シンカー:内閣府の中長期の経済財政に関する試算の財政政策の議論での典型的な使われ方は以下のようなものだろう。「内閣府は政府の基礎的財政収支が、楽観的な成長実現ケースでも2025年度に3.6兆円(GDP比率-0.5%)程度の赤字になると試算した。政府が目標とする2025年度の基礎的財政収支黒字化までに足らない数兆円分の財政緊縮を早急に行わなければいけない。」このような使われ方が典型的な例であるということは、マーケット、メディア、政策現場では、内閣府の中長期の経済財政に関する試算に関する誤解があることを示す。この内閣府の中長期の経済財政に関する試算は、あくまで政府の予算ベースでの将来のシミュレーションになっている。しかし、実際に政府の支出がどれだけなされたのか、収入に対して収支はどのくらいだったのかは、決算で確定することになる。財政ファイナンスの状況にとって重要なのは、あくまで実際の結果である決算である。予算と決算に乖離があり、予算ベースでは財政赤字が恒常的に過大推計(GDP比率1.3%程度)されていることがわかっており、将来の財政赤字の水準に関する推計にもその乖離が反映されてしまっているようだ。本予算と補正予算などで支出されることが決まっていたものが、実際には何らかの理由で恒常的に使われない構造的な財政システムの問題があるようだ。内閣府の中長期の経済財政に関する試算は、財政赤字が過大に推計される傾向があり、その恒常的なバイアスをどの程度考慮するのかだけで、基礎的財政収支の黒字化の推計達成年度はかなりずれてしまう。政府の基礎的財政黒字化目標である2025年度までに足らない数兆円分の財政緊縮を早急に行わなければいけないという政策議論は、内閣府の中長期の経済財政に関する試算に関する誤解に基づいたものであるという認識が必要だろう。より重要なのは、経済ファンダメンタルズの改善の動きにそって財政赤字が縮小傾向にあるのかだが、推計では縮小傾向にあり問題はないようだ。内閣府の中長期の経済財政に関する試算の将来のシミュレーションは、予算ベースの推計は誤解を生み、財政議論を歪め、デフレ完全脱却を含む日本経済の健全な成長を阻害するリスクがあるため、予算と決算の恒常的な乖離は安定していることを考えると、財政ファイナンスの状況にとって重要な実際の結果である決算ベースで行うべきかもしれない。
内閣府の中長期の経済財政に関する試算の財政政策の議論での典型的な使われ方は以下のようなものだろう。
「内閣府は政府の基礎的財政収支が、楽観的な成長実現(名目GDP成長率3%台)ケースでも2025年度に3.6兆円(GDP比率-0.5%)程度の赤字になると試算した。
悲観的なベースライン(名目GDP成長率1%台)ケースでは8.2兆円(GDP比率1.3%)程度となる。
政府が目標とする2025年度の基礎的財政収支黒字化までは遠い。
グローバルに景気下支えのため財政出動圧力が強まっており、財政健全化への動きは停滞している。
2025年度までに足らない数兆円分の財政緊縮(増税、歳出削減)を早急に行わなければいけない。」
このような使われ方が典型的な例であるということは、マーケット、メディア、政策現場では、内閣府の中長期の経済財政に関する試算に関する誤解があることを示す。
この内閣府の中長期の経済財政に関する試算は、あくまで政府の予算ベースでの将来のシミュレーションになっている。
しかし、実際に政府の支出がどれだけなされたのか、収入に対して収支はどのくらいだったのかは、決算で確定することになる。
財政ファイナンスの状況にとって重要なのは、あくまで実際の結果である決算である。
予算と決算に恒常的な乖離があった場合、将来の財政赤字の水準に関する推計にもその乖離が反映されてしまっているようだ。
内閣府の中長期の経済財政に関する試算は、毎年夏に改訂され、その時点では既に前年度は終わっており、その決算も税収の状況を含めまとまりつつあるため、年初の推計が修正され、前年度の一般政府の財政赤字はかなりの精度で推計できると考えられる。
しかし、実績との差(翌年初までに分かる実績-内閣府推計、GDP比率)は、2013年度+1.1ppt、2014年度+1.6ppt、2015年度+1.4ppt、2016年度+1.3ppt、2017年度+1.3ppt、2018年度+0.8pptであり、この間の平均は+1.3ppt程度と、まだ恒常的に財政赤字が過大推計されていた。
本予算と補正予算などで支出されることが決まっていたものが、実際には何らかの理由で恒常的に使われない構造的な財政システムの問題があるようだ。
本予算で余った資金に加えて上積みの支出が補正予算で行われ財政健全化が進行していないと信じられているが、決算上では逆に過小支出になっていたことがわかる。
内閣府の中長期の経済財政に関する試算を、予算ベースから実際の収支が反映される決算ベースにこの平均的な乖離(GEP比率で1.3%程度)を使い修正すれば、2025年度には成長実現ケースでは黒字に、ベースラインケースでも赤字がほぼなくなることになってしまう。
内閣府の中長期の経済財政に関する試算は、財政赤字が過大に推計される傾向があり、その恒常的なバイアスをどの程度考慮するのかだけで、基礎的財政収支の黒字化の推計達成年度はかなりずれてしまう。
いつまでに黒字化できるのかというような使い方は適切ではない。
より重要なのは、経済ファンダメンタルズの改善の動きにそって財政赤字が縮小傾向にあるのかだが、両ケースの推計とも縮小傾向にあり問題はないようだ。
政府の基礎的財政黒字化目標である2025年度までに足らない数兆円分の財政緊縮(増税、歳出削減)を早急に行わなければいけないという政策議論は、内閣府の中長期の経済財政に関する試算vに関する誤解に基づいたものであるという認識が必要だろう。
または、内閣府の中長期の経済財政に関する試算の将来のシミュレーションは、予算ベースの推計は誤解を生み、財政議論を歪め、デフレ完全脱却を含む日本経済の健全な成長を阻害するリスクがあるため、予算と決算の恒常的な乖離は安定していることを考えると、財政ファイナンスの状況にとって重要な実際の結果である決算ベースで行うべきかもしれない。
表)夏の内閣府の中長期の経済財政に関する試算での財政赤字、翌1月の改訂で織り込んだ実績、その差が示す予算と決算の差
表4)内閣府の中長期の経済財政に関する試算 部門別収支予測(成長実現ケース)
表4)内閣府の中長期の経済財政に関する試算 部門別収支予測(ベースラインケース)
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司