シンカー:10-12月期の実質GDPは、消費税率引き上げ、自然災害、そして暖冬などの複合的な下押し圧力により大幅な縮小となった。落ち込みすぎた分、1-3月期には反動があるため、新型コロナウィルスの影響があってもプラス成長に服するとみられるが、10-12月期の落ち込みの半分程度しか取り戻せず、両四半期だけでみた成長率はマイナス(年率-2%程度)だろう。消費税率引き上げは、その経済活動の直接的な押し下げ幅より、不確実性を大きくし、消費者と企業の心理をかく乱する悪影響がすさまじく、デフレ完全脱却まで引き上げるべきではなかった。新型コロナウィルスの影響が長引かなければ、4-6月期以降は、外需はまだ弱い中でも、強い投資活動と良好雇用・所得環境に支えられ内需がけん引する形で、政府の経済対策と東京オリンピックの効果もあり、1%程度の潜在成長率をトレンドとして上回る速度に復するだろう。その動きを確実にするため、通常国会で2020年度の本予算が可決された後、消費税率引き上げと新型コロナウィルスなどによる消費者と企業の心理の想定以上の下押しへの対処として、財政拡大に明確に転じる意図を明らかにし、大幅な新規国債発行をともなっても更なる経済対策を策定する必要があろう。この局面で大幅な景気後退に陥り、デフレ完全脱却に失敗した場合、更なる消費税率引き上げはこの先実施することはほとんど不可能になるだろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

10-12月期の実質GDPは前期比-1.6%(年率-6.3%)と極めて弱かった。

消費税率引き上げなどの影響で実質消費が前期比-2.9%と、実質GDP前期比を-1.6%も押し下げたのが落ち込みの主な要因である。

教育無償化の影響で、教育費が消費から政府消費に移し替えられたことも、見かけ上の落ち込みとなっている。

更に、大きな自然災害と暖冬の追加的な消費活動の下押しがあった。

前回の消費税率引き上げがあった2014年4-6月期の前期比-4.8%よりは小さい落ち込みであったと判断できる。

一つ目の理由は、雇用・所得環境が前回より大きく改善していることだ。

2014年1-3月期の実質雇用者報酬は前年同期比-0.7%と減少していたが、2019年7-9月期は同+1.4%としっかり増加していた。

二つ目の理由は、政府の消費刺激策と教育無償化の効果があったことである。

7-9月期の実質消費は前期比+0.5%と、2014年7-9月期の同+2.0%と比較して、駆け込み需要も前回よりはかなり小さかった。

10-12月期の実質在庫の実質GDP前期比寄与度は+0.1%と、7-9月期の同-0.2%の範囲内であり、消費の落ち込みが企業の想定を上回ることはなかったとみられる。

前回の2014年7-9月期には同+1.0%となり、想定外の消費の落ち込みとなっていた。

10-12月期の実質設備投資も同-3.7%と減少した。

中小企業のキャッシュレス決済を含む前倒しの設備投資の反動があったとみられる。

そして、自然災害による建設投資の進捗の大幅な遅れがあったとみられる。

12月の日銀短観でも設備投資計画が良好であり、トレンドは引き続き堅調であると考える。

研究開発、AI・IoT・ロボティクスを含む技術革新、都市再生、老朽化の進んだ構造物の建て替えなど、短期的な景気循環の影響を受けにくい部分の投資は引き続き強さを維持するとみられる。

テクニカルな影響で、民間設備投資のGDP比率は新たな良好な局面の目安である16%を下回ったが、再び上回る展開となっていくだろう。

10-12月期の実質輸出は同-0.1%と弱かった。

財の輸出は弱かったが、ラグビーワールドカップなどの非居住者の購入が伸びたとみられる。

一方、消費の一時的な落ち込みを見込んで、実質輸入も同-2.6%と弱かった。

結果として、外需の実質GDP前期比への寄与度は+0.5%となった。

消費税率引き上げの影響は企業の想定範囲内であったとみられ、2020年1-3月期には、消費と設備投資が反動で増加に転じるとみられる。

政府の経済対策の効果も本格的に発現するだろう。

一方、新型コロナウィルスの影響でインバウンド需要が減少、サプライチェーンの滞りもあり、実質輸出には引き続き減少圧力がかかるだろう。

暖冬の影響なども下押し圧力だ。

10-12月期が消費税率引き上げ、自然災害、そして暖冬などの複合的な下押し圧力により落ち込みすぎた分、1-3月期には反動があるため、新型コロナウィルスの影響があってもプラス成長に服するとみられるが、10-12月期の落ち込みの半分程度しか取り戻せず、両四半期だけでみた成長率はマイナス(年率-2%程度)だろう。

消費税率引き上げは、その経済活動の直接的な押し下げ幅より、不確実性を大きくし、消費者と企業の心理をかく乱する悪影響がすさまじく、デフレ完全脱却まで引き上げるべきではなかった。

新型コロナウィルスの影響が長引かなければ、4-6月期以降は、外需はまだ弱い中でも、強い投資活動と良好雇用・所得環境に支えられ内需がけん引する形で、政府の経済対策と東京オリンピックの効果もあり、1%程度の潜在成長率をトレンドとして上回る速度に復するだろう。

安倍首相の自民党総裁の任期末の2021年度までは財政を拡大してでもデフレを完全脱却し、前回の参議院選挙でのキーワードであった「強い経済」を安倍政権のレガシーとして残すため、1%程度の潜在成長率なみの成長速度を最低限維持し、需要超過幅を縮小させないことが、期限内のデフレ完全脱却のために政府の至上命題になっているとみられる。

その動きを確実にするため、通常国会で2020年度の本予算が可決された後、消費税率引き上げと新型コロナウィルスなどによる消費者と企業の心理の想定以上の下押しに対する対処として、財政拡大に明確に転じる意図を明らかにし、大幅な新規国債発行をともなっても更なる経済対策を策定する必要があろう。

この局面で大幅な景気後退に陥り、デフレ完全脱却に失敗した場合、更なる消費税率引き上げはこの先実施することはほとんど不可能になるだろう。

図)設備投資サイクル

図)設備投資サイクル
(画像=内閣府、日銀、SG)

表)GDPの結果

表)GDPの結果
(画像=内閣府、SG)

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司