40代になると、老後の費用について心配している人もいるだろう。「人生100年時代」と言われ、今後ますます退職後の生活が長くなると費用もかさむことが予想される。今回は老後にかかる費用とその費用の減らし方、今から老後の資金を貯めるための3つの方法を紹介しよう。

老後にかかる生活費はどのくらい?夫婦二人なら約26万円

老後,費用
(画像=Ruslan Huzau/Shutterstock.com)

自分たちが退職する頃には子供も独立し、老後は夫婦2人での生活を考えている人が多いだろう。総務省の家計調査によると、世帯主が65歳以上、その妻が60歳以上の無職2人暮らし世帯、いわゆる高齢夫婦世帯の1ヵ月の支出の内訳は、以下のようなものであった。

【高齢夫婦世帯の月平均の支出】

食費 6万5,319円
住居費 1万3,625円
水道光熱費 1万9,905円
家具・家事用品費 9,385円
被服費 6,171円
保健医療費 1万5,181円
交通・通信費 2万8,071円
教育、教養娯楽費 2万4,241円
その他(仕送り、交際費、雑費) 5万3,717円
税金・社会保険料などの非消費支出 2万9,092円
合計 26万4,707円

※総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)」2018年、家計の概要より筆者作成

このことから、高齢夫婦の1ヵ月の生活費は「約26万5,000円」であることがわかる。

老後にかかる出費の内訳 医療費の負担には注意

前述の表を見ると、老後の支出で最も多いのは食費の約6万5,000円だ。インフラとして日常的に使用せざるを得ない交通・通信の金額も約3万円はかかると推察される。

他にも、統計によれば医療費は月に約1万5,000円かかっている。持病などもあり保健医療費を心配する人もいるかもしれない。40代の保健医療費は1万764円であるため、高齢者世帯では保健医療費は約1.5倍に増えていることがわかる。(※総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)」2018年より)

実は医療費負担は69歳までは退職していても現役と同じように3割負担。(※厚生労働省「医療費の自己負担」より)70歳以降は2割、1割と負担は減るが、病院に複数回通うと出費がかさむこともあるので注意したい。

【年齢別医療費の負担割合】
6歳〜69歳:3割負担
70〜74歳:2割負担
75歳以上:1割負担
(※70歳以上でも現役並み所得者は3割負担)

老後に緊急でかかる費用は何がある?介護、リフォーム、子供の支援

老後にかかる費用は月々の生活費だけとはいかない。突然の怪我や病気で医療費がかかるかもしれないし、人の寿命が長くなるにつれて住居への手入れも不可欠になるだろう。ここでは老後にかかると予測できる介護費用、リフォーム費用、子供への支援費用を紹介する。

介護費用……初期費用は69万円、1ヶ月で4万6,000円

介護費用はどのようなサービスを利用するかで大きく変わる。介護サービスの利用計画であるケアプランには、利用者の希望や状況に応じて「在宅サービス」をメインにするタイプ、「施設サービス」をメインにするタイプなどさまざまな種類がある。

生命保険文化センターの調査によると、実際に介護を行った家庭が介護に要した費用のうち、一時的にかかった費用の平均は69万円となっている。これには一時的にかかる費用とは住宅のバリアフリー化や介護用ベッドの購入など、公的介護保険サービスの自己負担費用も含まれている。

また、在宅介護の場合に利用できる訪問看護や訪問介護、デイケアなどの公的介護保険サービスの自己負担費用と、介護保険対象外のサービスの費用の合計額の平均は1ヵ月あたり4万6,000円であった。

このことから考えると年間の介護費用は以下のようになる。

69万円+(4万6,000円×12ヵ月)=124万2,000円

この金額はあくまで在宅介護にかかる費用の一例である。介護プランは介護される人の状態、介護をする家族がいるか、どのくらいの時間を介護に割けるかなどでも変わってくる。

リフォーム費用……戸建263万円、マンション254万円

30代で家を購入すると、80歳になるときには築50年近い。老後の生活が長くなるにつれて、家をバリアフリーにしたり、あるいは減築リフォームというダウンサイジングを行ったりと、年代に合った家で快適に住みたいと思う人もいるだろう。

住宅リフォーム推進協議会が2019年に発表した調査によると、70歳以上のリフォーム予算は、戸建で263万8,000円、マンションで254万7,000円であった。戸建でもマンションでも、300万円弱の費用は準備しておくのがよさそうだ。

子供への支援などの費用……結婚式なら167万円

子供が独立しても、支援が必要になることがある。例えば、結婚式や住宅購入などライフステージの変化による支出がこれに当たる。

結婚式の費用について見てみよう。リクルートブライダル総研の調査によると、結婚式で親からの援助があった人の割合は72%で、親の援助額の平均は167万8,000円であった。結婚式の形式もだんだんと変化してきており、3割の親は援助をしていないという結果であったが、親のほうも余裕を持って援助できる資金を準備しておくのがよいだろう。

