コンビニエンスストア(以下「コンビニ」と表記)はビル経営において「安定的なテナント」といわれることが多いようです。しかし2019年度にコンビニ店舗数が初の減少に転じました。コンビニは終わりつつある衰退産業なのでしょうか。本記事ではコンビニ市場のプラス材料とマイナス材料を整理して今後の動向を探ります。
成長鈍化していたコンビニ店舗数がついに減少へ
経営しているビルやマンションの1階をコンビニに貸しているオーナーも多いのではないでしょうか。ビル経営においてコンビニは主に以下の4つのメリットがあるため魅力的な存在です。
- 比較的、有利な賃料を設定しやすい
- 他の入居者・テナントの利便性が高まる
- 24時間営業しているので防犯対策になる
- FC本部とコンビニオーナーの契約期間が長いので安定稼働が見込める
しかしこの国内コンビニの店舗数が2019年度、初めて前年比減(マイナス0.2%)を記録。123店舗の減少となりました。その前触れとして以下のグラフを見ると2017年ごろからコンビニ店舗数の伸びは鈍化傾向だったことが分かります。
このデータを見ると「今後、国内でコンビニは飽和しているのでは?」「衰退していくのでは?」という憶測が広がります。コンビニ市場のマイナス材料とプラス材料を整理してみましょう。
ビルオーナー要チェック!コンビニ市場のマイナス材料
これから本格化する人口減少は国内コンビニ市場にとって大きなマイナスですが、これは他の業界にも共通する要素です。コンビニ業界特有のマイナス材料には以下の3つが挙げられます。
- マイナス材料1:カニバリゼーションの問題
- マイナス材料2:ドラッグストアの台頭
- マイナス材料3:24時間営業の問題
マイナス材料1:カニバリゼーションの問題
違うコンビニチェーン間の競争に加えて、同じコンビニチェーン同士の近隣顧客の食い合い、いわゆるカニバリゼーションはコンビニ経営者を苦しめるため議論にのぼることが多いようです。
ただし「市場が飽和しているかどうか」は企業によって見解が分かれるでしょう。2019年11月15日に経済産業省が行った「コンビニ本部ヒアリング(第2回)」でファミリーマートの澤田社長は「市場は完全に飽和していると認識」との見解を示しました。一方、セブン-イレブンの永松社長は「弊社ではまだ飽和という考えではない」と話しています。
マイナス材料2:ドラッグストアの台頭
近年、コンビニの大きなライバルとなっているのが急速に市場を拡大してきたドラッグストアです。コンビニと類似した商品構成にもかかわらず「安売りアイテムが多い」「店舗面積が大きい」などの強みがあり販売金額を堅調に伸ばしています。
マイナス材料3:24時間営業の問題
人手不足やオーナーの長時間拘束などを理由に「24時間営業」というコンビニのビジネスモデルが壁につきあたっています。今後、時短営業店舗が増えたり不採算店舗の閉鎖が続いたりした場合の売上・利益への影響は未知数です。
ビルオーナー要チェック!コンビニ市場のプラス材料
マイナス材料を見る限り、コンビニ経営においてこれまでと同じビジネスモデルが通用しない可能性は高まっているといえるでしょう。しかし以下のプラス材料となる3つの変革を実現すれば状況打開の可能性もあります。
- プラス材料1:時代に合ったビジネスモデル開拓
- プラス材料2:無人店舗・自動決済の導入
- プラス材料3:リテールテックの実現
プラス材料1:時代に合ったビジネスモデル開拓
各コンビニ本部では、高齢化や健康志向などにフィットした新たなビジネスモデルの開発を進めています。一例としてローソンの場合、OTC医薬品(「Over The Counter」オーバー・ザ・カウンター、カウンター越しに販売する薬。いわゆる「市販薬」)も揃えた「ヘルスケアローソン」、処方箋受付の機能を持った「ファーマシーローソン」、シニアやその家族に配慮した品ぞろえの「ケアローソン」などがあります。
プラス材料2:無人店舗・自動決済の導入
無人店舗や自動決済の導入は2019年から本格化している流れです。セブン-イレブンでは2019年11月17日からNTT データと共同で無人店舗の実証実験をスタートしました。またローソンは画像認識 AIや自動決済システムを活用したレジのない店舗『ローソンゴー』を2020年中にオープンすることを発表。商品を手にとって、そのままお店を出るだけで会計が済む仕組みを予定しています。
プラス材料3:リテールテックの実現
2020年2月、経済産業省は「『新たなコンビニのあり方検討会』報告書~令和の時代におけるコンビニの革新に向けて~(案)」をコンビニ業界に提言しました。その中で「リテールテック(小売×テクノロジー)」によるビジネスモデルの再構築の必要性に触れています。これは消費者データを活用することでサービスと質のさらなる向上を目指す考え方です。
「コンビニ=安定的なテナント」という考え方を保留すべき
マイナス材料とプラス材料を整理して分かることは、コンビニの従来のビジネスモデルは通用しなくなってきているものの、さまざまな変革や新しいテクノロジーの投入などによって市場拡大の可能性を秘めているということです。このような現状を前にビル経営者は「コンビニ=安定的なテナント」という考え方をいったん保留しなければなりません。「変革が実現できるかどうか」を長期的な視点で、しっかりと観察することが重要といえるでしょう。(提供:ビルオーナーズアイ)
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