(本記事は、麻野 進氏の著書『イマドキ部下のトリセツ』=ぱる出版、2019年12月13日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

「社長になんかなりたくない」し「出世しなくてもいい」がイマドキ社員の本音

イマドキ部下のトリセツ,麻野進
(画像=GNT STUDIOo/Shutterstock.com)

昔の子供は、「将来何になりたいか」と聞かれると、「総理大臣!」とか「会社の社長」と答えたものでした。

でも、いまはその2つはまったく人気がありません。アイドルとか、ユーチューバーとか一見派手で楽しそうな職業が彼らの憧れなのです。子供だったらそれでもいいのですが、会社人としてはいかがなものかと思うこともしばしばあります。

とにかくイマドキ世代の若い子たちには上昇志向というものが感じられないのです。

社長はともかく、出世というものにも興味がないように見えるのがゆとり世代の特徴です。

管理職になれば、責任も増えますが、権限も増えます。自分で裁量する余地が大きくなるわけで仕事の幅も大きく広がります。

でも、ゆとり世代はそうしたことに関心がありません。ちょっとくらい給料が上がっても、責任が重くなってめんどくさい部下を指導しないといけない管理職になんかなりたくない、というのです。

出世欲というのがほとんどない。それだけならまだしも、物欲というのがほんとうに少ないのです。がまんしているのではなく、自然体でモノを欲しがらないのです。

子供の頃から周りにものがあふれ、ほしいものが簡単に手に入る時代に育ったから、ものがほしいという感覚が乏しいようです。だれもが物欲の塊だったバブル世代とは考え方がまったく違います。

ですから、無理して管理職に上がって苦労するより、平社員でも自由にやりたいという志向が強いのです。 

実際にある試算では、バブル世代の生涯賃金は3億2000万円でしたが、ゆとり世代以降の若い子たちのそれは2億3000万円程度と、バブル社員より9000万円も少ない生涯賃金なのです。にもかかわらず、彼らは生活にゆとりがあります。

一つは先に述べたように物欲が乏しいということですが、生活パターンの変化ということもあります。

バブル期は男性が一家の大黒柱として生活水準を落とすまいと必死に働いていましたが、いまの20代前半の若者たちは家庭を持つことにあまり重点を置きません。

金銭的にも、たとえば同じ会社内の女性と結婚した場合、共働きをずっと続ければ生涯賃金が2億3000万円の2人分(4億6000万円)。つまり、バブル社員より高い生涯賃金を得ることができるのです。それは働き方改革や女性の社会進出、子育て支援などバックアップする仕組みが整ってきたからです。

だからあくせくせず、おっとりしている。そんな彼らに「働け、働け」と尻を叩いてもうまくいくわけがありません。

「いやなことはしなくていい」と育てられてきた背景を理解する

ゆとり世代の特徴は「いやなことはしたくない」というのが前面に出ることです。

小さい頃からそれが許されてきた世代なのです。

幼稚園で転んだといっては、先生の管理不行き届きと謝罪されるし、小学校で宿題を忘れても、仕方ないなあとスルーされるし、授業をサボっても、へたくそな言い訳が通ってしまう……。最近では小学校の給食でも嫌いな食べ物は食べなくていいことになっています。

そういう生活環境のまま育ってきたから、会社に入ってもいやなことはやりたくない。

口にこそしませんが、露骨にいやな顔をする新入社員を見たことはありませんか?

彼らはそんな顔をしても怒られない、そういう環境で育ったわけです。

一般的には目の前のいやなこと(苦労、困難など)を乗りこえた先に経験値が高まり、ご褒美として実力がつくと考えるものですが、イマドキ世代にはその考えがない。

苦労はいつか報われる、という概念が薄いのです。

そのため、目の前の楽なほうを選んでしまう。「若いうちの苦労は買ってでもしろ」という先人の教えは、彼らにとって外国語のようなものでしょうか。

それは彼らを取り巻く環境の変化が激しすぎるという理由もあります。インターネットの初期の頃は、アクセスするのにhttpから始まる呪文のような長いアドレスを毎回入力しなければなりませんでした。

それがいまではワンタッチ。プログラムなども自分で組まなければならなかったものですが、いまは出来合いのアプリで必要なものが瞬時にしてそろう。

過去の経験がまったく役に立たなくなっている時代なのです。そうした社会にどっぷり浸かっているイマドキ世代は、自分たちがいくら苦労してもすぐに新しいものに代替され、将来に役に立つとは思えないのです。

だからつい、目に見える短期的なものに心を奪われがちになってしまいます。

ゆとり教育が始まったとき、有名になった事例ですが、小学校で習う円周率の計算があります。円周率は3・14ですが、ゆとり世代では円周率を3で計算していい、と学校で教えられます。

実際の円周率は3・1415以下延々と続き、旧世代は小数点何桁まで覚えられるかを競ったりしたものですが、3でいい、と教えられた子は3でしか計算しません。それがはるかに楽だからです。

やらなくていいことはしなくていい、と義務教育で教えられてきた世代なのです。

わかったふりをする、めんどくさいことは避ける——抜け目ないのがイマドキ世代

いやなことはしたくない、というイマドキ世代の考えの表れとして、上司との関係を抜け目なくやり過ごす傾向が強いようです。

上司の説明や説教に対して、いちいち反発するのもめんどくさいし、こじれるといやな思いをする、ということで理解も納得もしていないのに「わかりましたぁ」と、その場をやりすごす(=スルーする)傾向があります。

