シンカー: ドイツ・フランスをはじめとしてユーロ圏では製造業の不調が続いているが、サービス業は比較的底堅いようだ。米国では、設備投資が振るわないことや、航空機の製造の急激な落ち込みが製造業への下押し圧力になっている一方、ISM指数などはサービス業が引き続き堅調なことを示している。さらに1月の雇用統計は労働市場での雇用トレンドが継続していることを示しており、家計部門へのサポートとなるとみられる。コロナウイルスによってグローバル・サプライチェーンへの影響が懸念されるが、堅調な内需を背景に悪影響は限定的であるとみられ、家計部門に底割れがなければ世界経済がリセッション入りする可能性は高くないだろう。
グローバル・経済指標・クイックコメント集
●米NFP (2/7): 225K (予想165K / 前回145K ->147K)
●米失業率 (2/7): 3.6% (予想3.5% / 前回3.5%)
●米平均時給(2/7): MOM 0.2% (予想0.3% / 前回0.1%) / YOY 3.1% (予想3.0% / 前回2.9% -> 3.0%)
・1月の失業率は3.6%から上昇し、賃金上昇圧力は強くなっていないが、全体的に見て非農業門雇用者数の結果はしっかりした雇用トレンドが継続していることを示している。
・建造業、流通・倉庫業や、教育・医療サービス業で雇用者数の伸びが大きく、特に建設業の伸びは暖冬によるものが大きいとみられる。
・一方、今回の年間改定で、2018年4月から2019年3月までの雇用者数の伸びが-514K下方修正を受けた。
・2月の雇用統計はコロナウイルスの感染拡大によるサプライチェーンへの影響で雇用の伸びが減速する可能性があるだろう。
・市場は、労働市場が堅調な状態が続いているものの、FEDが年内に利下げを行うという見方を変えていないようだ。
●独鉱工業生産 (2/7): MOM -3.5% (予想-0.2% / 前回1.1% -> 1.2%) / YOY -6.8% (予想-3.7% / 前回-2.6% -> -2.5%)
・12月のドイツ鉱工業生産は再びマイナスへと低下し、前日に発表されていた製造業受注と同様に弱い結果になった。
・ブレグジットや貿易戦争に関係する製造業への下押し圧力は12月も継続したとみられ、自動車セクターの構造的な問題も解消に時間を要しているようだ。
・1月には製造業の景況感に底打ちの兆しが見えていたものの、新型コロナウイルスが重しとなる可能性が高く、短期的に製造業が大きく持ち直す可能性は低いだろう。
●仏鉱工業生産 (2/7): MOM -2.8% (予想-0.3% / 前回0.3% -> 0.0%) / YOY -3.0% (予想1.0% / 前回1.3% -> 0.9%)
・12月のフランス鉱工業生産はコンセンサスを上回って大幅に下落した。
・12月は国内における大規模ストライキによって生産活動が阻害されたことが大きいとみられる。
・ドイツをはじめとして製造業の軟調さがユーロ圏経済成長への圧力となっており、今後サービス業を中心に景気を支えることができるかが注目される。
●ドイツ製造業受注(2/7):前月比 -2.1% (予想0.6% / 前回-1.3% -> -0.8%) / 前年比 -8.7% (予想-6.6% / 前回-6.5% -> -6.0%)
・12月にドイツ製造業受注は10年ぶりの大幅減を記録、コンセンサスを大きく下回った。
・内訳では、国内受注は前月比1.4%となる一方で、国外からの受注が同?4.5%と大きく減少。
・特にユーロ圏からの受注は前月比?13.9%と軟調さが目立つ結果となった。
・足元では、ドイツ製造業の景況感が底打ちしてきた兆しがみられるが、一方で非製造業への悪影響の波及や今年のコロナウイルスも懸念される。
●米ISM非製造業指数 (2/6): 55.5 (予想55.1 / 前回55.0 -> 54.9)
・1月の業況感指数、新規受注指数が前月から持ち直し、指数全体を押し上げた。
・一方で、雇用指数や価格指数などは低下がみられ、強弱の内容となっている。
・先立って発表されたISM製造業指数にも持ち直しがみられ、全体として経済状況はしっかりしていると言える。
