シンカー:企業の売上高経常利益率が上昇しなければ、日本経済の状態が好転したとはいえないが、上昇し続ければ、物価上昇圧力は強くならない。需要の拡大に対して供給余力の拡大を意味するため、物価上昇圧力を抑制する効果があるからだ。しかし、コストの上昇の勢いは強くなり、売上高経常利益率は明らかに伸び悩み始めている。リストラ余地に限界がある中で、売上高経常利益率の鈍化を止めるためには、企業の選択として、売上高を更に増加させるか、価格を引き上げる必要があることを意味する。価格を引き上げて販売数量に下押し圧力がかかっても、価格弾力性を考慮しながら、値上げで利益を確保する動きは加速するだろう。
12月のコア消費者物価指数(除く生鮮食品)は前年同月比+0.7%と、11月の同+0.5%から上昇幅が拡大した。
9月の同+0.3%からの持ち直しが鮮明だ。
コストの上昇などを反映して、調理食品や衣料などに価格引き上げの動きがみられる。
雇用・所得環境の改善を背景として家計のサービス支出は強く、教養娯楽サービスなどでも価格引き上げの動きがみられる。
一方、10月の消費税率引き上げ前の駆け込み需要の反動で、耐久消費財の販売は鈍化し、価格の引き下げによる年末商戦での販売促進があったとみられる。
12月のコアコア消費者物価指数(除く生鮮食品・エネルギー)も同+0.9%と、11月の同+0.8%から上昇幅を拡大した。
アベノミクスが円安や短期的な需要対策だけではなく、日本経済の内需を含めた本格的な景気拡大に寄与してきたののは、非製造業を含めて企業の売上高経常利益率がしっかり上昇し、これまでの最高水準になっていることで説明できる。
ただ、規制改革や自律的な産業構造の変化などによる利益率の改善は、デフレ完全脱却にとって痛し痒しの面がある。
利益率が上昇しなければ、日本経済の状態が好転したとはいえないが、上昇し続ければ、物価上昇圧力は強くならない。
需要の拡大に対して供給余力の拡大を意味するため、物価上昇圧力を抑制する効果があるからだ。
しかし、コストの上昇の勢いは強くなり、売上高経常利益率は明らかに伸び悩み始めている。
12月の日銀短観では、2019年度の全規模全産業の売上高経常利益率の計画は5.28%となり、2018年度の5.71%から鈍化することを示している。
リストラ余地に限界がある中で、売上高経常利益率の鈍化を止めるためには、企業の選択として、売上高を更に増加させるか、価格を引き上げる必要があることを意味する。
設備投資と研究・開発費を増加し、新商品・サービスを生み出す動きは加速するだろう。
更に、価格を引き上げて販売数量に下押し圧力がかかても、価格弾力性を考慮しながら、値上げで利益を確保する動きも加速するだろう。
総賃金はしっかりとした拡大が始まっており、新たな付加価値を生み出しながらの値上げが販売数量を減少させる弾力性は過去より低下しているという自信が、企業にも徐々に生まれるとみられる。
物価下落要因は、エネルギーや通信 、教育無償化や消費税率引き上げ分を値下げでオフセットする動きなどのテクニカルなものが多く、上昇要因が需要超過とコスト増の基調の動きのものが多くなってきている。
テクニカルな要因で物価上昇圧力は見えにくくなっているが、徐々に強さを増しているのは事実だろう。
2019年の物価上昇率がテクニカルな理由で弱ければ弱いほど、2020年は逆に強くなり、就業率の上昇ペースの鈍化が人手不足感を更に強くし、価格弾力性を考慮した企業の価格戦略も広がることもあり、堅調な消費需要を背景に、期待インフレ率の上昇とともないながら、1%を上回る水準に上昇率が加速していく可能性は十分にあると考える。
マーケットは物価上昇が弱いという先入観があるが、2020年は想定以上の物価上昇ペースに注意が必要になるだろう。
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司