要約

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

日本経済はデフレ完全脱却までの中長期的トレンドの半ばにいる。信用サイクルと設備投資サイクルの強さがデフレ完全脱却への動きを支えている。企業活動の活性化と財政政策の緩和でネットの資金需要が復活し、それをマネタイズして働くことになる金融緩和の効果も強くなり、マネーが循環・拡大する力としてのリフレサイクルも強くなるだろう。デフレ完全脱却に至る内需とマネー拡大の力をコンセンサスより強く見ている。

年初の政府の経済対策と日銀の緩和的な金融政策などに支えられて2020年に景気拡大を維持し、グローバルな景気回復が堅調となる2021年には実質GDP成長率が潜在成長率をしっかり上回ることで、デフレ完全脱却となるだろう。この間、外需の成長寄与度はほとんどなく、消費と設備投資が両輪となる内需拡大が成長を自立的に牽引するだろう。これまでとは違い、強い内需が日本の景気拡大を支え始めている。

成長 - 外需から内需主導の自立的な形に進化しつつある

110月の消費税率引き上げ前の駆け込み需要が予想ほど大きくなく、2019年の実質GDP成長率予想を+1.2%から+1.0%に下方修正した。一方、政府の消費刺激策の効果もあり引き上げ後の下押しが予想より小さいとみられ、2020年の予想は+0.8%から+0.9%へ上方修正した。1%程度の潜在成長率なみの水準が維持され、グローバルな景気回復が堅調となる2021年には+1.4%となり、デフレ完全脱却となるだろう。この間、外需の成長寄与度はほとんどなく、消費と設備投資が両輪となる内需拡大が成長を自立的に牽引するだろう。

金融政策 - 現行の金融緩和の枠組みを粘り強く維持

グローバルな景気持ち直しのシナリオを維持しながら、金融緩和効果の自律的な拡大が、2%の物価目標の達成へのモメンタムを強くするまで、フォワードガイダンスの下、日銀は辛抱強く緩和バイアスを維持しようとするだろう。目先の追加金融緩和はないと予想する。企業活動の活性化と財政政策の緩和でネットの資金需要が復活すれば、それをマネタイズして働くことになる金融緩和の効果も強くなるとみられる。2%の物価目標は政府・日銀の共同のものであり、変更される可能性は極めて小さい。2021年の政府のデフレ完全脱却宣言のタイミングで長期金利の誘導目標の引き上げを始めるだろう。短期の政策金利をプラスに戻し緩和から脱却するのは、物価目標達成後の2022年となろう。

財政政策 - 引き締めから緩和へ転換し、ポリシーミックスの形に

基礎的財政収支黒字化目標は2020年度から2025年度へ先送りされ、安倍首相の自民党総裁の任期末の2021年までの制約はなくなった。財政政策は、デフレ完全脱却のための経済活性化策と防災・インフラ整備と中心に、攻めの緩和へ明確に転じるだろう。企業貯蓄率と財政収支の合計であるネットの資金需要はまだ消滅していて、マネーが循環・拡大する力としてのリフレサイクルはまだ弱い。財政政策の緩和と、企業活動の回復による企業貯蓄率の低下でネットの資金需要が復活し、リフレサイクルがデフレ完全脱却に向けて強くなっていくだろう。2020年の年初に、GDP比1%程度の新たな経済対策が実施されるとみる。好調な経済状況を反映し、安倍内閣の支持率は高水準を維持し、政治は安定を続けるだろう。

図)ネットの資金需要

ネットの資金需要
(画像=日銀、総務省、SG)

金利と為替 - 内需主導の成長は円安の力

縮小していた名目GDPと総賃金を拡大に転じさせたのが、アベノミクスの最大の成果である。名目GDP成長率が長期金利を持続的に上回るのは1980年代後半のバブル期以来である。長期実質金利はマイナスとなっている。拡張する力が抑制する力を上回り、デフレによる縮小均衡から、リフレによる拡大均衡に変化してきたことを意味する。日銀の金融緩和の枠組みもあり、この拡大均衡の形はデフレ完全脱却まで継続するだろう。実質GDP成長率が内需主導の自律的な形となり、過剰貯蓄の解消などにより国際経常収支の黒字額が縮小していくことで、円安の力が生まれるだろう。ネットの資金需要がまだ弱いことは、財政ファイナンスが困難化して金利が急騰するリスクは極めて小さいことを示す。

図)名目GDP成長率と長期金利

名目GDP成長率と長期金利
(画像=内閣府、ブルームバーグ、SG)

リスク - 内需拡大で支えきれないほどの輸出環境の底割れ

海外経済が極めて低調で輸出環境が減速から底割れに悪化すれば、内需拡大では支えきれず、景気後退のリスクが大きくなる。財政政策の緩和が弱く、ネットの資金需要が復活できなければ、日銀への負荷が増し、金融緩和の副作用が大きくなるリスクと高める。一方、財政政策と金融政策の予想を上回る効果、そして構造改革の進展などにより、企業がデレバレッジからリレバレッジに早期に転じれば(異常であったプラスの企業貯蓄率がマイナス化)、デフレ完全脱却が早まるアップサイド・ポテンシャルとなる。

表)日本経済見通し

日本経済見通し
(画像=SG)

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司