・設備投資などの弱さが継続していることがやや懸念されるが、非製造業部門が底割れしない限りリセッションの可能性は高くないだろう。
●米製造業受注 (2/5): 前月比1.8% (予想1.2% / 前回-0.7% -> -1.2%)
・12月の米製造業受注は前月比1.8%とコンセンサス以上になり、2か月ぶりの増加となった。
・軍用機・同部品などの受注が急増したことが、全体の水準を押し上げた。
・一方で、設備投資は弱い状態が続いており、ISM製造業指数などでは景況感の回復がみられたが、持ち直しにはまだ時間がかかりそうだ。
・さらに、コロナウイルスをめぐる混乱で、中国をはじめとしたサプライチェーンのへの悪影響が今後出てくる恐れがあるだろう。
●ユーロ圏GDP速報値 (2/3): 前期比0.1% (予想0.2% / 前回0.2% -> 0.3%) / 前年比1.0% (予想1.1% / 前回1.2%)
・ユーロ圏の4QGDPはコンセンサスの前期比0.2%を下回り、同0.1%となった。
・フランスGDPが下振れたことがユーロ圏全体から0.1PPT程度の下押し圧力に。
・3QのGDP成長率は前期比0.3%と同0.2%から上方修正された。
・今年のユーロ圏GDPは内需がしっかりしていることから、潜在成長率付近を推移する見込み。
●米耐久財受注 (1/29): 前月比2.4% (予想0.3% / 前回-2.1% -> -3.1%)/非国防資本財受注-0.9%(予想0.2% / 前回0.2% -> 0.1%)
・12月の航空機を除く非国防資本財受注(コア資本受注)は予想に反して下落。
・一方、ヘッドラインの耐久材受注は予想を大きく上回った。
・軍用機の受注が増加したことが背景にあると見られる。
・企業の設備投資は4Qに入っても弱い状態が続いており、GDPへの重石になった可能性がある。
・貿易関係の不透明感が後退していることや、米国の実質金利が極めて低水準で推移していることから、企業が再び設備投資を活発化させる可能性があるだろう。
●米コンファレンスボード消費者信頼感指数 (1/29): 131.6 (予想128.0 / 前回126.5 -> 128.2)
・1月のコンファレンスボード消費者信頼感指数は5ヶ月ぶりの高水準に。
・労働市場の改善が意識され、雇用に対する楽観が高まったことが指標を押し上げた。
・タイトな労働市場は消費者のセンチメントを支え続け、引き続き堅調な消費活動につながるだろう。
グローバル・政治/金融政策・クイックコメント集
●イタリア地方選挙(1/28):政治不安は消えないものの、連立政権が長続きする可能性
・26日に行われたエミリアロマーニャ州における選挙では、中道左派勢力の得票率が51.4%に対して右派勢力が43.7%となった。
・極右の同盟は敗北したものの、伝統的に左派優勢かつ裕福な地域において健闘したといえる。
・同時に、総選挙になった際、同盟をはじめとした右派勢力が拡大する可能性が改めて示された。
・5つ星運動の得票率は3.5%と前回2014年の13%から大幅に低下。
・リスクとしては、この5つ星運動の敗北が造反者の増加につながり、政権が不安定化することだろう。
・今回の地方選挙の結果は、現政権の継続という点ではポジティブであるといえる。
●イタリア政治(1/23):ディ・マイオ党首の辞任
・5つ星のディ・マイオ党首は昨日、党首を辞任することを発表。外相としてはとどまる見通し。
・総選挙への懸念が強まる可能性があるが、ディ・マイオ氏が辞任したことが自動的に政権崩壊につながるわけではない。
・5つ星は今後数か月のうちに党大会を開き、新党首を選出するとしている。
・26日のイタリア地方選挙では、同盟(右派)の躍進が予想され、5つ星と連立している民主党(PD)が打撃を受ける可能性。
・リスクシナリオとしては、今後5つ星に属する議員の造反が増えていけば、現与党の過半数が保持できなくなり、政権崩壊につながるかもしれない。
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司