シンカー:新型コロナウィルスの生産活動への影響を現時点ではどれだけ長く企業が織り込んでいるのかは、3月の経済産業省鉱工業生産予測指数によって部分的に明らかになる。今のところは、3月の予測指数は前月比?6.9%と、2月の上昇を打ち消す減産となっており、企業は新型コロナウィルスの問題の生産活動への影響を織り込み始めたのかもしれない。新型コロナウィルスの問題が長引けば、最終商品の在庫の積み上がりと、中間財にサプライチェーンの損傷の影響が出て、生産・在庫サイクルが悪化するリスクとなる。一方、問題が春先に終息すれば、IT関連財の生産サイクルが上向く中で、ペントアップ需要が出ることを含む強い内需と輸出向け出荷の挽回を背景に、生産活動の持ち直しが思ったより早くみられるだろう。企業の新型コロナウイルスによるサプライチェーン損傷の問題の影響をより強く織り込むとみられる来月の結果で3月の予測指数がどれほど修正されるかに注目だ。
1月の鉱工業生産指数は前月比+0.8%と、12月の同+1.2%に続き2か月連続の上昇となった。
もともと1?3月期には生産活動の持ち直しが期待されていた。
1・2月の経済産業省予測指数は前月比+3.5%(誤差修正後で同+0.5%)・+4.1%とかなり強く、三つの点で、生産活動のリバウンドの可能性を示していた。
一つ目は、10月以降の大規模な自然災害によるサプライチェーンの損傷が生産活動を下押した分の挽回が期待されていた。
二つ目は、10月の消費税率引き上げ後に耐久消費財を中心とした在庫積み上がりへの警戒感によるテクニカルな生産活動の抑制がなくなることが期待されていた。
1月には耐久消費財と非耐久消費財ともに出荷がリバウンドした。
三つ目は、IT関連財の在庫調整が一巡し、5Gなどへの対応もあり、サイクルが上向き、生産の持ち直しが期待されていた。
更に、米大統領選挙で対日貿易赤字が問題視されないために、2019年の貿易収支に影響しないように、自動車を中心に生産・出荷を12月から1月以降に遅らせた可能性もあるだろう。
2月の経済産業省予測指数は前月比+4.1%から+5.3%へ、上方修正された。
一方、二つの点が、生産活動のリバウンドを抑制する力になったとみられる。
一つ目は、春節のタイミングが今年は1月であり(昨年は2月)、生産活動の一部が2月にずれ込むことが下押し圧力となるとみられた。
1月の実質輸出は前月比?4.6%と弱かった。
二つ目は、1月半ば以降に新型コロナウィルスの影響がサプライチェーンの損傷と経済活動の下押しとなり、生産活動へも下押し圧力につながり始めたとみられる。
上下の力関係は、1月はまだ上に傾いていたとみられる。
しかし、2月には新型コロナウィルスの不安と影響がより大きくなり、サプライチェーンの損傷もあり、生産活動の先送りにつながっているとみられる。
新型コロナウィルスの生産活動への影響を現時点ではどれだけ長く企業が織り込んでいるのかは、3月の経済産業省予測指数によって部分的に明らかになる。
今のところは、3月の予測指数は前月比?6.9%と、2月の上昇を打ち消す減産となっており、企業は新型コロナウィルスの問題が生産活動への影響を織り込み始めたのかもしれない。
新型コロナウィルスの問題が長引けば、最終商品の在庫の積み上がりと、中間財にサプライチェーンの損傷の影響が出て、生産・在庫サイクルが悪化するリスクとなる。
一方、問題が春先に終息すれば、IT関連財の生産サイクルが上向く中で、ペントアップ需要が出ることを含む強い内需と輸出向け出荷の挽回を背景に、生産活動の持ち直しが思ったより早くみられるだろう。
予測指数通りになれば、1-3月期の鉱工業生産指数は前期比+2.4%程度と3四半期ぶりの上昇となる。
企業の新型コロナウイルスによるサプライチェーン損傷の問題の影響をより強く織り込むとみられる来月の結果で3月の予測指数がどれほど修正されるかに注目だ。
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司