税対象の売却益のことを「課税譲渡所得」と呼ぶ。課税譲渡所得金額の計算方法は以下の通りだ。

・課税譲渡所得金額=譲渡価額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額

不動産を売却したときの価格から取得費と譲渡費用、特別控除額をマイナスした残りの金額が、課税対象の譲渡所得金額だ。取得費と譲渡費用は、主に以下の費用が含まれる。

【取得費】
売却した不動産を取得したときにかかった費用。主に以下の費用が認められている。取得費が分からない場合は、売却価格の5%を取得費としてもよい。

・不動産の購入価格
建物の場合:購入代金または建築代金などの合計額から減価償却費相当額を差し引いた金額
・購入時にかかった不動産仲介手数料
・購入時にかかった登録免許税、印紙税
・借り主がいた場合の立ち退き料
・土地の造成費用
・所有権確保のための裁判に関する費用
・土地購入前にあたって行った測量費
・建物付き土地で土地利用が目的と認められる場合の建物の取り壊し費用
・不動産を購入してから利用開始までに支払った借入金の利子
・他物件の購入契約を解除し対象の物件を購入した場合の違約金

【譲渡費用】
不動産を売却したときにかかった費用のことを譲渡費用という。譲渡費用として認められる費用の例を列挙する。

・売却時にかかった不動産仲介手数料
・売却時にかかった登録免許税、印紙税
・借り主がいた場合の立ち退き料
・売却のために建物を取り壊した場合の取り壊し費用と建物の損失額
・ほかの売買契約を解除して別の買い主と売買契約を締結した場合の違約金

これらをすべて計算して課税譲渡所得金額がプラスになれば、確定申告の必要がある。上記で課税譲渡所得を計算してみよう。例えば、5,000万円で購入した土地を3年後に8,000万円で売却したとする。取得費に500万円、譲渡費用に300万円かかったとすると、計算式は以下の通りだ。

・課税譲渡所得=譲渡価額8,000万円-(取得費5,500万円+譲渡費用300万円)=2,200万円
※特別控除はない場合のシミュレーション

課税譲渡所得が算出できたら支払う必要のある譲渡所得税を計算する。しかし、不動産の譲渡所得税を計算する際は、5年以下の所有では短期譲渡所得、5年を超えて所有している場合は長期譲渡所得となり、短期譲渡所得の税金は40%近い高い税率が課せられるため注意したい。計算式は以下の通りだ。

・短期譲渡所得:所得税30%、復興特別所得税 0.63% 住民税9%=合計39.64%
・長期譲渡所得:所得税15%、復興特別所得税 0.315% 住民税5%=合計20.315%
※復興食別所得税は、2037年までかかる所得税で、所得税の2.1%上乗せで徴収
※所有期間は、不動産を売却した年の1月1日時点で計算することに注意

先ほどの事例は所有期間3年のため、短期譲渡所得となり税額は以下のように算出される。

・課税譲渡所得2,200万円×長期譲渡所得税率0.3964=872万800円

もし長期譲渡所得だった場合、税額は以下のように変化する。

・課税譲渡所得2,200万円×長期譲渡所得税率0.20315=469万9,300円

損が出たら節税対策になる

不動産を売却して損(譲渡損失という)が出たら確定申告の必要はない。譲渡損失は、通常ほかの所得(給与所得や事業所得)と合算する「損益通算」はできず、確定申告をしても節税効果はない。しかし、以下のケースでは節税が可能だ。

・5年を超えて居住していたマイホームを売却して、譲渡損失が出た場合
・住宅ローンが残ったままでマイホームを売却して譲渡損失が出た場合

譲渡損失を最高3年間にわたって給与所得や事業所得から控除できるため、税額も安くなり、結果的に社会保険料が軽減する場合もある。

不動産売却後、確定申告をすることで受けられる控除

不動産を売却したあとに確定申告をすることで特別控除を受けられる場合がある。事業用資産とマイホームでは扱いが異なるので、それぞれ分けて説明しよう。

3,000万円特別控除

マイホームを売却したとき、あるいは親族の持ち家を空き家の状態で相続や遺贈により取得した敷地などを売却した場合(2023年12月31日までの期間限定)3,000万円の特別控除が認められる。

・マイホームを売却したとき
居住期間の長短に関わらず、「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」が認められる。ただし、「別の住宅に引っ越して3年以上経過した場合」「売る相手が親族の場合」「別荘や仮住まい用」など常時居住していない場合は、本特例は認められない点に注意したい。

・被相続人の居住用財産(空き家)を売却したとき
一定の条件に当てはまる被相続人の居住用財産(空き家)を2023年12月31日までに売却した場合、3,000万円の特別控除が認められる。条件などが複雑なため、国税庁の公式サイトを確認して条件に当てはまるかどうかを確認しよう。

国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」:
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm

軽減税率の特例

マイホームを売ったときの軽減税率の特例は、マイホームに10年以上居住していた場合に適用される。適用条件は以下の5つだ。

・売った年の1月1日時点で10年以上居住している
・住まなくなった場合は3年以内に売却していること
・前々年・前年ともに本特例を受けていない
・マイホーム売却の3,000万円特別控除以外に、不動産の売却関連で軽減措置を受けていない
・親子や夫婦など特別な関係を認められる人に売却していない

