WRC(世界ラリー選手権)を戦った成功のセリカたち
1980年代~90年代、セリカは世界のラリーで大活躍!
トヨタは2018年、WRC(世界ラリー選手権)参戦2年目でマニファクチャラーズタイトルを、そして2019年はオット・タナック選手がドライバーズタイトルを獲得。ヤリスでのWRC参戦は順調に前に進んでいる。
ヤリスが勝つたびに、かつての日本車の勝利、トヨタの、三菱の、そしてSUBARUの勝利の思い出が懐かしくよみがえってくる。
今回はトヨタ・セリカを取り上げる。1980年代から90年代にかけてのセリカは、世界のラリーシーンに欠かせない存在だった。
その第一走者を担ったのがFR方式最後のモデルになった3rdセリカGT-TS。かなりエッジの立った2ドア・クーペのルックスは好き嫌いがはっきりと分かれたものの、ボクは好きだった。
サファリ3連覇の偉業を達成したFRのGT-TS
1982年秋に登場したGT-TSはWRC・グループBのホモロゲーション用モデルで、200台の限定生産だった。ボクはその1台を買った。
スタイリングも、ツインカムターボエンジンも、WRCホモロゲ用200台限定、といった点にも心引かれたが、購入したいちばんの理由は4リンクリジッドコイルのリアサスペンションだった。
当時、ボクはタイヤテストに力を入れていた。このリアサスペンションは「タイヤ単体の評価がしやすい」と考えたからだ。
通常カタログモデルのセリカ・ターボのリアサスペンションはセミトレーリングアーム式。GT-TSの4リンクリジッド採用は、改造の許容範囲が広く、競技中の整備性を優先した構造だった。なお、GT-TSは改造を前提にしたクルマなので、装備は必要最小限。その分軽量で価格も安かった。
GT-TSのラリー参戦は1983年から。主にアフリカで行われた耐久ラリーに強みを発揮。1984年から86年までのサファリ・ラリー3連覇の偉業を達成する。
4thモデルのGT-FOURが日本車初のWRCタイトルを獲得!
GT-TSの後を受け継いだのは、FWD化された4thセリカ。「流面形」と表されたルックスは旧型とは趣を変え、スペシャルティ度を高めていた。
WRC参戦モデルは1986年にラインアップされたフルタイム4WDのGT-FOUR。グループ Aの5000台規定を満たすのに時間がかかり、参戦開始は1988年になった。が、1990年には強豪のランチアを破り、カルロス・サインツ選手が、日本車初のWRCタイトル(ドライバーズチャンピオン)を獲得した。
常勝マシンに成長!1993年には念願のダブルタイトルに輝く
1989年に登場した5thセリカはいっそうスペシャルティ化が進み、「ニューエアロフォルム」と名付けられた未来志向の装いをまとっていた。油圧アクティブサスペンション、デュアルモード4WS、高度なサウンドシステム、上位モデルには先進的かつ贅沢な装備も用意された。
ラリーのベース車としてはGT-FOURラリーが用意された。ギア比がクロースした特別なトランスミッションを組み込んでいたが、快適装備はいっさいなし。タイヤやホイールも「交換を前提にした」設定。つまり、市販車は細いタイヤと細いスチールホイールを履いていた。
さらにWRCエボリューション用モデルとしてGT-FOUR・RCを開発。このセリカは、サインツ選手とユハ・カンクネン選手の手で、1992年と93年のドライバーズタイトルを、93年にはマニュファクチャラーズタイトルも獲得している。そして94年は、ディディエ・オリオール選手がセリカにタイトルをもたらした。トヨタWRCの歴史の中で、5thセリカが残した足跡は大きい。
短命だった6thモデル。高いポテンシャルを生かせず撤退
6thセリカは、よりスポーツ性能を引き上げると同時に、ラグジュアリー度を高めた。
WRCホモロゲーションモデルのGT-FOURは1994年冬にデビューした。エンジン、サスペンション、ブレーキなどのスペックはいずれも引き上げられ、大型リアスポイラーやフードエアスクープをまとうなど、外観的にも戦闘的な装いになった。
この6thセリカは、ロードカーとしてのパフォーマンスも高く、ハイウェイを飛ばすのも、峠道を駆けるのも楽しく、刺激的だった。
だが、WRCの戦いの場では、シャシーセッティングが上手くいかずに苦戦。さらには、車両規定違反が重なって短命に終わった。
トヨタの長いラリー活動の中で、ボクの最高の思い出になっているのは1975年のラリー・フィンランド(当時の呼称は1000湖ラリー)。TE27型カローラ・レビンでWRCに参戦していたが、ボクは取材で現地に飛んだ。
現地で出迎えてくれたのは、なんと専用ヘリ。しかもパイロットは、フィンランド国内ラリーでランキング上位を占めたキャリアもあるラリー通。彼は、SSで上位を走るラリーカーをほぼ真上の至近距離で追い続けるという、最高の体験をさせてくれた。
ラリー終了後にもすごいサプライズがあった。カローラを勝利に導いたハンヌ・ミッコラ選手のサイドシートで、彼の「神業」を体験できたのだ。余談での締めくくりになってしまったが、どうしても触れておきたかった思い出である。
(提供:CAR and DRIVER)