たった1件の個人ブログでお客様が押し寄せた

忘れもしない、2012年12月27日。

突然お客様がうわーっと押し寄せました。いつものように20食分くらいしか食材を用意していなかったのに、お客様が途切れず来られること、およそ70名。あわてて営業時間中に食材を買い出しにいきました。

いったい、なにごと? お客様に「なにをご覧になっていらっしゃったんですか?」と尋ねると、「Yahoo!のトップページを見た」とのこと。どうやら、どなたかが個人ブログで佰食屋を紹介してくださり、それがYahoo!の地域ニュース欄にリンクされていたようなのです。

その日を境に、お店の様子はガラッと変わりました。

昼は50名くらい、夜は20名くらいと、毎日のように70名以上はお客様がいらっしゃるようになったのです。口コミサイトにもコメントが寄せられるようになり、一人客や家族連れ、遠方からの観光客など幅広い方にお越しいただけるようになりました。

年が明け、今度は地元の情報誌に掲載されました。「Leaf」という、京都で知らない人はいないタウン誌です。掲載された翌日から、雑誌を手にしたお客様が次々と来られるようになりました。

そして、それまでわたしたち夫婦と義母の三人で切り盛りしてきたお店でしたが、1月に一人、2月にもう一人と正社員を雇うことになりました。

「知ってもらえたら、絶対来てくれる」。夫の言葉は本当でした。

オープンして3か月後 はじめての100食完売

地元の情報誌に掲載されて数週間後。

2013年3月10日には、関西ローカルの街ぶら系テレビ番組「大阪ほんわかテレビ」に取り上げられました。「関西の美しくて美味しい丼」に選ばれたのです。やはり、テレビの影響力はとてつもなく大きなもの。紹介された翌日から、お客様が店の前に列をつくるほど、ひっきりなしに訪れるようになりました。

そしてやっと、夜の営業も含めて、ではありますが、目標としていた100食を売り切ることができたのです。

開店から3か月弱、名実ともに「佰食屋」になった瞬間でした。

そして、テレビ放映から1週間後の3月17日には、はじめてランチだけで100食を完売させることができました。

100食売り切れない日はほとんどないくらい、忙しい毎日がはじまりました。がむしゃらに働いて、「また来てくださいね」と笑顔でお客様を見送って。暇だったときの泣き顔と比べたら、晴れ晴れとしたものです。お客様をお待たせしないように従業員を雇い、余裕を持った体制でお店を運営していけるよう整えていきました。

オープンから1年が経った頃。ようやく「あ、そろそろ大丈夫かな」と、ふと思えるようになりました。それまでは、従業員の給料日前に銀行へ足を運んで、ATMに並んで、一人ひとり手入力で給与を振り込んでいたのを、やっとネットバンキングから振り込めるようになったのです。

ネット振込にかかる月額1080円の手数料さえ、佰食屋にはもったいなかった。その1080円を躊躇なく払えるようになってはじめて、わたしたちが選んだ道に間違いはなかったことを確信できました。

売上を減らそう
中村 朱美(なかむら・あけみ)
1984年生まれ、京都府出身。専門学校の職員として勤務後、2012年に「1日100食限定」をコンセプトに「国産牛ステーキ丼専門店 佰食屋」を開業。その後、「すき焼き」と「肉寿司」の専門店をオープン。連日行列のできる超・人気店となったにもかかわらず「残業ゼロ」を実現した飲食店として注目を集める。また、シングルマザーや高齢者をはじめ多様な人材の雇用を促進する取り組みが評価され、2017年に「新・ダイバーシティ経営企業100選」に選出。2019年には日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2019」大賞(最優秀賞)を受賞。

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