軽減税率は以下の2段階だ。

・譲渡所得が6,000万円以下:譲渡所得×10%
・譲与所得が6,000万円超 :(譲渡所得-6,000万円)×15%+600万円

つまり6,000万円以下は譲渡所得の10%、6,000万円を超える部分については、長期譲渡所得と同じく15%の所得税がかかる。(加えて2037年までは所得税に対して2.1%の復興所得税がかかる)

買い換えの特例

買い換えの特例は、事業用資産の場合とマイホームの場合がある。それぞれに特徴などが違うため、分けて解説する。

【事業用資産】
事業用資産を買い換える場合、買い換え時にかかる税金の一定割合を将来に繰り延べることができる。この特例の適用条件は以下の通りだ。

・譲渡資産と買い換え資産の両方とも事業用であること
・譲渡資産と買い換え資産が一定の組み合わせであること
・買い換え資産が譲渡資産と比べて土地の面積が5倍以内であること
・譲渡した年の翌年中に買い換え資産を購入すること
・買い換え資産を購入してから1年以内に事業用として利用すること

しかし、何をもって「事業用資産」とするのだろうか。個人の場合、分かりやすい例でいえば不動産の貸付などがこれにあたる。事業用資産の範囲については、国税庁で詳しい説明があるため確認しよう。

国税庁「No.3402 事業用の資産の範囲」:
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3402.htm

また、「譲渡資産と買い換え資産が一定の組み合わせであること」はパターンが多岐にわたるため、以下を参照して直接確認してほしい。

国税庁「No.3405 事業用の資産を買い換えたときの特例」:
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3405.htm

軽減税率は、譲渡価格と取得価格を比較して、どちらが高いかで変わってくる。

<譲渡価格よりも取得価格が高い(マイナスになった)場合>
課税対象の譲渡所得が毎年20%ずつ計上され、税金の負担も少なくなる。ただし買い換え資産が東京23区内なら30%、大阪などの大都市圏は25%と、繰り延べされるパーセンテージは変化する点に注意。

<取得価格よりも譲渡価格が高い(プラスになった)場合>
この場合は、買い換えた金額の80%を上限として譲渡益が繰り延べされる。買い換え資産が都心の場合は、この割合がもう少し低くなる。ただし事業用の資産の買い換え特例は、適用することが必ずしもメリットとならない場合もあり、要件も非常に複雑だ。自分で処理が難しいと感じる場合は、税理士に相談することも検討したい。

【マイホーム】
マイホームも買い換えたときに特例がある。「特定居住用財産の買い換え特例」と呼ばれ、2パターンの特例が適用される。

・<譲渡価格よりも取得価格が高い(プラスマイナスゼロかマイナスになった)場合>
売却価格にかかる譲渡所得税が繰り延べされ、今回買い換えた不動産を売却した際に課税される。

<取得価格よりも譲渡価格が高い(プラスになった)場合>
プラスになった分の収入金額を、以下の式にあてはめて課税対象の譲渡所得額を決める。

・譲渡所得=収入金額-(売却したマイホームの取得費+譲渡費用)×(収入金額÷売却価額)

適用条件は複雑なので、国税庁の公式サイトを確認してほしい。

国税庁「No.3355 特定のマイホームを買い換えたときの特例」:
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3355.htm

国税庁「No.3358 売った金額より少ない金額でマイホームを買い換えたとき」:
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3358.htm

不動産を売却した時の確定申告の方法

不動産売却で確定申告すると決まったら、確定申告に必要な書類を集めて確定申告に備えよう。確定申告の時期は、毎年2月16日~3月15日までだ。ただし2月16日や3月15日に土日祝がかかる場合は、税務署が開いている翌営業日からとなる。例えば、2月16日が土曜日だった場合、確定申告は月曜日の2月18日より開始となるのだ。

確定申告に必要な書類は、以下の通りとなるため税務署に直接届け出る場合は忘れず持っていこう。

・マイナンバー確認の書類
マイナンバーカード、マイナンバー通知カード、住民上の写し(マイナンバー記載のもの)

・本人確認の書類
マイナンバーカード、運転免許証、パスポートなど

・還付金を受け取る場合
銀行口座の届出印と銀行口座の口座番号が分かるもの

確定申告に必要な書類と作成する書類については次に説明する。

必要書類と入手方法

不動産売却に関わる売却価格や取得費、譲渡費用を証明するための書類も用意しなければならない。必要な書類と入手方法を簡単にまとめる。

【不動産の売却時に入手する書類(写し)】
・不動産売買契約書
・不動産売買契約の領収証
・仲介手数料の領収証
・測量費や登記費用などの領収証

【不動産を買い換えたとき、不動産購入時に入手する書類】
・不動産売買契約書(写し)
・建築請負契約書(写し)
・一般媒介契約書
・登記費用など諸費用の領収証(写し)

