起業アイデア3.0
村田 茂雄(むらた・しげお)
1982年生まれ。信州大学経済学部卒業。中小企業診断士。デロイト トーマツ グループの主要法人のひとつである有限責任監査法人トーマツに所属。銀行、信用金庫、コンサルティングファームを渡り歩き15年目、これまでに1000人以上の起業家支援を行う。起業アイデアを考えることが趣味で、これまでに考えてきた起業アイデアの数は10000個以上にのぼる。起業家支援とアイデア発想の実績を活かし、起業アイデア発想法を体系化する。2019年10月12日に『起業アイデア3.0』(秀和システム)を出版。

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センスが必要ない理由① 人それぞれ得意な分野・不得意な分野がある

やり方を覚えればセンスは身につく

あなたはアイデア発想のセンスがありますか?

「自信がない」という人が多いでしょう。だから本書を手に取ったと思います。

そんな皆さんにまずお伝えしたいことがあります。それは、アイデア発想にはセンスが必要ですが、センスは本書で身につけられる、ということです。

ですので、今の時点でセンスがある必要はありません。アイデア発想にはやり方があるので、それを覚えればセンスは身につきます。

良いアイデアが発想できるのは得意な分野に限られる

ただし一点注意してもらいたいのは、アイデア発想には人それぞれ得意な分野、不得意な分野がある、ということです。

本書でやり方を学べば、不得意な分野であってもビジネスのアイデアがたくさん発想できるようになりますが、それがセンスの良いアイデアとなるかは難しいところです。

例えば、あなたがミステリー小説にまったく興味がないとしたら、センスのある殺人事件のトリックを思いつくのはたいへんだと思います。それと同じことです。

残念ながら、ありとあらゆる分野でセンスが発揮できるようになるわけではありません。良いアイデアが発想できるのは、あなたに合った分野に限られる、ということです。

あなたに合ったアイデアが閃けば十分

でも、心配しないでください。

そもそも、やりたくないことをやるために起業をするわけではなく、やりたいことや関心のあること、半ば使命感としてやるべきことなどをやるために起業するわけですから、あなたに合ったアイデアが閃けば十分です。

仮に無関心な分野のアイデアでビジネスをおこなっても、興味がないことなので継続していくことは難しいでしょう。

ですので、自分がどのような分野のアイデアを発想するのが得意で、どのような分野が苦手かを知り、自分が得意な分野に注力して起業アイデアを考えることが重要です。

センスが必要ない理由② 得意分野で勝負すれば問題ない

得意分野なら1ヶ月に500個のアイデアが思い浮かぶ

私はこれまでに起業アイデアを約1年8ヶ月で1万個以上考えてきました。1ヶ月に500個のペースです。

そんな私でも、明確に得意な部分と不得意な部分があります。正直、不得意な分野のアイデアを考えてもセンスのあるアイデアは思い浮かびません。正確に言うと、不得意な分野については興味がまったくないので、アイデアを考えてすらいません。

一方で、得意分野の方でなら、いくらでもアイデアが思い浮かびます。

ちなみに、私が考えたアイデアの9割程度が「便利」や「簡単」「楽(らく)」にするためのアイデアで、何か物事を面白くするアイデアが1割弱、残りがその他のアイデアです。つまり、私は「便利」「簡単」「楽(らく)」と、わずかに「面白い」分野が得意ということになります。

価値観に沿っていることが得意分野になる

では、この得意な分野が何を示しているかと言うと、私の「価値観」になります。

価値観は、その人が生きる上で大事にしている概念や考え方、自分だけのルールです。

私は非効率なことが嫌いで、面倒くさがり屋なので、「不便さ」や「楽(らく)でない」ことに敏感で、そこに不満を感じやすく、それゆえその不満を何とかしたいと思っています。

皆さんも自分の価値観に沿っていることは面白いと思ったり興味を持てたりする一方で、自分の価値観と離れていることにはまったく興味関心を示さないと思います。

ですので、得意な分野でアイデア発想ができるように、自分の価値観を把握することが大事になります。

センスが必要ない理由③ 重要なのはセンスより価値観

価値観を軸にすればアイデアが発想できる

価値観を軸にすれば、物事や出来事、既存の商品・サービスを元に、「もっと◯◯(価値観)できないか」と問いかけることでアイデアが発想できます。

実際にやってみましょう。たまたま今、私の目の前にウェットティッシュがありますので、これを元に、私の価値観である「便利」と「面白い」の2つを例にアイデアを考えてみます。

ウェットティッシュをもっと便利にできないか?

