シンカー:生産動向に強い影響を受ける景気動向指数が景気後退のリスクを示し続けたのに反して、実体経済とマーケットは堅調であった。バブル崩壊後、強い外需と弱い内需という定番の形から、弱い外需と強い内需という新しい形に変化してきていることが確認できた2019年であった。この変化が円高が進行しない理由の一つだろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

12月の鉱工業生産指数は前月比+1.3%と、11月の同?1.0%から上昇に転じた。

ただ、10月の消費税率引き上げ後の警戒感などにより、10月に同?4.5%と大きく低下した後としてはまだ戻りは弱い。

IT関連財の生産の持ち直しは鮮明になってきたが、外需の低迷と災害によるサプライチェーンの滞りなどがあり輸送機械の生産がまだ弱いのが原因とみられる。

10-12月期は前期比?4.0%の大きめの低下となった(7?9月期同?0.5%)。

2019年全体の鉱工業生産指数は前年比で?2.9%の低下、実質輸出も?1.7%の減少となったとみられる。

一方で、実質GDP成長率は+1%程度、TOPIXも1年間で+22.3%も上昇した。

生産動向に強い影響を受ける景気動向指数が景気後退のリスクを示し続けたのに反して、実体経済とマーケットは堅調であった。

日銀は、1月の展望レポートで、景気の先行きについて、「当面、海外経済の減速の影響が残るものの、国内需要への波及は限定的となり、2021 年度までの見通し期間を通じて、景気の拡大基調が続くとみられる」と判断している。

バブル崩壊後、強い外需と弱い内需という定番の形から、弱い外需と強い内需という新しい形に変化してきていることが確認できた2019年であった。

この変化が円高が進行しない理由の一つだろう。

内需拡大への足かせとなっていた緊縮的な財政政策は、安倍首相の自民党総裁の任期末の2021年9月までにデフレを完全脱却して、「強い経済」を安倍政権のレガシーとして残すために、緩和に転じてきている。

堅調な雇用・所得環境に支えられ、内需の拡大は継続するだろう。

ただ、内需拡大の中身はサービス関連が中心であるとみられ、鉱工業生産へのインパクトはあまり感じられない。

IT関連財の在庫調整の一巡が鮮明になる中、海外経済の内需も経済政策などに支えられて持ち直すことで、鉱工業生産の底打ちが1?3月期にはみられるだろう。

1・2月の経済産業省予測指数は前月比+3.5%(誤差修正後で同+0.5%)・+4.1%とかなり強く、生産活動のリバウンドを示している。

予測指数(誤差修正後)によれば、1?3月期の生産は前期比+4.4%上昇することになる。

ただ、新型コロナウィルスの影響が長引き、需要の大きな下押しとサプライチェーンの滞りにつながり、企業心理を大きく悪化させないかには注意が必要だ。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司