シンカー: 昨年の今頃は、米国のイールドカーブの逆転が将来の悲観論を織り込んでいるため、自己実現的に景気後退に陥るという見方が多かった。実際にはファンダメンタルズは堅調で、株価は史上最高値を更新した。長期実質金利は極度に低下しており、金融市場から実体経済にまだ緩和効果が強い状態では、自己実現的な景気後退よりも、ディスカウントファクターの低下による株価のバリュエーションの上昇の影響の方が強かったのだろう。しかし、いずれ因果関係は逆転する可能性がある。ファンダメンタルズが堅調であれば、極度に低下した長期実質金利は正しいのかという疑問が生まれるだろう。米国政府の財政拡大路線が継続していていることと、FEDが短期国債買い入れ縮小を示唆したことも影響を与えるだろう。現在は、新型コロナウィルスの影響で、そのような動きは抑えられている。春先に新型コロナウィルスの影響が収まると仮定した場合、年後半のマーケットの重要なテーマとなる可能性がある。
グローバル・レポートの要約
●アセット・アロケーション(2/6): 魅力的な株式オプションを選択
新型コロナウイルス危機が債券市場に大きなインパクトを与え、10年物米国債利回りは最近1.5%へ低下した(その後で少し戻した)。これがさらに大幅低下して1.2%に達しても、2020年と2021年の企業収益(増益率)見通しがゼロになることも同時に想定すれば、株式リスクプレミアム(ERP)はほとんど変化しない。米国株はERPが3%未満から足元の5.5%に上昇、非常に底固い状況が続いてきた。日本では、政策主導でリフレが実現する可能性がある状況で、ERPが過去最高近く(6.1%)になっている。政策が追い風になる可能性や魅力的なバリュエーションを考えて、有望な日本株への投資機会が訪れていると弊社はみている。日本と同様に、欧州株もリスクプレミアムが高くなっている。これらが投資機会だとすれば、良いコスト効率で(日本や欧州の)株価上昇をつかまえる方法は何だろうか。
●中国経済(2/4): コロナウイルスの渦中で利下げ、追加緩和も視野
PBOCは延長した春節(旧正月)休場明けの3日に、中国経済を支える目的で、短期政策金利を引下げると共に公開市場操作も実施した。武漢発の新型コロナウイルス禍によるネガティブな影響を裏付ける証拠が増える中で、弊社は2020年第1四半期(Q1)の中国実質GDP成長率予測を4.5%に下方修正するとともに、2020年前半には2回(10BPずつ)の政策金利 引下げと、1回の預金準備率引下げ(50BP) があると見込んでいる。弊社はまた、政府が3月のNPC(全国人民代表大会)で、財政赤字目標のGDP比3%超への引上げを発表すると見込む。弊社が想定する基本シナリオは「3月か4月までに新型コロナウイルスが制御されるなら、Q2には経済活動が回復して通年実質GDP成長率が5.7%に達する」というものだ。 ただ(弊社基本シナリオに対する)リスクは下方に傾いている。
●インド経済(2/10): RBIが出した施策では、まだ不十分な可能性も
2021年度(2020年4月?2021年3月)連邦政府予算の発表後はじめてのMPC(金融政策委員会)で、RBI(インド準備銀行=中央銀行)は広く見込まれていた通り、賢明にも政策金利(レポ金利)を(5.15%で)据置いた。インフレは一時的な現象とみてインフレに対する懸念は重視しなかった。RBI は緩和的スタンスを維持して将来の利下げ可能性を残す一方、(金利や信用フローの両チャネルを通じ)金融政策の波及効果改善につながる多数の策を発表した。
●債券市場(2/10):楽観論に勝る慎重論
株価が数年ぶりの高値まで反発し、クレジット・スプレッドが歴史的にタイトな水準へと戻るのに、あまり多くの材料は必要でなかった。それには、新型コロナウイルスとの戦いに曙光が見え始めたことに加え、グローバルな製造業統計や消費者信頼感、企業景況感のポジティブ・サプライズだけで十分だった。債券市場は当面、弊社と同様に比較的慎重な見方を崩さず、リスクオンの投資環境でも小規模な売りにとどまる見通しだ。こうした状況から、キャリー収益重視の投資戦略や、ユーロ圏周縁国の比較的利回りの高い債券が引き続き有望とみられる。
●グローバル・ストラテジー(2/7):「氷河期理論」は変えないが、その終わりが近づいている
株価が数年ぶりの高値まで反発し、クレジット・スプレッドが歴史的にタイトな水準へと戻るのに、あまり多くの材料は必要でなかった。それには、新型コロナウイルスとの戦いに曙光が見え始めたことに加え、グローバルな製造業統計や消費者信頼感、企業景況感のポジティブ・サプライズだけで十分だった。債券市場は当面、弊社と同様に比較的慎重な見方を崩さず、リスクオンの投資環境でも小規模な売りにとどまる見通しだ。こうした状況から、キャリー収益重視の投資戦略や、ユーロ圏周縁国の比較的利回りの高い債券が引き続き有望とみられる。
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司