一棟マンションを所有すると把握すべき事項も多肢にわたり、賃貸経営に関する多くのことを学べます。経営力に優れたオーナーであれば、競合物件との差別化も図ることができるでしょう。一方で一棟を所有する場合、区分所有と違い、修繕に関するコストもすべて自己負担となるため、時には大きな支出を伴うこともあります。
区分所有マンションであれば、毎月修繕積立金という形で将来の大規模修繕にかかるコストを前払いしています。またマンションの区分所有者が各自修繕積立金を支払うことで、マンションとしていきなり大きな修繕費が発生しないように管理されているケースが多い傾向です。しかし一棟マンションの場合、そのような修繕計画も自分で立てなければなりません。
一棟所有者にとっては目を背けたい事実ですが、長期保有を予定している場合はあらかじめシミュレーションしておくべきことです。今回は、一棟マンション保有後に発生する8つの大きなコストについて解説します。
目次
1.一棟マンションの8つの修繕項目と修繕周期
大規模な修繕コストが見込まれるものは主に以下の8つです。
・鉄部の改修と塗装工事
・シーリングの改修工事
・屋根や屋上の防水改修
・外壁の補修工事
・バルコニーなどの防水改修
・エレベーターの交換工事
・アルミ部の改修工事
・給排水管・貯水槽交換工事
それぞれ修繕が必要になるタイミングが異なります。しかし大体の修繕時期を把握しておくことで、将来発生する年間コストのシミュレーションを事前に立てることも可能です。ただし物件が新築か中古か、物件の構造により修繕が必要な時期や修繕コストは異なってきます。そのためこれから紹介する物件ごとの修繕時期や費用の目安を参考にして、想定を調整する必要があることを押さえておきましょう。
ちなみに中古物件の購入を検討する場合は、購入時点の1~3年前に大規模修繕工事が行われた物件を購入するのも戦略の一つといえます。すでに大規模な修繕工事が行われている物件であれば、その分だけ不動産運用に必要な費用が少なくなるからです。この点も物件を選ぶ際の判断材料の一つにすると良いでしょう。
(1)鉄部の改修と塗装工事(3~6年)
一棟マンションの階段などの鉄部やその鉄部の塗装工事は、一般的には3~6年程度が目安とされています。ただサビの状況などによっては期間が短くなることも想定しておきましょう。費用の目安は1平方メートルあたり4,000~5,000円程度です。
(2)シーリングの改修工事(9~12年)
外壁などのシーリングの改修工事は9~12年程度が目安となります。ただし劣化よる亀裂などから水が入り込む可能性があるため、実際の状況を見ながら必要に応じて時期の前倒しも検討しましょう。費用の目安は1平方メートルあたり600~1,200円程度です。
(3)屋根や屋上の防水改修(9~12年)
屋根や屋上に上がることはあまりないかもしれませんが、防水面の劣化などには特に注意が必要です。また雑草が繁殖していたり、排水溝が詰まっていたりするトラブルも考えられます。防水改修の目安は9~12年程度です。費用は塗料によっても異なりますが1平方メートル9,000~1万1,000円程度を目安にすると良いでしょう。
(4)外壁の補修工事(10~13年)
外壁にヒビが入った状態は、見栄えに影響するだけではなく放置しておくと大規模な外壁の剥落事故につながる危険性があります。補修工事の目安は10~13年程度です。費用は外壁材などによって大きく異なり、1平方メートルあたり2,000~2万5,000円程度が一般的です。
(5)バルコニーなどの防水改修(10~13年)
バルコニーでは床部分の劣化などに特に注意が必要です。防水層の劣化を放置しておくと修繕に必要なコストが結果的に増えてしまいます。補修工事の目安は10~13年程度で、費用の目安としては1平方メートルあたり5,000~1万円程度です。
(6)エレベーターの交換工事(25~30年)
エレベーターがある物件は入居者募集の際はプラス要因になりますが、維持コストが発生するという意味ではリスクとなります。メーカー公表の耐用年数などによって異なりますが、一般的には導入してから25~30年を目安に取り替えが必要だといわれています。エレベーダーの交換はメーカーや商品によって異なりますが、少なくとも1,000万~2,500万円程度は想定しておきたいところです。
エレベーターは入居者の命にかかわるものですが、定期メンテナンスを前提として計画性をもって必要な部品だけ交換していくことも方法の一つでしょう。例えばエレベーターのかごを交換すると見た目は新しくなりますが、機能はまったく変わりません。「それに数百万円のコストをかける価値があるかどうか」という視点で工事内容を考えることも必要でしょう。
(7)アルミ部の改修工事(10~25年)
サッシや手すりなどアルミ部の改修工事はその箇所によって改修工事の時期が異なりますが、一般的には10~25年の間を目安に改修が必要です。サッシの場合は窓のサイズによっても異なり、20万~60万円程度が目安となります。
(8)給排水管・貯水槽交換工事(20~30年)
最後は、給排水管や貯水槽、ポンプ関連のコストです。水関連の設備も入居者の生活に大きくかかわるもののため、重要な修繕といえます。給排水管については木造であればそこまで多額の費用はかかりませんが、RCマンションの場合は修繕費用が高額になることが多い傾向です。
貯水槽については、水道直結型であれば修繕はさほど難しくありません。しかし高架水槽形式のようにいったん地下に水を貯めてそこから屋上に水を送り屋上の高架水槽から各部屋へ水を供給する形式だと、屋上に水を送るポンプに負荷がかかります。そのため20~30年でポンプを取り換える必要があります。
2.一棟マンション修繕計画の3ステップ
修繕計画を立てるにあたり、まず修繕が必要な箇所や時期をオーナー自らが把握しておくことが第1ステップとなります。その後、第2ステップとして早めに複数の修繕業者などに対して見積もりを依頼し、第3ステップで自ら検討のうえで修繕計画を最終化する流れになります。
3.一棟マンション修繕計画における3つのポイント
修繕計画の作成にあたって、オーナー自らが押さえておきたいポイントは以下の3点です。
3-1.一覧表を作る
修繕が必要となりそうな箇所と修繕時期、修繕費用の目安を一覧表にしておきましょう。この一覧表を作ることで修繕漏れや思わぬ出費などを防ぐことが期待できます。
3-2.積立額を計算する
一覧表を作成したら、各箇所の修繕に必要な費用の目安から毎月の積立額がいくらになるかを計算して記入しておきます。積み立てをしっかり行っておくことで将来の出費に備えることが可能です。
3-3.実際の費用を入力しておく
修繕後は実際にかかった費用を記載しておくことも重要です。その情報が次回修繕する際の費用の参考になります。
4.一棟マンションの修繕における注意点
一棟マンションの修繕は、物件の規模や築年数などによって金額が大きく異なることを念頭に置いておきましょう。また運用における利回りなども含め、俯瞰しながら修繕計画を立てることも重要です。ただし初めて一棟マンションを保有したオーナーにとっては、適切な修繕計画を立てることは容易ではありません。
必要に応じて不動産投資のプロなどの力を借りることも視野に入れておきましょう。
5.事前の想定が重要
今回は物件保有後に発生する大きなコストについて解説しました。中古物件を購入する場合はこのようなコストが将来発生することを想定し、見積もりを取れるものは事前に取得しておくことが大切です。将来「修繕したくても資金不足で修繕できない」という事態にならないよう、しっかりとシミュレーションしたうえで修繕計画を立てるようにしたいものです。(提供:YANUSY)
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