(本記事は、長倉 顕太の著書『GIG WORK(ギグワーク)』すばる舎の中から一部を抜粋・編集しています)

ジャニーズジュニアのファンクラブに入ってみたら

(画像=Zodiacphoto/Shutterstock.com)

そういえば、先日、オレはジャニーズJr.(ジュニア)のファンクラブに入会した。ジャニーズ事務所を設立したジャニー喜多川さんが亡くなったときの報道を見て、所属グループの嵐のファンクラブの数字を聞いて驚いたからだ。

その後、彼らについて調べていくうちに、ジャニーズジュニアの存在に興味を持ち、ファンクラブに入会。ちなみに、ジャニーズジュニアっていうのはジャニーズ事務所に所属しているけど、まだデビューしていない子たちのことを言う。かなりの人数がいて、その中にいくつかのグループがあったりするわけだが、そこでも多くの熱狂的なファンがいることに強く興味を惹かれたわけだ。まさにコミュニティ作りの究極だと思ったからだし、そのクラブをどのように運用しているかを知りたかったから。

さらに驚いたのは、2019年8月には彼らだけで東京ドームを満員にするコンサートを開いていたこと。冷静に考えるとデビュー前で東京ドームってありえないでしょ。そのコンサートでは2つのグループのデビューが発表されたわけだが、そのグループのファンは大喜びし、それ以外のグループのファンは落胆したという。

応援していたグループがデビューするというのはファンにとっては「役立った感」を得ることができ、自分の価値を感じる体験になるだろう。しかも、人によっては自分が推していたグループがデビューすると、そのグループのファンは辞めてあらたなジュニアのファンになるという人もいたりするらしい。

そういえば、これを書いているときにやっていた『24時間テレビ』でも、ジャニーズジュニアの人気グループ「なにわ男子」ファンが殺到しすぎて彼らの出演が一部変更、中止になったことについて読売テレビの社長が謝罪していたな。

正直、オレにはよくわからない世界だが、AKB48だったり、地下アイドルだったりを応援する心境も同じなのだろう。ここでもコンテンツそのものに価値を感じているというよりも、自分の役割に価値を感じていると言っていい。彼ら、彼女たちのファンが熱狂的なのは圧倒的な「役立った感」が得られるのも大きいのかもしれない。

自分の価値を感じるというのは、オレたちの原動力になる。だから、人生において重要になってくるのがそういう環境に身を置けるかだ。オレが常日頃から、自分が役立ちそうなことをやればいいって言い方をしているのはそのため。

人は役割を求めている

アイドルファンが熱狂的になったり、右寄りな人たちが過激になるのも、結局、人は明確な役割を与えられたときに力を発揮する良い例だと思う。そして、そのときは不安から少しでも逃れられる。だから、人は熱狂していくのではないか。

とくに現代社会は前述したように自由の暴走もあったりする中で、不安が蔓延している。どんどん新しい技術やビジネスが生まれ、とんでもなく早いペースで時代が変わっていく中で生きていれば、「置いていかれるのではないか」という不安は大きいだろう。さらに、豊かになった日本みたいな社会では消費を促すためには企業は不安を煽るしかない。

オレがデビュー作『超一流の二流をめざせ!』でも書いたように、今の時代は「不安情報社会」だ。企業は売上のために不安を煽るような情報をメディアを通じて流しているわけで、その結果、どんどん世の中に不安が拡散されていく。不安であり、不安定な中で、オレたちは安定を求めて役割が欲しくなる。それはどこかに所属することでもいいわけで、だからこそ最近はオンラインサロンなんかも流行っている。

結局、オレたちは不安で仕方ない。だから、自分の価値を感じたいし、自分の役割を見つけたい。こういう前提がいまの消費社会になっていることを理解することが重要だ。人々はコンテンツや商品の機能やデザインに価値を感じて消費行動を取るわけでないということ。ブランド品を身に着けるのだって同じだ。高級ブランドを持つ自分に価値を感じたいわけだ。オレがジェームス・パースを着るのもゴールデングース(オレの好きなイタリアのスニーカー)を履くのも、そんなオレに価値を感じたいだけ。

佐村河内事件でも明らかになったように消費者はコンテンツの価値なんかわからない。評価できない。先ほど、オレがロバート・グラスパーの説明のときに「グラミー賞3回」って強調したけど、あえてやったわけだ。そうやって書くことで、「きっとすごいミュージシャンなんだろうな」ってあなたは思ったはずだし、もし彼の音楽を聴くことがあったらきっと良く聴こえるだろう。もちろん、相当かっこいいんだけど、多くの人はかっこいいという先入観からの評価になるだろう。

よくオレが話すのはコンテンツや商品の価値は専門家しかわからないってこと。たとえば、オレたちには、150キロの球と160キロの球の差はわからない。ただ速いと思うだけ。でも、メジャーリーガーならその差がわかるでしょって話だ。プロだったり専門家しか価値を評価することはできないわけで、多くのビジネスはそれ以外の人に売れないといけないわけだから、売上を左右するのはコンテンツや商品の価値ではないってことだ。

