シンカー:黒田日銀総裁の任期が満了する2023年まで、日本経済とマーケットがどのように動くとみられるのか、シナリオをつくった。各年の明確なシナリオとともに、注目点とマーケットのカタリストとなるとみられることを考えた。まずは、企業の設備投資サイクルの上振れが認識され、企業の期待成長率と期待インフレ率の上昇がROEの目線の引き上げにつながり、日本の株式市場が大きく上昇するシナリオの実現が期待される。SGのアセットアロケーショチームの推奨グローバルポートフォリオの日本株のウェイトは10%で上限となっている。日本経済が復活するのかどうかは生産性の上昇にかかっている。そのためにも、企業の設備投資サイクルが上昇しなければならない。短期的には、非効率な投資でも需要であるため、設備投資サイクルが上昇を続ければ、デフレ完全脱却は可能だろう。日銀が金融緩和の正常化を始めることには、投資が生産性を上昇させたかのチェックが必要となる。上昇していれば日本経済の復活となり、上昇していなければバブルの崩壊となる。
2019年
グローバルな政治の不安定感が強い
海外景気動向の不透明感が強い
海外の中央銀行の金融緩和姿勢による円高懸念
海外投資家が警戒してきた消費税率引き上げの景気下押しに対する強い恐怖感が続く
⇒日本株がグローバル対比で割安状態からなかなか抜け出しきれない
2020年
緩和的な経済政策の対応にも支えられて海外景気動向が安定化
米国の長期実質金利がゼロ近傍である景気刺激効果が、景気見通しを徐々に好転させ、米国のイールドカーブが明確なスティープ化に転じ、円安の力に。
消費税率引き上げ後も、強い信用サイクル(失業率に先行する日銀短観中小企業金融機関貸出態度DIが高水準を維持)に支えられて日本の内需が堅調
基礎的財政収支黒字化目標の足かせがなくなったため(2020年度から2025年度へ先送りされた)、大規模な経済対策の実施などによる財政拡大への転進により、内需拡大の持続性に信頼感と国民の生活への安心感
設備投資サイクル(民間設備投資の対実質GDP比)のレンジが上振れたことが確認され、企業の期待成長率と期待インフレ率の上昇(=期待ROEの上昇)を確認=カタリスト
企業活動活性化と財政拡大によるネットの資金需要(企業貯蓄率+財政収支、マネー拡大の源)の復活が、それを日銀がマネタイズする形(追加金融緩和がなくても)となることで金融緩和効果を著しく大きくする
⇒割安とみなされている日本株が一気に追いつく展開
SGのアセットアロケーショチームの推奨グローバルポートフォリオの日本株のウェイトは10%で上限となっている。
しかし、企業貯蓄率はまだプラスで総需要を破壊する過剰貯蓄を払拭しきれない
政府のデフレ脱却宣言はなく、日銀は動けない
長期金利は現行の誘導目標からの最大乖離幅までの上昇が限界
⇒金融株は出遅れる
2021年
海外景気動向の回復への動き
設備投資サイクルの更なる上昇が企業貯蓄率をマイナスに正常化し、総需要を破壊する力が一掃され、9月の安倍首相の自民党総裁任期末までに政府はデフレ脱却宣言=カタリスト
日銀は長期金利の誘導目標の引き上げを開始
資金需要の復活とそれにともなうイールドカーブのスティープ化=金融機関の経営の安定化
⇒遅れていた金融株が一気に追いつく展開
しかし、2%の物価目標はまだ達成されず、日銀はマイナスである短期政策金利を変更できず、景気・マーケット動向に対してかなりビハインド・カーブに
⇒日本株の総じた上昇圧力が強くなる
2022年
経済政策の引き締めは緩やかで、海外景気動向の鈍化はない
デフレ完全脱却後の総需要拡大と株価上昇で日本の景気・マーケットに過熱感
企業貯蓄率のマイナスへの正常化によりフィリップスカーブも正常化し、賃金・物価上昇圧力が強くなる
失業率は2%に達し、強い賃金上昇をともない総需要の大幅な超過の形で物価上昇率は2%へ=カタリスト
⇒日銀は金融緩和政策の本格的正常化を模索し、2023年4月の黒田日銀総裁の任期満了までには日銀がマイナスの短期政策金利を解除
その後
日本経済の復活への道を左右する生産性の動き
1.それまでの投資で経済の生産性と企業の収益性が改善
⇒景気拡大と株価の安定的な上昇は続く=日本経済復活
⇒短期政策金利がプラスに戻った後も、日銀は金融引き締め水準まで持続的な引き上げ
⇒景気拡大が過熱しないためにも財政が緊縮的となり収支は2025年度までに容易に黒字化
2.それまでの投資で経済の生産性と企業の収益性を改善させることに失敗
⇒2%の物価上昇をともなう景気拡大と株価の上昇はバブルであったことを確認=新たなバブル崩壊による構造不況と財政悪化
⇒一転して更なる大規模な金融緩和が行われ、あまりに長期間続いてしまった低金利政策による経営基盤の弱体化で一部の金融機関に問題が発生
図)日銀短観中小企業金融機関貸出態度DIと失業率
図)民間設備投資の対GDP比%と企業貯蓄率
図)ネットの国内資金需要(企業貯蓄率+財政収支)
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司