シンカー: マーケットではセンチメント、強弱が交錯する経済指標、地政学的なリスクの間で、三つどもえの綱引きが展開されている。年末の政策会合でFEDとECBはいずれも景気悪化リスクが低下しているとの認識を示した。不透明感は落ち着き始めている。英国ではジョンソン首相率いる保守党が、12月12日の総選挙で見込みよりも大幅な過半数を獲得、英国の政治・経済面の状況は一変し、英国が今年1月31日にEUを離脱に関する不確実性が一気に解消した。スペインでも8カ月以上の時間と2回の選挙を経て、左派連立の新政権がついに発足する。グローバル経済の先行き不透明感が後退し、マーケットのセンチメントの好転したことで、年初からリスク資産の上昇基調は続いている。市場は今のところ「期待」に傾いているが、上向きのセンチメントはその現実性が試されようとしている。ユーロ圏の経済ファンダメンタルズは引続き十分に強く完全なリセッションは避けられるとみられるが、鉱工業セクターの状況悪化や、政策当局の反応が遅れるとみられることで、外部ショックに左右され易くなっている。英国のEU離脱後の動きや欧州各国の今後の政治動向もユーロ圏経済にとっては引続きリスク要因だろう。中国も経済指標には安定の兆しが出始め、米中通商協議も第1段合意に至ったなか、年初に預金準備率の引き下げを実施したことで、慎重な緩和アプローチにこだわっていると示している。景気悪化リスクが後退しても、金融政策の正常化はなかなか議題に載ってこない。グローバル経済が緩和的政策に頼らず景気拡大モメンタムを維持するほど堅調でないことも確かだ。経済指標の悪化や地政学リスクの上昇でマーケットの警戒感が強まり、リスク資産への下落圧力が強まる可能性が残っているなか、政策担当者が緩和的な政策を機動的に実施する意思を明確化することがより重要になってくるだろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

グローバル・レポートの要約

●中国経済(1/6): PBoCの「年頭あいさつ」

PBOCは1月1日に、(全銀行を対象とする)幅広い50BPのRRR(預金準備率)引下げを発表、控えめな緩和スタンスを再確認したPBOCは2020年1月1日、全銀行が対象となる50BPの預金準備率(RRR)引下げを発表した。これは1月6日に発効して、(PBOCの計算では)8,000億元の流動性が供給される。引下げ後のRRRは、大手銀行が12.5%、中規模行が10.5%、小規模行が7%となる。これは十分に見込まれていたことで、市場にもほぼ織り込まれていたとみられる(特に、国務院が12月遅くにRRR追加引下げを示していたため)。PBOCは通常通り、こうした動きは実体経済を支えるための慎重な企てであり、現在の用心深いスタンスから離れるものではない、と述べていた。それに加えてPBOCは、RRRの引下げを通じた流動性の供給は、中国の旧正月(今年は1月25日)を前にした季節的な流動性需要の急増に対応することも意図している、としていた。ただしこの点に関して弊社は、RRR引下げを通じた流動性供給だけでは不十分で、中央銀行は今後数週間で追加の公開市場操作もおそらく必要になると考えている。言うまでも無く、3月までに最大1兆元が認められている特別地方債の発行も、間もなく始まるだろう。結局、新年にこのようにRRRを引下げた意義は、実際の流動性に及ぼす実際のインパクトよりも、シグナル効果だった。このことは、PBOCが慎重な緩和アプローチにこだわっていると示している。直近の経済指標にはさらなる安定の兆しが出ており(製造業PMIなど)、米中間の通商交渉における第1段階での合意もほぼ確実になったが、中国経済は依然として政策支援を必要としている。特に、個人や中小企業の信用状況は(実質金利が低下していないことが示す通り)依然厳しい。債券デフォルトや信用イベントの増加からも、PBOCが(民間の)資金調達コストを引下げることはいっそう難しくなっている。中央銀行は、新年も努力を続けなくてはならない(1月1日発表の第4四半期の政策会合要旨も、それが正に骨子となっていた)。