この「わかりましたぁ」の「あ」の軽さに上司はかちんとくるのです。「あ、こいつ、わかってないな」と感じるわけです。

同じようにめんどくさい仕事はしたくない。

会議の席で一言も口を開かない若い社員も少なくないでしょう。

「君はどう思う?」と水を向けても、当たり障りのないことをもっともらしく発言するか、ネガティブな発言に終始するかどちらかではないでしょうか。

後者は自分にめんどくさい仕事の割り当てが回ってきたらたまらない、という予防線を張っているのです。

予防線を張るのと同じように、上司とのトラブルを避けたい意識から、命じられたことはきちんとこなすくらいの能力はあるわけです。そのへんもイマドキ世代の如才のなさでしょう。

ですが、それ以上のことはやらない。言われていないことはやらないのです。

自分で仕事を見つけて主体的に取り組むという発想がなく、上司としてはなまじ能力を認めているだけに、その姿勢がもどかしい、そういう感覚を味わった方はたくさんいるでしょう。

また、仕事の優先順位をつけられないということがあります。

A、B、Cという3つの仕事があっても、どれを優先すべきかがわからない。急ぎの用件であるB、重要度はいちばん高いCを置いて、さほど急ぎでも大事でもないAに取り組んでいたりします。

なぜかと聞けば、Aがいちばん最初に回ってきた仕事だから、というのです。それによってあとの仕事にしわ寄せが及び、作業が大変になることに思いが至らないのです。

ただ、この点についてはいずれ経験がカバーしてくれるから、さほど心配することはないでしょう。

仕事を続けていくうちに、仕事の内容がわかってきて、どれが重要で、どれが重要でないかはわかってきます。こうしたことは仕事の現場で身につくもので、新人研修をいくら厳しくやってもなかなか判断できないものです。

めんどくさいイマドキの「かまってちゃん部下」のトリセツ

イマドキ世代の扱いにくさは、究極の「かまってちゃん」だということです。

介入されたくはないけれど、無視もされたくない。

「めんどくせえ」と思われるでしょうが、彼らにとっては、立ち入ってほしくない領域はあるけれど、ほったらかしにされるのもイヤで、かまってほしいのです。

ですから、上司としてはほどよく距離感を保って、彼らに向き合わなければなりません。もちろん、ケースバイケースですが、たとえば帰りがけに、いま思いついたようにさりげなく、「最近がんばってるね」

と声をかけてあげる。それだけでイマドキ君が喜んで、次の日から目に見えて仕事に熱心に取り組んだというケースもあります。

単純といえばあまりに単純ですが、それも頻繁にやっていては効果が薄れます。どのくらいの間を取ればいいかはそれぞれですが「いつもは距離を置いているけれども、ちゃんと君のことは見ているよ」と、相手にわからせればいいのです。

しかも、そのタイミングは節目節目で声をかけてほしいのです。

仕事が順調なときはなまじ声をかけないほうがいいかもしれませんが、その仕事が成功裏に終わりそうな、目途がたったときなどにひと声ほしいのです。

逆に仕事が不調なときには、「大丈夫か?」と気遣うのもいいのですが、逆効果になりかねない。その不調から脱却しそうなタイミングで「行けそうじゃないか」と声をかけてほしいのです。

彼らは、そういう変化に気づいて声をかけてほしいというのです。

上司としてはのべつまくなしに声をかける必要はなく、タイミングを見計らって声をかけて、それがツボにはまれば、もう二度と声をかけなくてもいいでしょう。

イマドキ君もきっと喜び、彼の絶大な信用を得ることができるかもしれません。

酒を飲ませるなどの出費もなく、円滑なコミュニケーションを取れるため、コスパがいいので試す価値はあります。

打たれ弱いイマドキ部下には「怒ってるわけじゃない」と伝えてから話す

イマドキ世代は若く経験がないだけに、失敗することも多いでしょう。

上司もその失敗の尻拭いの大変さを思えば、ついつい怒鳴りつけてしまいそうになりますが、これはできるだけ避けなければなりません。

なんといっても、彼らは「打たれ弱い」からです。

子供のときから怒られ慣れていないので、極端にメンタルが弱いのです。豆腐のようなメンタルだと思ってください。

だから、一度怒られると、自分のミスで会社がつぶれるんじゃないかと思うくらい落ち込みます。そんな大事な仕事を任せるわけがないのです。

上司の側が少し語気を荒げるだけで、彼らは怒られていると認識してしまいます。

上司もここはぐっと堪えなければなりません。

怒って注意してもどこかに逃げ道を用意してあげることが大事なのです。

「次はしっかりやってくれよ」
「君ががんばったのは認めるよ」
「怒ってるわけじゃないが」

と振っておいて、それからなぜ失敗したかを理詰めで追っていくことです。

といっても、一線を越えて追い込むと、「着信拒否モード」に入ってしまいます。すべてを拒否して、聞こえない、話さない、と殻に閉じこもってしまいます。

逆に、まったく追い込まなければ、イマドキ君は「こんな程度でいいんだ」と、甘えてしまいます。それは本人のためになりません。甘やかさず、きちんと反省させ、次につなげる。この一線の見極めが上司の腕の見せ所と言えます。

イマドキ部下のトリセツ,麻野進
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麻野 進
組織・人事戦略コンサルタント。1963年大阪府生まれ。株式会社パルトネール代表取締役。あさの社会保険労務士事務所代表。大企業から中小・零細企業など企業規模、業種を問わず、組織・人材マネジメントに関するコンサルティングに従事。人事制度構築の実績は100社を超え、年間1,000人を超える管理職に対し、組織マネジメント、セルフマネジメントの方法論を指導。入社6年でスピード出世を果たし、取締役に就任するも、ほどなく退職に追い込まれた経験などから「出世」「リストラ」「管理職」「中高年」「労働時間マネジメント」「働き方改革」を主なテーマとした執筆・講演活動を行っている。

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