【役所で入手する書類】
・住民票(売却不動産の所在する役所で入手)
・売却後2ヵ月経過後にされた戸籍の附票(売却不動産の所在する役所で入手)
・売却した土地・建物の全部事項証明書(法務局で入手)
・住民票除票(10年以上住んでいたことを証明する場合、売却不動産の所在する役所で入手)

確定申告時に作成する必要のある書類は以下の通りだ。

【税務署から入手する用紙】
・確定申告書の用紙(申告書B ・申告書第三表/分離課税用)
・譲渡所得の内訳書(確定申告書付表と計算明細書)

税務署から入手する譲渡所得の内訳書フォーマットは、国税庁の公式サイト「申告書添付書類一覧(所得税および復興特別所得税(譲渡所得・山林所得関係)申告書添付書類)」にPDF形式で掲載されているため、確認して必要なフォーマットをダウンロードしよう。

手順

確定申告は、個人で行う場合と税理士に頼む場合がある。ここでは個人でのやり方を説明する。

【紙でフォーマットを入手して確定申告をする方法】
税務署でもらってきたフォーマットに必要事項を書き込み、申告する手順は以下の通りだ。

1 不動産売却に関する必要書類をそろえる
2 国税庁のサイトから、確定申告に必要なフォーマットを印刷する
3 手書きで必要事項をすべて埋める
4 作成した確定申告書を2部印刷する
5 確定申告書に添付が必要な書類を所定の場所に添付
6 住所地などの所轄税務署の窓口に期限日までに持ち込むか、郵送する。郵送の場合は、締め切り日当日の消印まで有効

【確定申告書作成用のソフトウェアを使って確定申告をする方法】
紙で手計算して書類を作成すると、計算間違いをしたときに修正が面倒だ。確定申告書作成用のソフトウェアを使い、自動計算を利用して確定申告書を作成すると、何度も作り直しができるので楽になる。ここでは確定申告書作成用のソフトウェアを使った確定申告の手続きについて説明しよう。

1 不動産売却に関する必要書類をそろえる
2 確定申告書作成ソフトウェアで、不動産売却に関わる必要事項を入力する
3 作成した確定申告書を2部印刷する
4 確定申告書に添付が必要な書類を所定の場所に添付
5 住所地などの所轄税務署の窓口に期限日までに持ち込むか、郵送する。郵送の場合は、締め切り日当日の消印まで有効

【確定申告書作成コーナーとe-TAXを使って電子申告をする方法】
マイナンバーカードとパソコン、カードリーダーがあれば、e-TAXを使って電子申告をすることが可能だ。電子申告だと、「確定申告書作成コーナー」で所得申告書を作成してすぐに送付でき、税務署の窓口に出向くことも郵送も必要ない。e-TAXを使って電子申告をする手順は以下の通りだ。

1 不動産売却に関する必要書類をそろえる
2 マイナンバーカードを取得していない場合は取得する(時間がかかるため早めに)
3 確定申告書作成コーナーで、必要事項を入力する
4 e-TAXで電子申告を行う

納税方法

確定申告をする過程で税金を支払わなければならないことが判明した場合、納税する必要がある。納税期限は、所得申告の期限と同じく3月15日なので注意したい。納税方法には、以下のものがある。

・指定した金融機関の預貯金口座から振替
・税務署へ足を運び現金で支払う
・クレジットカードを使い「国税お支払いサイト」よりクレジット決済(1,000万円以下かつクレジットカードの利用限度枠内)
・コンビニで支払う(30万円以下)

不動産売却による納税は、金額が大きくなる可能性があるため、できれば指定口座からの振替納税を行いたい。口座振替の場合、振替日は4月下旬となるため、支払いを遅らせることもできる。指定口座からの振替納税を希望する場合は、確定申告書を届けるのと同時に口座振替の依頼書を届け出ておくことを忘れないようにしよう。

おすすめのソフトウェア

不動産売却をそう何度も行うことがなく、普段は確定申告をしないという人は、国税庁の「確定申告書作成コーナー」が無料で手軽に作成できるのでおすすめだ。逆に不動産投資などで毎年不動産の売買をする予定がある人は、確定申告に便利なクラウド会計ソフトを利用すると良い。確定申告ができるおすすめのクラウド会計ソフトは、以下の3製品が有名だ。

・freee:https://www.freee.co.jp/
・MFクラウド確定申告:https://biz.moneyforward.com/tax_return
・やよいの青色申告:https://www.yayoi-kk.co.jp/products/aoiro_ol/index.html

必要なら忘れずに確定申告をしよう

不動産売却で譲渡益が出た場合、必ず確定申告をしなければならない。逆に譲渡損失が出た場合は、状況により節税できる場合があるので確定申告するかどうかを決めよう。確定申告をするかどうかの判断はそう難しくはないが、特別控除や軽減税率の適用など非常に複雑な条件があるため、自分ではどれが使えるのか判断が難しい部分が多い。

そのため、必要に応じて税理士に相談して「どの方向で進めていくのか」を確認することをおすすめする。「どの控除を適用して、どういう書類をそろえるべきか」がはっきりすれば、確定申告の手続き自体はあまり難しくない。納税が必要な場合は、金額が大きくなりがちなので、指定口座への振替納税をするよう、口座振替手続きも同時に済ませよう。