●英国経済(1/8): EU離脱を「完遂」すれば、不利な協定が代償に

ボリス・ジョンソン首相率いる保守党が、12月12日の総選挙で見込みよりも大幅な過半数を獲得、英国の政治・経済面の状況は一変した。英国が今年1月31日にEUを離脱するかどうかについて不確実性が残っていたが、それは一気に解消した。とはいえ、ブレグジットをめぐるストーリーが終わったわけではなく、むしろそれには程遠い。英国はEUを離脱した後に移行期間に入り、それは2020年末に終わる。ジョンソン首相は、この短い期間で今後を左右する貿易協定に関する交渉を決着させると、固く決意している。もちろんこれは、真の立ち位置ではなく、交渉上の駆け引きに過ぎないと見ることもできるかも知れない。ただジョンソン首相は、国内政治で強い基盤を築いており、予定表(移行期間は2020年末まで)にこだわることも出来る。皮肉屋は次の様に言うだろう。「首相は、離脱期限は延期しないと同様に強く断言したが、それを飲み込み逆の行動を取らざるを得なかった。それが再現されないとは言えないだろう?」と。それに対しての答えは「現在は首相が議会をコントロールしている」である。ジョンソン首相は、「ブレグジットを完遂する(“GETTING BREXIT DONE”)」というスローガンの下で選挙戦を進めそうした状況を手に入れた。年末までにEUから完全離脱するという公約を破ることは、(首相に)ダメージとなる。弊社が基本シナリオ(実現可能性70%)と想定しているのは「移行期間が延長されない」展開だ。その結果、英国にとって芳しくない合意(協定)内容になるだろう。

●英国経済(1/14): 政策金利の決定、不安定な状況

イングランド銀行(BOE)の金融政策委員会(MPC)が熱を帯びつつある。すでに2名の委員(サンダース氏とハスケル氏)が即時利下げに(2回の会合で)票を投じており、現在はテンレイロ、ブリハ、カーニー(総裁)の各氏も、(英国経済の)弱い状況が続くならば利下げに投票すると述べている。通常ならば、これは弊社の英国政策金利の弊社見通しを(1月30日の次回政策決定会合で、「変更は無い」を「利下げがある」に)修正する十分なエビデンスだ(特に、13日に発表されたGDPも弱かったため)。だが、12月12日の総選挙でジョンソン首相が歴史的勝利を収めたことで、(企業や家計の)信頼感がすぐ上昇したり、財政支出が(比較的緩やかだが)拡大して景気も加速する可能性がある。現在から1月30日までの様々なサーベイ結果で、そうした信頼感に与える効果が最初に示される。また、次回の政策決定会合の翌日にブレグジットが実施されるため、このタイミングで緩和(利下げ)を行うと、(大きなインパクトは利下げ当日ではなく長期的に発生するが)EU離脱についてのBOEの考え方をメディアが逆に受取る可能性がある。BOEはこの点を既に強く批判されており、それがさらに強まりかねない動きは避けたがると考えられる。そのため弊社は今の所、次回会合で金融政策の変更は無いという考え方を変えない。ただし、それは僅差で決定されるとみている。なお弊社は、これ(政策金利見通し)に関する最新情報を今後もお届けしたいと考えている。

●スペイン経済(1/9): ついに政権発足も、労働市場改革の後退が懸念材料

スペインでは、8カ月以上の時間と2回の選挙を経て、左派連立の新政権がついに発足する。だが、少数政権であるため策を凝らす余地は非常に狭くなる、また地域政党の要求に左右されると見込まれる。連立政権の経済アジェンダをみると、政府は個人富裕層や大企業向け増税を財源に政府支出増加を目指すとみられる。詳細不明のため経済へのインパクトの完全な評価は難しいが、政府にはEU財政ルールを守る責任があり、財政目標未達は小幅になる見込みだ。弊社が主に懸念しているのは、構造改革(の不足)と、連立政権には2012年労働市場改革の一部を撤回する意向があることだ。従来の、また計画されている最低賃金引上げと共に、これがスペイン企業の競争力や収益性を弱める可能性がある。その場合、格付け会社や市場が強く注目することは間違いない。

●ユーロ圏経済(1/9): 2020年の十大テーマ

今年も、ユーロ圏にとって非常に重要な年になると見込まれる。昨年末に(企業や消費者の)信頼感が回復したことで、弊社は、逆風が再び吹くのは今年後半で(米国リセッション入りが背景になるだろう)、ユーロ圏の景気拡大の底固さが試されることになるとみている。経済のファンダメンタルズは引続き十分に強く完全なリセッションは避けられるとみられるが、鉱工業セクターの状況悪化や、政策当局の反応が遅いとみられることで、ユーロ圏は外部ショックに左右され易くなっている。政治関係の要因が、ユーロ圏経済にとっては引続き最大のリスク要因だ。弊社は今回、2020年の十大テーマを選び、重要性が高いものから順に詳述する。

●債券市場(11/14):期待と不安

市場のセンチメント、強弱が交錯する経済指標、地政学的なリスクの間で、三つどもえの綱引きが展開されている。市場は今のところ「期待」に傾いているが、上向きのセンチメントはその現実性が試されようとしている。昨年12月、米連邦準備制度理事会(FRB)と欧州中央銀行(ECB)はいずれも景気悪化リスクが低下しているとの認識を示したが、金融政策の正常化はなかなか議題に載ってこない。一方で、市場が「不安」に傾く時期もあるだろう。このため、我々は債券ロングの戦略的エクスポージャーを維持するとともに、ドイツ国債よりも米国債を選好し、ユーロ圏の国債市場では周縁国をオーバーウエートする。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司