(本記事は、長倉 顕太の著書『GIG WORK(ギグワーク)』すばる舎の中から一部を抜粋・編集しています)
なぜ、編集者たちが活躍しはじめたのか?
今では過去の栄光であるが、オレもベストセラーを連発していた編集者だった。ただ、いま思えば運が良かっただけだけど。オレが編集者になったのは28歳のとき。2002年、ちょうどアマゾンが上陸して1年くらいのとき。出版業界もインターネットとの共生を強いられるようになりはじめた時期だった。そのおかげでオレは出版とインターネットの両方からの恩恵を受けた。いまほど出版不況と言われていなかった出版業界、これから伸びていくインターネットの両方の良いところ取りができたと思っている。簡単に言うと、オレの編集者としての実力は大したことはないが、時代が良かった。
ただ、独立して7年が経ちあらゆる事業に関わらせてもらっているが、今どうにかなっているのは編集者としての10年間があったからだと思っている。編集者として編集について語るにはもっとふさわしい人はいるし、もっと実績がある人もたくさんいる。しかし、編集者としてのスキルを思う存分活用して人生攻略に役立てたという意味ではオレほど語れる人間はいないのではないかと勝手に思っている。
出版社を退社後、オレは「凡人のための人生戦略家」という立場で、情報発信をしてきた。オレは出版社出身とは言っても、大学卒業後は大した定職にもつかず、アルバイト、アメリカ遊学をしていて、面白みもない、おまけにお金もないという生活をしていた。そんなオレが編集者になり、次々とベストセラーをつくり、今ではいくつもの事業に関わり、アメリカに移住し、サンフランシスコに住みながら自由気ままに暮らすことができている。
とはいえ、オレが「こんなオレにもできるんだから誰でもできるよ」みたいな話をすると「それは長倉さんだからできたんですよ」と言われることも多い(決してそんなことはないが)。もしオレに他の人との差があるとしたら、編集者として過ごした10年間で得たスキルと経験があったからでしかない。そこで培ったスキルと経験がオレの人生に大きな影響を及ぼしたのは間違いないからだ。
重要なポイントはインターネットの普及により、世界がコンテンツ化したことが大きいということ。
製品化からコンテンツ化する世界へ
オレが最初に出版社から独立してはじめた事業がコンサルタント業だった。そのときの肩書きを「コンテンツマーケター」にしたのを覚えている。オレが出版社時代から感じていたのは、「本ほど強力なマーケティングツールはない」ということだ。マーケティングツールと言ってしまうと本を冒涜しているように思われてしまいそうだが、あえてこの言葉を使わせてもらう。よく言われることだが、歴史上の一番のベストセラーは聖書と言われているように、聖書がキリスト教を広めるのに役立ったわけだ。つまりキリスト教ってコンテンツだ。これは15世紀に印刷技術が進化したことが最大の要因だ。
オレが独立した頃は印刷技術に代わりインターネット技術が発達し、スマホが一般化しはじめた頃だったので、コンテンツを活用したマーケティングの需要が増えると予測した。結果は、本だけでなく、電子書籍、ウェブメディアというものが世の中に広まっていき、企業がメディアを持つのが当たり前くらいになってきたので、オレの予測はある程度当たっていたわけだ。
この頃から企業の宣伝活動も大きく変わり、広告からPR、そしてコンテンツに変わっていくことになる。つまり、消費者は広告を信じなくなり、PRもお金で買えることを知るようになった。テレビ、雑誌、新聞の広告だけでなく、雑誌や新聞に載る記事までも信じなくなってきた。
オレが編集者をやっていた頃は、新聞に本の広告を出すだけで、アマゾンで1位になることはしばしばあったが、今はほとんど反響はないと言っていい。だから現在はオウンドメディアとかウェブメディアと呼ばれるサイトが力を持ってきている。ニュースを扱うもの、生き方を扱うもの、いろんなメディアがあり、それぞれの趣向に合わせた読者をつかんでいる。当たり前であるが、コンテンツの質が問われてくるようになる。