出版でも広告が効かなくなっている

ここまで書いてきたようなことは昔からもあったが、ここ数年でさらに加速したと感じている。オレがいた出版業界でも10年くらい前までは新聞広告とかが効いていた。

たとえば、全国紙と呼ばれる新聞に本の広告を出したとして、そのおかげでアマゾン1位になったりってこともあった。

ところが、ここ数年は広告を打っても効かなくなってきている。それでも広告が出続ける理由は書店へのアピールだ。広告を打つので書店にたくさん置いてくださいみたいな話。実際、本の広告は元が取れることはないと言っていい。広告というのは、コンテンツや商品の素晴らしさを伝えることしかできない。つまり、広告だけでは読者を一連のストーリーに巻き込むことができないわけだ。 これがコンテンツの限界だし、単体では成立できない時代になったということ。

現代はコンテンツではなくコンテクストが重要だということ。ここまでいろいろ書いてきたがこの章で伝えたかったのはコンテクストの重要性だ。むしろコンテクストしか重要じゃない。

出版の話で言えば、ここ最近ベストセラーを出しているのは、いわゆる「インフルエンサー」と呼ばれる人たちだ。ツイッターのフォロワーが10万人以上いたりする人たちだが、彼らは日々ツイートしていく中でコンテクストを形成していき、さらに多くの人を仲間にしていく。その一連のコンテクストの中で出版され、フォロワーたちが買い、読み、さらに宣伝までしてくれる。そういう流れがつくれる著者が今は売れている。

コンテクストが商品を決め顧客を決める

これは出版業界に限った話ではないはずだ。まずはネット上でコンテクストをつくってからコンテンツなり商品をつくったほうが効率的だ。従来であれば、商品ができてから宣伝活動をするわけだが、それが逆になってきているということ。

1〜2年前から日本でも盛り上がってきているクラウドファンディングなんかはそれを短期間でやっているようなものだ。オレはアメリカのキックスターターというクラウドファンディングのサイトでよく購入するんだけど、本当にマーケティングの勉強になる。

クラウドファンディングの場合は、まだ商品はサンプルだけだったりするわけでコンセプトを紹介することで資金を集めて、集まり次第商品化したりするわけだ。クラウドファンディングでも重要なのは応援してるって感覚だったりする。目標額に到達しなければ商品化しないという設定もできるので、目標額を目指しみんなで頑張るみたいな流れをつくれるかが重要だったりする。

そういえば、この前ロスアンゼルスのゴールデングースのショップを見に行ったときに、その隣に若い女の子で激混みのショップがあったんで覗いてみたら『GLOSSIER』という化粧品ブランドだった。最近、注目のユニコーン企業(10億ドル以上の価値があるとされる企業)の一つとして知っていたけど、実際に店舗の混雑ぶりを見て驚いた。このブランドはファッション誌のアシスタントをしていたエミリー・ウェスが31歳のときにブログを立ち上げ、そこから影響力を持ったことをきっかけにオリジナル化粧品ブランドを立ち上げた。もちろんネット通販中心ではあるが、今ではニューヨークとロスアンゼルスに店舗を持ち、売上は1億ドル(100億円以上)にも達するという。インスタグラムのフォロワーも200万人を超え、典型的な今どきの成功事例と言える。

ロスアンゼルスに行った話をもう一つついでにしておくと、アボットキニー(最近は観光スポットにもなっているオシャレな通り?)に立ち寄ったときに『Everlane』というアパレルブランドの店舗もあった。このブランドはサンフランシスコ発で最初はネット通販のみだったけど、ニューヨークとサンフランシスコの店舗がここ1〜2年くらいの間にできてて、ロスアンゼルスにも最近できたみたいだった。ここの面白さは圧倒的な透明性を打ち出し、商品のコスト、製造工場なんかも公開している点だ。『GLOSSIER』も「SKIN FIRST. MAKEUP SECOND」(肌が第一、メイクは次)というメッセージを打ち出しているように、これらのブランドたちもそうだけど最近出てきているブランドは行き過ぎた利益追求ではなく、人や地球に優しいというようなテーマを持っているものばかりなのも、消費者の「役立った感」を刺激しているとも言える。

長倉 顕太(ながくら・けんた)
1973年東京生まれ、学習院大学卒。28歳のときに出版社に拾われ、編集者としてベストセラーを連発。その後、10年間で手がけた書籍は1000万部以上に。現在は独立し、サンフランシスコと東京を拠点に、コンテンツ(書籍、電子書籍、オウンドメディア)のプロデュースおよび、これらを活用したマーケティングを個人や企業にコンサルティングのほか、教育事業(若者コミュニティ運営、インターナショナルスクール事業、人財育成会社経営)に携わる。
ベストセラー作家から上場企業まで手がける。著者に『親は100%間違っている』(光文社)、『超一流の二流をめざせ!』(サンマーク出版)など多数。

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