シンカー:もし2020年1~3月期の実質GDPがゼロ成長となれば、今回の消費税率引き上げ、自然災害、暖冬、新型コロナウィルスなどの複合的な景気下押し圧力は年率~2%程度となり、前回の消費税率引き上げの倍、東日本大震災の半分と、かなり巨大になってしまうため、過度に悲観的な仮定のように感じる。感覚的に今回の下押し圧力はそれよりは小さいだろう。よって、消費と設備投資を中心としてテクニカルに落ち込み過ぎた反動と、財政規模13兆円程度の経済対策の効果が本格的に出てくることも考えると、新型コロナウィルスの影響を考慮しても、1~3月期がしっかりとしたプラス成長になる可能性は十分あるだろう。経済対策の効果をできるだけ1~3月期に前倒して、景気下押し圧力を軽減することができなければ、デフレ・内需低迷・家計弱体化の問題と比較して財政の問題がまだ深刻ではない中での消費税率引き上げ実施の政府の判断と、その後の政策の遅れが批判されてもしかたないだろう。景気持ち直しの動きを確実にするため、通常国会で2020年度の本予算が可決された後、消費税率引き上げと新型コロナウィルスなどによる消費者と企業の心理の想定以上の下押しに対する対処として、財政拡大に明確に転じる意図を明らかにし、大幅な新規国債発行をともなっても更なる経済対策を早急に実施する必要があろう。新型コロナウィルスの影響が少々長引いた場合でも、雇用・所得の破壊と金融システム不安につながっていないため、終息後にペントアップが一気に出る形で需要が早く回復することで、1~3月期の成長が弱かったとしても、4~6月期に大きくリバウンドする期待をつなぎとめることが大切だ。東日本大震災の時は、3四半期目に実質GDPはペントアップ需要で大きくリバウンドし、3四半期では年率0.5%とプラス成長となっている。現在のところ、東日本大震災の半分程度の過大な景気下押し圧力を念頭に置いてしまっている企業・消費者・マーケットの人々も多いようで、過度な悲観論が心理の悪化とともに自己実現してしまうリスクがある。消費税率引き上げの直接的な影響よりも、外部の景気下押しリスクに日本経済を脆弱にしてしまうことが問題で、デフレ完全脱却まで引き上げるべきではなかったことは確かだ。この局面で大幅な景気後退に陥り、デフレ完全脱却に失敗した場合、更なる消費税率引き上げの実施はこの先ほとんど不可能になるばかりか、その議論さえも国民の反感を招くことになるだろう。政府は2月の月例経済報告で景気は緩やかな回復局面にあるとの判断を維持する方針のようで、2四半期連続のマイナス成長を阻止する意志だと受け止めたい。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

2019年10~12月期以降に日本経済には消費税率引き上げ、自然災害、暖冬などの複合的な景気下押し圧力がかかっている。

更に、グローバルに新型コロナウィルスの影響が圧し掛かっている。

これらの総合的な下押し圧力を数値化するのはかなり困難な作業だ。

できることは、これまでに起こった強い景気下押し圧力と比較して、感覚的にとらえることだろう。

この10年間で、日本経済に大きな景気下押し圧力がかかったのは、2011年3月の東日本大震災と2014年4月の前回の消費税率引き上げであった。

東日本大震災では、2011年1~3月期と4~6月期の2四半期で実質GDPは年率~4%程度も縮小した。

前回の消費税率引き上げでは、駆け込み需要のあった2014年1~3月期からの3四半期で実質GDPは年率~1%程度も縮小した。

今回は、電力問題を含めて経済活動が止まってしまった東日本大震災の4分の1程度、軽減税率もなく経済対策が不十分な中で税率引き上げ幅が1.5倍だった前回の消費税率引き上げと同程度の景気下押し圧力だとする。

そう仮定すると、今回は年率~1%程度の縮小になる。

2019年10~12月期の実質GDPが既に年率‐6.3%の大きな縮小となったため、2020年1~3月期は消費と設備投資を中心とした反動で年率3%程度の拡大となると、その程度の縮小になる計算だ。

特に予想よりも大きく落ち込んだ10~12月期の設備投資は、自然災害による建設・土木工事の着工・進捗が大幅に遅れてしまったことも大きな原因であり、12月の日銀短観でまだ設備投資計画が堅調であったことを考慮すれば、1~3月期に挽回があるだろう。

米大統領選挙で米国の対日貿易赤字が問題視されないために、2019年の貿易収支に影響しないように、出荷を12月から1月以降に遅らせた可能性もあるだろう。

もし1~3月期がゼロ成長となれば、今回の景気下押し圧力は年率~2%程度となり、前回の消費税率引き上げの倍、東日本大震災の半分と、かなり巨大になってしまうため、過度に悲観的な仮定のように感じる。

よって、財政規模13兆円程度の経済対策の効果が本格的に出てくることも考えると、新型コロナウィルスの影響を考慮しても、1~3月期がしっかりとしたプラス成長になる可能性は十分あるだろう。

1~3月期が年率3%程度の拡大となっても、直近3四半期でみれば年率‐1%程度の縮小となり、大きい景気下押し圧力がかかっていることになる。

経済対策の効果をできるだけ1~3月期に前倒して、その程度の景気下押し圧力にとどめることができなければ、デフレ・内需低迷・家計弱体化の問題と比較して財政の問題がまだ深刻ではない中での消費税率引き上げ実施の政府の判断と、その後の政策の遅れが批判されてもしかたないだろう。

消費税率引き上げの直接的な影響よりも、外部の景気下押しリスクに日本経済を脆弱にしてしまうことが問題で、デフレ完全脱却まで引き上げるべきではなかったことは確かだ。

景気持ち直しの動きを確実にするため、通常国会で2020年度の本予算が可決された後、消費税率引き上げと新型コロナウィルスなどによる消費者と企業の心理の想定以上の下押しに対する対処として、財政拡大に明確に転じる意図を明らかにし、大幅な新規国債発行をともなっても更なる経済対策を早急に実施する必要があろう。

新型コロナウィルスの影響が少々長引いた場合でも、雇用・所得の破壊と金融システム不安につながっていないため、終息後にペントアップが一気に出る形で需要が早く回復することで、1~3月期の成長が弱かったとしても、4~6月期に大きくリバウンドする期待をつなぎとめることが大切だ。

東日本大震災の時は、3四半期目に実質GDPはペントアップ需要で大きくリバウンドし、3四半期では年率0.5%とプラス成長となっている。

現在のところ、東日本大震災の半分程度の過大な景気下押し圧力を念頭に置いてしまっている企業・消費者・マーケットの人々も多いようで、過度な悲観論が心理の悪化とともに自己実現してしまうリスクがある。

この局面で大幅な景気後退に陥り、デフレ完全脱却に失敗した場合、更なる消費税率引き上げの実施はこの先ほとんど不可能になるばかりか、その議論さえも国民の反感を招くことになるだろう。

政府は2月の月例経済報告で景気は緩やかな回復局面にあるとの判断を維持する方針のようで、2四半期連続のマイナス成長を阻止する意志だと受け止めたい。

表)2020年1~3月期の実質GDPの結果による3四半期の縮小ペース

2020年1−3月期の実質GDPの結果による3四半期の縮小ペース
(画像=内閣府、SG)

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司