老後にかかる総費用は?夫婦で7,000万円超に

これらの生活費と緊急費用を足し合わせると、老後の費用計算は以下のようになる。計算は、夫婦二人が65歳から20年間生きると仮定し、10年間の介護費用、持ち家のリフォーム費用、子供の結婚式を含む。

【老後にかかる総費用】

費用の項目 金額
生活費 6,360万円
(26万5,000円×12ヵ月×20年)
介護費用 621万
69万円+(4万6,000円×12ヵ月×10年)
リフォーム費用 263万円
子供の援費用 167万円
合計 7,411万円

多くの人は年金で老後費用をまかなうと思われるが、年金の額も人によってさまざまだ。自分がいくらもらえるかを把握し、足りなければ貯金などで増やすか、老後の費用を抑えるかなどの対策を取りたい。

老後の費用を抑える3つの方法 生活費、住居変更、健康習慣

夫婦で十分な老後資金を準備できればいいが、今後何歳まで生きるのかわからない以上、老後資金は余分に持っておくのが得策だろう。一方で資金を貯めるだけではなく、老後の出費を減らすことも考えておきたい。生活費と住居費、医療費について、削減していく方法を紹介していこう。

方法1,生活費を見直す……家計簿アプリで月間の収支を把握

生活水準を上げるのは簡単であるが、下げるのは予想以上に難しいものである。退職後、急に節約を始めるとストレスが溜まって余計な支出が増えてしまうかもしれない。できれば現役時代から生活費は下げておきたいものである。

高齢夫婦の生活費の中でも食費の次に多くを占めているのが「仕送り、交際費、雑費」だ。交際費については旅行や外出の機会を減らすことで削減できるため、減らしやすいかもしれない。

削減しづらいのは日常的に使う食費や被服費、通信費など日常の生活で出ていく支出である。これらを見直すには、まず家計簿をつけて自分たちが何にどのぐらい使っているのかを把握することが重要だ。

現在はスマホアプリなどで出費の記録をつけることも簡単にできる。「Zaim」や「マネーフォーワードME」などの家計簿アプリはレシートを撮影すると自動的に集計してくれる。また、クレジットカードや銀行口座とも連携することで、月々の収支をすべてアプリ1つで把握できるようになっている。

家計簿で思ったよりも多く費用を使っている項目があれば、削減する方法がないか検討してみよう。例えば電気代やガス代といった光熱費、携帯電話料金などは契約会社を乗り換えることで安くなる場合がある。

方法2,住居の変更を検討する……老後に適した広さの住まいへ引っ越しを

老後は夫婦2人での生活を考えている場合、30〜40代の頃に子供と一緒に暮らしていた家では部屋が余ってしまいもったいない。もし賃貸マンションで生活しているならば、夫婦2人になったタイミングで高齢者にも住みやすい住居への引越しを検討してみてもいいだろう。

都心に住んでいる人であれば、住宅費が安い郊外に引っ越すことも住居費を抑えるための選択肢の1つだ。ただし、スーパーマーケットや病院・子供の家までの距離など考えるべきことは多い。あまり不便な場所に暮らすと余計に生活費がかかることにもなりかねないので早い段階から準備しておきたい。

方法3,病気にならない生活習慣をつける……運動や食事

老後の医療費を抑えるには健康を維持することが不可欠だ。現役時代から病気にならないための生活習慣を構築しておこう。

まずは肥満の予防である。そもそも肥満とは、国際的な肥満度の標準指標であるBMI(Body Mass Index=<体重(kg)>÷(<身長(m)>×<身長(m)>)が25以上のものとされおり、この肥満の状態は糖尿病や脂質異常症、高血圧症、心血管疾患などの生活習慣病をはじめとして数多くの疾病のもとになるとされている。

肥満予防のためにも、定期的な運動、例えばジョギングやテニス、ヨガなどを始めてみてはいかがだろうか。今から始めることで生涯の趣味が見つかるかもしれない。

運動とともに大切なのが食事習慣。仕事中心の生活で食事が不規則になったり、動物性タンパク質や脂質の摂りすぎ、塩分過多、アルコール飲料やジュースの飲み過ぎなどは生活習慣病を引き起こす原因のひとつとされている。予防の第一歩として、バランスの取れた規則正しい食事を心がけることが大切だ。農林水産省が発表している「食事バランスガイド」を見てみよう。

