シンカー: ECBは金融政策戦略の見直しを開始し、今年末までと長い時間をかけ、物価安定の数式上の定義、政策ツールキット、経済・金融分析、コミュニケーションの方法などを議論する。ユーロ圏の経済成長見通しについて、景気を取り巻くリスクは引き続き下方に傾いているが、以前ほど顕著ではなくなっているとの認識を示した。市場では依然として金融政策運営の見直しに注目が集まっているが、当面は金融政策スタンスのいかなる変更も予想しがたい。イタリアでも、地方選結果を受け、早期総選挙を懸念していた市場が落着いたと考えられる。景気に対するリスクが落ち着き始めているようだ。中国でも昨年からの政策対応の効果もあり、信用を通じた景気刺激策の効果が引続き出ている。グローバルに昨年の景気後退懸念が悪化した局面での政策対応の効果が出始めている。各国政策担当者はデフレを回避するためにもインフレアンカーを維持しようと政策を緩和的にしたようだ。今後、リフレの見通しが強まってくると、世界の各資産には良い材料とみられる。超短期的には、クオリティ株に対するバリュー株のロングと、G3債券のショートが、リスクの割に最も有望だと見込んでいる。中期的には、欧州銀行株式、シクリカル vs ディフェンシブ(前者のロング、後者のショート)、バリュー vs クオリティ、半導体vs ソフトウエアの収益ポテンシャルが最も高い。また、デフレからインフレへのグローバルな転換はデフレ完全脱却への動きをみせる日本にはかなりの追い風となると考えられ、推奨グローバル・ポートフォリオでも日本株式を最大ウェイトにしている。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

グローバル・レポートの要約

●マルチアセット・ストラテジー(1/27): 現時点で購入すべき(ベストの)リフレ連動資産は

中国の信用を通じた景気刺激策の効果が引続き出ており、リフレの恩恵を受ける世界の各資産には良い材料とみられる。こうしたリフレ連動資産の中でも、特に魅力的なものがあると弊社はみている。超短期的には、クオリティ株に対するバリュー株のロングと、G3債券のショートが、リスクの割に最も有望だと弊社は見込んでいる。中期的には(12カ月など)、欧州銀行株式、シクリカル VS ディフェンシブ(シクリカル株の、ディフェンシブ株に対するロング)、バリュー VS クオリティ、半導体VS ソフトウエアの収益ポテンシャルが最も高い。米国や欧州全域で、景気先行指数は2019年第4四半期(Q4)に底打ちして、その後にも上昇している。(米国と中国の間で第1段階の合意に達したことを映した)ドル安に助けられた。だが弊社の考えでは、中国の信用供与を通じた刺激が、過去2年間に世界で発生したリフレの波の主な原動力だった。その理由は、 1) 中国の信用伸び率は2009年以降、米国とEUを上回ってきた、2) 中国の景気刺激策は、米国と欧州で信用拡大が弱い時期に実施されることが通例、3) インフラストラクチュアが主な投資対象となっており、政策の波及速度が従来より遥かに上昇した、の3点である。最近発生したリフレの波が資産価格を押上げており、その中で上昇速度が抜群の資産クラスもみられる。

●イタリア経済(1/28): 連立政権の不安定な平衡、もう少し続く可能性がある

イタリアでは日曜日(26日)の地方選結果を受け、早期総選挙を懸念していた市場が落着いたと考えられる。連立政権を形成する(または支持する)党の中に、「危機の引き金を引く」ことで利益を得るところは無いため、弊社でも(地方選の結果に関係なく)早期総選挙を基本シナリオに組込んでいなかった。とはいえ、政治的な不確実性が完全に解消したわけではない。弊社のみたところ、五つ星運動の議員の大量離党が、連立政権の安定性を強く脅かしている。ディマイオ氏が先週に同党の党首を辞任したことは、約18カ月続いた活動を再構築する試みとみられる。五つ星運動の党首選は3月半ばで、新しい完全比例制の選挙法も議会で近々討論される(見通しである)ため、政治的環境が短期的にはさらに安定するかも知れない。ただし3月以降の行方は見通しづらい。そうは言っても「不安定な均衡」が、(そうした不安定さがどの程度かを、幅広く留意されながらも)2021年まで、またはもっと長く続く可能性はある。

●ユーロ圏経済(1/24): ECB:1年間に及ぶ戦略見直しを開始

ECBは本日、金融政策戦略の見直しを開始した。今年末まで続くとみられる。見直し対象は広範囲で、主に物価安定の数式上の定義、政策ツールキット、経済・金融分析、コミュニケーションの実行が含まれる。金融安定、雇用、環境面の持続可能性も見直し対象になる。そして、ユーロシステム(ECBとユーロ加盟国の中央銀行)全体で、あらゆる関係者とともに見直しに取組む。ラガルド総裁は、今後のインフレ目標はどのような形か望ましいか、またはマイナス金利に対する見方に関しては依然として口が堅く、ドラギ総裁の下で合意した政策にこだわる姿勢をみせた。これはすべて見込み通りだった。また、金融政策見直しは少なくとも今年後半までは、市場の注目をさほど集めないと弊社はみている。

●債券市場(11/26):ゆっくりと回転

欧州中央銀行(ECB)は、ユーロ圏の経済成長見通しについて、景気を取り巻くリスクは引き続き下方に傾いているが、以前ほど顕著ではなくなっているとの認識を示した。市場では依然として金融政策運営の見直しに注目が集まっているが、当面は金融政策スタンスのいかなる変更も予想しがたい。その時期は早くても第3四半期以降だろう。今はゆっくりと回転しているような状態にある。長期的に自然な結果として、市場はイールドカーブのベア・スティープニングを見ることになろう。次の焦点は、米連邦準備制度理事会(FRB)とイングランド銀行(BOE)の金融政策会合だ。地政学的なリスクが去った後、今度は新型コロナウイルスの蔓延がリスクオフの雰囲気や債券相場の上昇を後押ししている。そして、弊社の2020年の基本的見通しと整合するように、米国債がドイツ国債をアウトパフォームしている。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司