まずは、「ウェットティッシュ」と「便利」です。「ウェットティッシュをもっと便利にできないか」と考えます。

簡単に思いつくのは、以下のようなものでしょう。

  • 汚れた手でウェットティッシュの箱を触らなくてもよいように、蓋が自動開閉するセンサーを付ける
  • 片手でもウェットティッシュが取り出せるように、ウェットティッシュの箱に付けられる重しを作る、もしくは箱の底面に粘着素材を付ける
  • ボタンを押せばウェットティッシュが1枚出てくる
  • 好きな長さで切れる(切れ目を設けないでラップのようにちぎるためのカット部分を作る)
  • 温水洗浄便座がないトイレでもお尻が綺麗にふけるトイレ用ウェットティッシュ

さらに、濡れていないウェットティッシュがあっても良さそうです。

ウェットティッシュの除菌成分だけティッシュに染み込ませておいて、使用するタイミングで水を含ませて使う「乾燥したウェットティッシュ」はどうでしょうか。

普通のウェットティッシュはうまく密封しておかないと乾燥することがありますが、これなら乾燥を気にせず長期保存が可能になります。また、水分がないため軽くて持ち運びも楽になります。

ウェットティッシュをもっと面白くできないか?

次は、「ウェットティッシュ」と「面白い」です。こちらも同様に、「ウェットティッシュをもっと面白くできないか」と考えます。

  • バーベキューなど大人数のパーティで盛り上がるように、ウェットティッシュの柄をおみくじ付きにする
  • ウェットティッシュの箱の蓋を開けるたびに、中年のオヤジの声で「大事に使えよ!」と声が出る

このように、価値観を軸にすることでアイデアは閃きやすくなります。

第2章で具体的なアイデア発想法を紹介していきますが、価値観がアイデア発想の前提となりますので覚えておいてください。

センスが必要ない理由④ 価値観は3つの視点で把握できる

自分の価値観を把握しよう

価値観にはいろいろあります。例えば、次のような感じです。

嬉しい、楽しい、やさしい、親しみ、思いやりのある、愛情、ドキドキ、ワクワク、驚き、誇らしい、安心、安全な、魅了される、美しい、元気な、情熱的な、ありがたい、感激、幸せな、さわやか、ほっとする、のんびり、平穏な、便利な、気軽な、健やかな、ユーモア、探求、成長、刺激

でも、自分の価値観を明確に意識していない人も多いでしょう。そんな時は、「感情」「時間やお金」「空間」という視点で見ていくと、自分の価値観を見つけやすいと思います。

・感情
あなたが日々の生活を送っている中で、感情の変化が起きることがあると思います。その感情の変化に、あなたの価値観が隠れています。

私の場合は、不便さを感じた時に感情が大きく変化します。「面白い」も同様です。一方で、「美しい」とかには興味がないため、美しいものを見ても、あまり感情の変化は起きません。

・時間やお金
あなたが費やしている時間やお金も、価値観を見つけるヒントになります。「自分の時間を何に使っているか」「お金をどこにかけているか」を振り返ってみてください。

私の場合は、便利になるアイデアグッズを考えたり作ったり、書籍やセミナー、ネットなどで知識を吸収することに時間やお金を使っています。

・空間
あなたの生活空間で占有している面積の大きいものは何でしょうか?

美的な価値観を持つ人は服やファッション雑誌が多いかもしれませんし、楽しいことが好きな人はゲームや漫画などが部屋の大部分を占めているでしょう。

私の場合は、アイデアグッズを作るための材料や、知識を増やすための本が、部屋の空間の大部分を占めています。

感情や時間・お金、空間はあなたの価値観と関連していますので、それらを振り返って自分の価値観を把握してみてください。

価値観とさまざまなモノやコトを組み合わせてみよう

価値観が明確になったら、アイデア創出を実践してみましょう。

図のように、自分の価値観とさまざまなモノやコトを組み合わせて発想してみてください。

組み合わせるモノやコトは、身の回りにあるモノ、あなたのスキルや経験、ノウハウだけでなく、仕事や生活スタイル、趣味など何でも構いません。また、組み合わせる要素は何個でも構いません。

なお、注意点として、この段階では「実現できるかどうか」は考えないようにしてください。実際にアイデアが実現できるかどうかは本書の後半で考えますので、現時点では実現性は気にせず、自由に発想してください。