・ごはん4杯まで
・野菜メインの副菜5皿
・肉や魚などの主菜3皿
・乳製品は牛乳1本程度
・果物はみかん2個程度

1日の食事摂取量は上記が理想とされているので、参考にしていただきたい。

老後の資金を貯める3つの方法  iDeCo、個人年金保険、財形年金貯蓄

節約はもちろんだが、老後の資金を貯める方法も知っておきたい。定期預金などの貯蓄での資産運用しかしていないのであれば、下記の3点を検討してみるのもよいだろう。

方法1,iDeCo(イデコ)……3段階で税制優遇が受けられるが60歳まで引き出せない

iDeCo(イデコ)は個人型確定拠出年金の愛称だ。毎月一定の掛金を加入者が拠出・運用し、その運用結果によって将来の年金額が決まるタイプの年金制度。以前は自営業者や企業年金がない会社に勤めている人のための制度だったが、2017年1月からは基本的に20歳以上であれば誰でも加入できるようになった。ただし、掛金の拠出限度額は国民年金の加入区分によって以下のようになっている。

【iDeCoの掛金の拠出限度額】

国民年金の加入区分 対象者 掛金の上限額
第1号被保険者 自営業者 月額6万8,000円
第2号被保険者 会社に企業年金がない場合 月額2万3,000円
企業型確定拠出年金のみに
加入している会社員
月額2万円
確定給付企業年金のみ、
または確定給付企業年金と
企業型確定拠出年金の両方に
加入している会社員
月額1万2,000円
公務員
第3号被保険者 専業主婦(夫) 月額2万3,000円

※iDeCo公式サイト「iDeCoってなに?」、iDeCoの加入資格等より筆者作成

このiDeCo(イデコ)の大きなメリットの1つが税制上の優遇措置が設けられている点。積立時、運用時、受取時の3つのフェーズで、一般的な貯蓄では得られない大きな節税効果を期待できる。積立時は積立金額が全額所得控除に、運用時は運用益が非課税に、受取時も受取額のうち一定額が非課税になる。

iDeCo(イデコ)の注意点は年金資産の運用商品は加入者が選択し、運用リスクも加入者が負担すること。元本割れの可能性もあり、投資に関してそれなりに知識が必要になる。また原則として通算の加入期間が10年以上ある人でないと受給できない。受給できるのは60歳以降で、70歳までに受給を開始しなければならないという制限もある。また原則、途中で掛金を引き出すことができず、掛金額の変更は年1回のため、無理のない額を積み立てたい。

方法2,個人年金保険……所得控除が受けられるが途中解約で元本割れの可能性も

個人年金保険は、契約時に決めた一定の年齢に達すると年金を受け取ることができる保険で、年金の受け取り方によって以下のように分類される。

保険の種類 内容
保証期間付終身年金 保証期間中は生死に関係なく年金が受け取れ、
保証期間後は被保険者が生存している限り
終身にわたり年金が受け取れる。
確定年金 生死に関係なく契約時に決めた一定期間、年金が受け取れる。
保証期間付有期年金 保証期間中は生死に関係なく年金が受け取れ、
保証期間後は契約時に定めた年金受取期間中、
生存している限り、年金を受け取れる。
夫婦年金 夫婦いずれかが生存している限り年金を受け取れる。

個人年金保険の大きなメリットは保険料の所得控除が受けられる点だろう。また、満期まで払えば払った金額よりも多くを受け取れるのが一般的だ。

ただ、契約途中で解約すると元本割れの可能性がある点には注意が必要だ。またインフレにも弱く、大きく物価が上昇した場合は受け取る資産の価値が減少する場合がある。

方法3,財形年金貯蓄……給与から天引きで貯めやすいが解約しにくい

財形年金貯蓄は、財形貯蓄の中でも60歳以降に年金として受け取るための老後の資金づくりを目的とした制度だ。「財形住宅貯蓄」と合わせて、貯蓄残高550万円まで利子等に税金がかからないことが特徴。

ほかの財形貯蓄と同じく、給与やボーナスから一定額を天引きして資金と貯める積立貯蓄である。貯蓄商品としては預貯金のほか、国債や株式投資信託、生命保険などが選べる。受取期間は60歳以降に5年以上20年以内(保険商品の場合は終身も可)とされている。

メリットは会社が給与から天引きしてくれるため貯蓄しやすく、節税効果もある点だ。また、財形年金貯蓄を利用していると「財形持家転貸融資」という住宅ローンも受けられる。ただし、年金以外の払い出しなど目的外の使用の場合は過去5年間分の利子等に課税される。簡単に解約や契約変更ができないため、注意したい。

老後の準備は対策が取れるときから始めよう

老後にかかる費用とそれに対する準備を紹介したが、支出を減らすことや住居の変更、健康的な生活などは早めに始めれば始めるほど効率的なのは間違いない。また、iDeCoや財形貯蓄などの制度に関しても60歳までと期間が決まっている分、利用を考えるなら早いほうが有利だ。老後の準備は老後になってからと思わず、いろいろ選択肢を選べる今から始めよう。

文・松岡紀史(ファイナンシャル・プランナー、ライツワードFP事務所)/MONEY TIMES

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