さらにオレが面白いと思ったのは、産業そのものの変化だ。本来の産業は生活のあらゆる部分の製品化によって成り立ってきた。たとえば、移動手段としての馬車が自動車に、掃除や洗濯が文字通り掃除機、洗濯機に替わることで産業が発展してきた。つまりあらゆる労働が製品化されたのが、ひと昔前の資本主義だったわけだ。
ところが今の産業界を見渡してみたときに、自動車業界、家電業界に活気がないのは誰の目にも明らかだ。そのかわりに活気があるのは、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)に代表されるインターネットを活用している企業たちだ。彼らはインターネット上においてコンテンツを活用して巨大化しており、もはや時価総額は全産業の中でもトップクラスだ。これは明らかに製品化するビジネスよりもコンテンツ化するビジネスのほうが時代に合っているという証拠だ。
また、最近の事例で面白いのはKonMariこと近藤麻理恵さんのアメリカでの活躍じゃないだろうか。彼女は2010年に日本で出版した『人生がときめく片づけの魔法』がミリオンセラーになり、その後、アメリカ版もベストセラーに。さらに、ネットフリックスで番組を持ち、 大成功をしている。掃除を製品化したのが掃除機なら、コンテンツ化したのがKonMariなわけだ。彼女は40億円以上でネットフリックスと契約したわけだから、まさにコンテンツ化がお金を生むことを証明している。
昔からコンテンツを制したものが勝ってきた!
先ほど、オレはアマゾンのおかげで編集者として成功したと書いたが、実はアマゾンだってコンテンツを切り口に巨大化した。アマゾンは2018年にアップルに続き、株式時価総額が1兆ドルを超えたわけで、ここまで大きくなった要因もすべてコンテンツがあったからだ。そもそも、アマゾンは最初はインターネット書店として起業しただけ。つまり、本をインターネットで売るという、今思えば誰でもできそうなビジネスだ。ここで重要なのは、本を入口にしたことだ。
ご存知のようにアマゾンは、今ではあらゆる分野に進出しており、利益の大半は本の販売ではない(むしろ本の販売は赤字のことが多い)わけだ。ただオレは、アマゾンが本を扱っていたのが大きいと思っている。それは本がコンテンツだからだ。オレは人はコンテンツがなければ生きていけない生き物と思っている。なぜなら、膨大な処理ができる脳を手に入れた人間は、常に何かを思考している。それは意識的か無意識的かは別として。
そこで重要なのは、思考する根拠となるものだ。コンピューターで言えば、OSみたいなものを常に必要としていく。なぜなら、オレたちは日々、選択に迫られる。いや、毎時、いや、毎分?いや、毎秒か。ある説によると、1日約9000回の選択を迫られるという。そうなると、ほとんどの場合は無意識で判断していることになるが、顕在意識では常に「これは正しいのか?」という不安を抱くことになる。そこで、人は何か信じるものが欲しくなる。判断基準が欲しくなる。
その結果、あらゆるコンテンツを欲していくのだと思う。だから、常にコンテンツを欲していく特性を持つオレたちに、本を入り口にビジネスをはじめたのは一つの成功要因だったはず。常に欲しくなるというのは中毒性が強いわけだ。一度買ったらやめられなくなるということ。もはや、オレはスマホ中毒だし。昔ならテレビ中毒、今ならゲーム中毒、ユーチューブ中毒とかいろいろいるだろうが、全部コンテンツだろ。
GAFAの連中だってみんなコンテンツをビジネスにしてるでしょ。グーグルがユーチューブを持ってるってのもそうだけど、そもそもインターネット空間そのものがコンテンツなわけで、そこの検索エンジン大手なんだし。アップルだってiTunesやアップルミュージックを通して音楽や映画や電子書籍を配信してるわけで、そもそもオレたちがiPhoneやMacを使うのもコンテンツに触れるためだし。フェイスブックなんてオレたちが投稿していくものがコンテンツになっているわけだし。結局、いま世界を支配しているGAFAも全部コンテンツビジネスと言えるわけよ。雑な言い方かもしれないけどね。
ベストセラー作家から上場企業まで手がける。著者に『親は100%間違っている』(光文社)、『超一流の二流をめざせ!』(サンマーク出版)など多数。
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