シンカー:内閣府の中長期の経済財政に関する試算では、財政赤字が恒常的に過大推計されていることがわかっている。その結果、財政政策が想定するより緊縮的になってしまい、デフレ完全脱却の動きが阻害されてしまっていると考えられる。将来のシミュレーションをこのバイアスの存在を織り込んで全体として上方修正すれば、慎重なベースラインケースでも2025年度には財政収支は黒字化する試算となる。
1月17日の経済財政諮問会議に提出された内閣府の中長期の経済財政に関する試算では、恒常的な財政赤字の過大な推計がまだ続いてしまっていることを明らかにした。
内閣府の中長期の経済財政に関する試算が毎年夏に改定され、その時点では既に前年度は終わっており、その決算も税収の状況を含めまとまりつつあるため、前年度の一般政府の財政赤字はかなりの精度で推計できると考えても不思議ではない。
2019年夏に推計された2018年度の一般政府の財政収支はGDP対比-3.0%の赤字であった。
しかし、年末に公表された国民経済計算年次推計を経て、今回の改訂で織り込まれている実績値は-2.2%の赤字で、財政赤字が0.8pptほど過大な推計であったことがわかった。
このような過大推計は恒常的になっている。
アベノミクスによるデフレ完全脱却への方針が本格的に動き出した2013年度からみてみる。
夏の内閣府の一般政府の財政赤字の推計は、2013年度-8.3%、2014年度-6.5%、2015年度-4.7%、2016年度-4.7%、2017年度-4.0%、2018年度は-3.0%であった。
一方、実績値は、2013年度-7.2%、2014年度-4.9%、2015年度-3.3%、2016年度-3.4%、2017年度-2.7%。2018年度-2.2%であり、財政収支は明確に改善トレンドにある。
その差(内閣府試算-実績)は、2013年度+1.1ppt、2014年度+1.6ppt、2015年度+1.4ppt、2016年度+1.3ppt、2017年度+1.3ppt、2018年度+0.8pptであり、この間の平均は+1.25pptとなった。
これで、財政政策が想定するより緩和的(景気刺激的)であったのか、緊縮的(景気抑制的)であったのか判断できる。
推計より赤字が大きければ緩和的、赤字が小さければ緊縮的である。
結果は、毎年GDP比1.25ppt程度も財政赤字が推計より小さく、財政政策は想定より緊縮的(景気抑制的)になっていたと判断できる。
予算などで支出されることが決まっていたものが、実際には何らかの理由で使われず、想定される総需要を押し下げ、緊縮効果となっていることも意味するのかもしれない。
このような予算対比の過小支出が、単年ではなく、恒常的に継続していることは異常だ。
結果として、財政政策があまりにも緊縮的で、デフレ完全脱却の動きが阻害されてしまった一つの原因になっていると考えられる。
そして、今回の改定による2019年度の新たな財政赤字の推計は-3.1%と、2018年度の-2.2%から悪化するようになっており、これまでのように、財政赤字を過大推計するバイアスは続いているようである。
直近の推計がバイアスを持っていれば、そこを基点として延長される将来のシミュレーションの結果にも影響が出てくることになる。
将来のシミュレーションをこのバイアスの存在を織り込んで全体として1.25ppt程度上方修正すれば、慎重なベースラインケースでも2025年度には財政収支(現在の推計は-1.0%)は黒字化する試算となる。
表)夏の内閣府の中長期の経済財政に関する試算での財政赤字と、1月の改訂で織り込んだ実績
表)内閣府中長期財政試算 部門別収支予測(ベースラインケース)
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司