営業時間ではなく売れた数を区切りにする

佰食屋とほかの飲食店の働き方の大きな違い。それは、佰食屋では「営業時間」ではなく「売れた数」を区切りにしていることです。

通常の飲食店の場合、労働の区切りは「時間」です。

特に忙しい日になると、「もう13時なのに今日はお客様が途切れそうにない」「閉店も近いのにお客様がまだこんなにいる。まだこれから明日の仕込みがあるのに」と、従業員は心のどこかでうんざりしてしまうでしょう。

反対に、100食という「売る数の上限」を決めている佰食屋では、お客様が多い日=忙しくない日になります。

なぜかというと、お客様が早くに集まるぶん、整理券を早く配り終えることができて、自動的に営業時間中は厨房と接客に専念できるようになるからです。せっかくお越しいただいたお客様の姿を見て、マイナスな気分が生まれることはありません。

多くのお店は、土日や連休に従業員を確保することに、とても苦労していると聞きます。ゴールデンウィークなんてもってのほか。どんなに忙しく働いても時給が上がるわけではありませんし、同じ給料をもらって働くなら、なるべく暇なときのほうがいい。

むしろ、そう考えるのが普通の感覚、ではないでしょうか。

けれども佰食屋では不思議なことに、みんな土日や祝日にシフトを入れたがります。「売れた数」を労働の区切りにしているため、土日祝日だからといって、「いつもより忙しい」とか「営業時間が延びる」ことが絶対にないからです。正社員から、「平日休みの方がいいんです!」と言われたことさえあります。

つまり「早く帰れる」はお金と同じくらい魅力的なインセンティブ

ただ佰食屋だって、正社員は、土日祝日だからといって給料が上がるわけではありません。でもみんな、こぞって働きたがる。それはつまり、「早く帰れる」ことはお金と同じくらい魅力的なインセンティブだ、ということでしょう。

「まだ空が明るいうちに仕事を終える」のが、どんなに嬉しいことか、そして、どんなに難しいことか。「早く帰れる」ことが、なぜそんなにモチベーションになるのか。残業が当たり前の企業や、長時間労働が常態化している飲食店に勤めたことのある人なら、おわかりいただけると思います。

佰食屋に勤める従業員たちは、少なからずそういった環境で働いた経験のある人ばかりです。佰食屋に入社して、早く帰れるようになって、みんなの人生が変わりました。

入社してから彼女ができて、結婚して子どもができて、育休をとった男性社員がいます。仕事が終わってから、婚活パーティーに行く人もいます。「親に子どもの送り迎えを頼まなくてもよくなった」と喜ぶ人、自分のやりたいことと仕事を両立させ、DJ活動をしている人までいます。

従業員にとって、「自分の好きなことに使える時間が必ずとれること」そして、「会社が必ずそれを認めてくれること」は、日々の暮らしを成り立たせる、とても価値ある安心材料なのです。

売上を減らそう
中村 朱美(なかむら・あけみ)
1984年生まれ、京都府出身。専門学校の職員として勤務後、2012年に「1日100食限定」をコンセプトに「国産牛ステーキ丼専門店 佰食屋」を開業。その後、「すき焼き」と「肉寿司」の専門店をオープン。連日行列のできる超・人気店となったにもかかわらず「残業ゼロ」を実現した飲食店として注目を集める。また、シングルマザーや高齢者をはじめ多様な人材の雇用を促進する取り組みが評価され、2017年に「新・ダイバーシティ経営企業100選」に選出。2019年には日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2019」大賞(最優秀賞)を受賞。

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